FileNo.1 ブラック - 10
● ● ●
僕はぼんやりと前方を見つめていた。繁華街を、四車線道路に
今日も、いつかと同じ平日だった。僕は最近バイトも大学も休んでいて、下宿先でぼんやりと一人で過ごしていた。そこを友人に連れ出されたのだ。何だか分からんがどこかへ行こうぜ、と、そんな軽い調子で。
心配してくれたのだろう、と思う。
平日の繁華街は、やはり
不意に、
僕はぼんやりと目を横手に移す。大きなトラックが交差点に突っ込んできていた。危ないな、と僕はぼんやりと思った。トラックは僕の真正面へ向かってきていて、僕の足は自然と。
『オレを見捨てるのか。オレを』
止まった。
『お前だけ』
――強い衝撃が僕の体を押した。僕は前のめりに転んだ。
トラックが僕の体のすぐ後ろを走り去っていく。ブレーキ音を響かせながら。
あぶねーだろ、と僕を体当たりで突き飛ばし、自身も転んだ友人が、トラックに怒鳴った。トラックは何も返さずに走り去っていく。友人はカンカンだった。運転手は捕まれとか、酒でも飲んでるのかとか、
「大丈夫か? ってかお前、
「どうして」
「あ?」
「どうして助けたんだ?」
僕が尋ねると、友人はぽかんと口を開けて僕を見つめた。何を言ってんだ、とでも言いたげに。それから彼はバンバンと僕の背を叩いて、「とにかく渡ろうぜ」と横断歩道の終点を指さした。
「でも」
「逆に聞くけどお前、見捨てたい、とかワザワザ思うか?」
『俺もこいつも徹夜してる』
一週間ほど前、スポーツカーの中で告げられた言葉を、僕はぼんやりと思い出した。僕は横断歩道に立ち尽くしたまま友人をじっと見つめた。見つめる僕を、友人は
「なぁおい、お前ホント最近どうしたんだよ。……あ、でもとにかく、そろそろ信号、赤だから――」
「
僕は友人の言葉を
「僕、それになろうと思う」
友人は目をパチパチと
「とにかく渡ろうぜ」
「そうしよう」
僕は久々に腹の底から声を出して、それから、少し笑った。
とても晴れた、秋の日の出来事だった。
【ブラック 完】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます