FileNo.1 ブラック - 05
● ● ●
《清水剛の携帯で間違いねーか?》
非通知電話だった。
《おーい起きてっかー? まぁ夜中の二時だからなぁ、仕方ねーだろうけど》
「……どちら様ですか?」
《
僕はがばりと上体を起こした。そしてもう一度尋ねる。誰なんですか?
《だからすぐ分かるっつーの。それより今は状況の確認だ。助かりたいだろ?》
「助け……助けてくれるんですか!?」
電話を耳に当てながら、僕はぐるぐると部屋の中を
「助けてください! これ、きっともうあと明日か明後日には僕を――」
《おーちーつーけ。あたしらもベストは尽くす。いま言えるのはそれくらいだ。
で、その言い方だと、方々を走り
「はい。はい! 今は……僕から一メートルくらいのところにあります」
どうやら相手は若い女性らしい。口調は乱雑だが、僕にはそれが逆にしっくりと来た。何というか……『
《一メートルか。ビミョーなラインだな。ちなみに、その『壁』に触れたことは?》
「ありません。というより、届かないから触れないんです。僕に合わせて動くから」
《でも一メートルだろ? お前ん家、
……傘。
僕は玄関に向かい、いつも立てかけてある――ちなみに僕の家に傘立てなんていう上等なものは無い――ビニール傘を手に取った。それから傘の先端を持って、ゆっくりと柄の部分を『壁』に押し当ててみる。
……硬い感触が返ってくる。『壁』は押してもびくともしない。強く振り下ろしてみると、ごん、という重い音がした。
「傘で叩いても……びくともしません」
《へえ。じゃあ……そうだな。『壁』に向かって物を投げたらどうなる?》
何をさせたいのか――それを気にする程の
傘はするりと『壁』をすり抜けて、家の床で
《つまりこういうワケだ。お前の体の一部とみなされるものは『壁』に触れられる。それ以外の物体は『壁』に触れることが出来ない》
僕の試行結果を聞いて、電話相手は気怠そうに言った。そして、続けて告げる。重大発言を。
《逆に言うと、そいつのターゲットはマジにお前だけってワケだ》
「ターゲット……ターゲットってど、どういう意味ですか」
《これまで殺されかねないような恨みを買った覚えは? あ、お前自身が誰かを呪った経験でもいいけど》
「ありませんよそんなもの!」
《わーったわーった、そうがなるな。あ、最後に一つ。
それ、お前から見てどう思う?》
それは、これまでのどの質問よりも
「……すごく」
だから。
「すごく、嫌な感じがします」
僕は率直に――浮かんだままの言葉を返した。
《そうか》
少し間をおいて、電話の相手はそう呟くように返した。その、少し後だった。
部屋の扉を叩く音がして、僕が跳び上がらんばかりに驚いたのは。
「あ、あの、ちょっと待っててください。誰か来たみたいで」
《だろうな》
「え?」
《ほら、早く開けてくれ》
……もしかして。
僕は恐る恐る、電話を片手に玄関の
彼女は白衣を着ていた。掌が
「夜分に悪ぃな、剛。だが
耳に当てていたスマートフォンを白衣のポケットに突っ込んで、深夜の来客――腰まで届いている長く美しい金色の髪が、どこかひどく野暮ったいその女性は、僕にニッと笑いかけた。
「んじゃあ、改めて。あたしの名前は
「……あの」
「何だ?」
「寺生まれは何か違うんじゃないですか?」
雰囲気に飲まれつつ、しかし唯一の抵抗とばかり、僕はそんな下らないことを言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます