FileNo.1 ブラック - 08

    ●    ●    ●




 ――鼓膜こまくつぶそうとしているかのような爆音が響いていた。




 僕は手を伸ばしていた。前方に。足は動かない。手だけが動く。眼前には男の姿があった。彼は僕を見て、僕の背後を見て、それから一言、何かを呟いた。




 何を呟いたのか。爆音のせいで内容は一切聞こえない。だが口元の動きで分かった。間違いない。彼はこう言ったのだ。








《すまない、許してくれ》








 彼はくるりと僕に背を向けた。僕は手を――泥だらけすすだらけの真っ黒な手を彼に伸ばしながら、割れた爪先と走って遠ざかっていく男の背中を視界に入れながら、声を振りしぼり、のどが潰れんばかりに叫んでいた。








《オレを見捨てるのか。オレを》








 爆音と共に、凶悪なまでの衝撃が体を貫く。途端、真っ黒な爪先が真っ黒く塗り潰された。それが僕のすぐ前に落ちてきた岩盤がんばんのせいであり、僕は僕の腕が圧し潰されたことを知覚していた。足が動かない理由も、同時に理解する。ああ。僕の半身は潰れているのだ。巨大な岩塊がんかい下敷したじきになって。




 潰れるのだ。




 僕は。








《お前だけ》








 僕は血と共に声を吐いた。




 直後、地が僕をし潰した。

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