FileNo.2 ライフ-01

 覚悟は出来てるな、と、その女性は言った。夕暮れを背に受けて、逆光で顔を真っ黒に染めながら。


 髪の色は、金。私と同じ、煌びやかな、輝きの色。あの人が見たら、何と言うだろう。私よりも綺麗だ、と言うだろうか。それとも、私に微笑んでくれるだろうか。いつかと同じく、私の方が綺麗だ、と。


 小高い丘。私の後ろには、今は葉をつけた桜の木があって、その女性は、私と桜を真正面に捉えていた。私と、桜と、女性と、女性の遠く背後に映る夕陽以外には、何もない。時折風が吹き、穏やかに波を打つように草が揺れる、原っぱが広がっているだけ。……けれど、私には分かった。


 俯瞰する限りは、確かに何も見えない。


 けれど、『何か』がある。夥しい数の蟲が蠢くような、怖気のする『何か』が、私と桜の周囲を取り囲んでいる。


 そして、その『何か』と同質のものを、私は眼前の女性に感じていた。美しい髪を持つ女性。逆光で真っ黒な女性。夕暮れにはアヤカシが棲まうとあの人から聞いたことがあるけれど、正面の女性は、まさしくそれに近しい。


 雪の降る夜よりも遥かに冷たく、暗い。限りなく暴力的な、闇。


 それを、きっと。


 人は、邪悪と呼ぶのだろう。


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