FileNo.1 ブラック - 03
● ● ●
その日の僕は、大学の正門からキャンパスへ通ずる
そして、それが初めて『壁』の異常性に気付いた時だった。
その時の僕は独りだった。授業が二限目からだったから、少し遅めの――友人とずれた時間帯でキャンパスに着いたのだ。だから誰かとその『壁』について話し合えたわけでは無い。ただ、その必要も無い程にそれは分かりやすく奇妙で、異様だった。
僕はぽかんと口を開けて、前方のその光景を見つめていた。大勢の学生が坂道を歩いていた。ケラケラと友人同士で笑い合いながら、或いはスマートフォン片手に一人で黙々と。僕はその中で一人立ち止まっていたから、恐らくは複数名に変な奴と思われたに違いない。アホ面以外の何者でも無かったとも思う。だけど仕方ないじゃないか、とも思う。
何せ、僕の前方の黒い『壁』を学生たちは平然とすり抜けていくのだから。
不可思議な光景だった。僕の正面前方、地上三十センチほどのところで浮いている真っ黒な『壁』。学生たちは次々とその黒い壁に直進していく。だがその誰もが『壁』にぶつかることはなく、まるでそこには何も無いかのようにするりと黒い壁を突っ切り、そのままキャンパスへと進んでいくのだ。僕はARゲームを頭に浮かべていた。カメラ越しに、自分の机の上にゲーム・キャラクターが表示されるけれども、実際に手を伸ばしたところで触れることは叶わない。そりゃあそうだ。何せ実際には『存在しない』ものなのだから。
だけど、僕の眼はカメラでは無い。学生たちがするすると黒い壁をすり抜けていくと言うことは、確かにあそこには何も無いのだろう。だがならば何故、僕にあの『壁』が見える?
僕は真相を確かめるべく『壁』に近づこうとした。だが近づこうと歩いても、走っても、『壁』には辿り着けなかった。逃げ水のように、それはずっと僕の前方約二十メートルのところで浮かび続けていて、その相対距離が縮まることは無かった。
……いや、縮まることが無かった、というと
毎日少しずつ、『壁』は僕に近づいていたのだから。
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