FileNo.1 ブラック - 06
● ● ●
「清水剛、大学生。
助手席に座る『
……年齢は四十歳くらいだろうか。深夜二時にもかかわらず、彼は真っ黒なサングラスをつけていた。アビエイタータイプ――マッカーサーが身に着けていたアレだ――のレンズの奥の瞳は全く見えない。しかし、
――もしかして、危険な団体の方々なのではないだろうか。
「両親はお前が二歳の頃に他界。それからは
「あの」
「何だ?」
「その……僕の個人情報は、どこで?」
「こんなもん調べようと思えば
そう言うと雷瑚さんは一つ、大きな欠伸をした。サングラスの男性は何も言わずハンドルをきり、夜道を進んでいく。僕を何処へ連れて行くつもりなのか――そう尋ねるよりも先に、雷瑚さんは言葉で僕の行動を制した。
「
「……ありません」
「『壁』が見え始める前後で何か記憶に残ってる出来事は無いか?」
「……無いと思います」
「だとよ、ボス。やっぱあんたの見立てでほぼ間違いなさそうだ」
ボス、と呼ばれた男性は、何も言わず静かに片手で胸ポケットをまさぐった。やがて器用に煙草を一本取り出し、くわえ、ジッポライターで火をつける。
「吸うんなら吸うって言えよな。臭いがこもるだろ」
「俺の車だ」
男性が低い声で言うのと、雷瑚さんが走行中の車の窓を開けるのは、ほぼ同時だった。赤いスポーツカーは
「えーっと、で、どこまで話したっけ? あ、そうだ。結論から言うとな、剛。お前多分、一族全体で呪われてる」
「……はい?」
「
煙草の臭いが
「具体的に何を切っ掛けとした呪いなのかは分からん。だが今から百二十年程前、お前のご先祖様が働いていた炭鉱で、デカい事故が在ったらしいことは分かった。生存者はお前のご先祖様一人だけ。だが生き残ったそのご先祖様も、翌年『落石による』事故で亡くなってるそうだ。
「俺の調査結果だぞ」
「あーはいはい、
「
「つまり坊さんの日記を盗み見たわけか」
「真っ当な手続きの上での
運転席と助手席に座る二人の
「呪い……」
「信じられねーか?」
まさか、と僕は
「その。こういうのもおかしな話なんですが」
「何だ?」
車は高速道路に入ったらしい。ETCゲートを通って、僕らを乗せたスポーツカーは交通量の少ない大幅な道路へと踏み込んでいく。どうやらかなり遠出になりそうだ。
「助かる方法はあるんでしょうか」
「まともなやり方じゃあ無理だな。お前の呪いは道具や儀式による一般的なそれとはまるで事情が違う。言っちまえば、お前の体自身に刻み込まれてる時限爆弾みたいなもんだ。引き
「なら」
「落ち着け落ち着け。あたしらだって無策で深夜二時に突撃する程、考えなしじゃあない。ま、詳しくは現地で話すから、
「このまま混雑しないなら日の出前には着く」
「げっ、じゃああと二、三時間掛かるのかよ。くっそ、やっぱド田舎はあたしにゃ向いてねえな。どうせ電波も通ってねえだろうし」
「ド田舎?」
「ああ。……あっそうだった、そういやぁ何処に行くのかも言ってなかったな。悪い悪い」
そう言うと、雷瑚さんは助手席からこちらを振り返り、ニッと笑って言った。
「目的地は炭鉱跡――お前のご先祖様が『呪い』を受ける元になった場所だ」
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