FileNo.3 ロスト-03

 あたしは声を出した。目をパチパチさせて、目の前のチャラい感じの女性をじっと見つめた。それから暫くして、背筋に氷のような冷たい何かが走り、あたしは無意識に――目の前の得体の知れない女性教諭から少しでも離れようと、体をベッドの端へ寄せた。


 あり得ない。親にも友達にも話していない事を、つい今し方に出会ったばかりの人間が、何故こんなに正確に言い当てられる?


「おっ、図星だな? 見たかうーちゃん、第一印象バッチリだ」


「そうかしら……あ、うーちゃんって呼ばないの」


「へいへい」


「さ、坂田先生! この人――!」


「ああ、ごめんなさいね、東さん。大丈夫、怖い人じゃないから安心して。ちょっと気味が悪いかも、だけど」


 ふふふ、と、見透かしたように坂田先生は笑った。……それで、何となくあたしは理解した。


 多分、坂田先生も同じだ。この変な人と同じく、あたしの身に起きていることを分かっていたのだ。理屈は分からない。だが、彼女は何らかの方法によって、あたしの体調不良の理由を見抜き、それを言い当てさせる目的で、この隣のベッドの女性を叩き起こした……そういうことだろう。


 ここに来て、あたしは自分が、ひどく異様な空間に座してしまっていることに気付いた。思えば、あたしは能天気過ぎたのかも知れない。気味の悪いことに付き纏われていても、あたしはどこか、それを気のせいや疲れのせいだと考えようとしていた。見ないふりをしていたのだ。直視してしまうと後戻り出来ない――そんな無意識的で漠然とした不安があったから。


「ま、そう怖がるなって。少なくとも、お前に憑いてるのは、タチの悪い奴じゃあ無えさ」


 こちらの心情を言い当てるように、雷瑚先生なる金色ハリネズミは言った。そして、腕組みをして続ける。


「そもそも、そんなにガッツリ憑かれてる訳でも無さそうだしな。あーつまりだ、何が言いたいかっつうと」


「安心してね、ってこと。……さて、それじゃあ雷瑚先生。後は宜しくお願いしますね」


 坂田先生はそう言うと、すっくと立ち上がった。金色ハリネズミが「何が?」と尋ねると、坂田先生はまたにっこりと笑う。


「何って勿論、東さんの悩みの種の除去、ですよ。診た感じ、この件は雷瑚先生が適任でしょう?」


「うーちゃんいっつもそれじゃん……」


「適材適所です。それに、それを言ったら雷瑚先生は昼間ずっと寝てて養護教諭の仕事は全部私任せだし、この前の会議のときだって――」


「よっしゃあ栄絵、行くか!」


 お説教が始まると踏んだのか、金色ハリネズミはパシンと両足を叩き、焦った様子でベッドの上に立った。それから軽やかに保健室の床に着地し、風通しの良さそうな簡易なサンダルを履くと、あたしの肩にポンと手を置く。


「話は道すがらだ。なぁに任せろ、あたしらはこの道で食ってるプロだ。大船に乗った気で居ろ」


「プロ?」


 あたしは怪訝な表情を隠そうともせず、尋ねた。


「プロって……何のプロですか?」


「そりゃお前、自分の身に起きてることから考えりゃ分かるだろ?


 除霊師、退魔師、エクソシスト、ゴーストバスターズ、寺生まれ――まぁ好きなように呼びな」


 そう言うと、雷瑚先生とやらは快活そうな笑みを返した。はぁ、と返しつつ、あたしは思った。


 


 ――寺生まれはちょっと違うような。

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