24.勝利の先に

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目が覚めると、ケーナちゃんのベッドの上だった。


「あっ、目が覚めたんですね」


体を起こすと、隣でタオルを絞っていたケーナちゃんがこちらに向き直る。


「俺、あのあとどうなったんだ?」


俺が聞くと、顔を少しほころばせたケーナちゃんが口を開く。


「あの後、サイエンさんが私に思いっきりよっかかってくるものですから、何とか顔から地面に突っ込まないようにそーっと寝かせた後、シチア先生に頼んで連れてきてもらいました」

「そうか、シチア先生には悪いことしたな」

「いや、先生はこうなることをわかってたみたいです。『私は彼が勝つと知っていたよ』とも言ってました」


 何それ、予知能力でも使えるのか?


「でも、一日も経たない内に二人とも倒れるなんてな。昨日まで俺が看病してたのに、気づけば俺が看病されてるなんて、とんだ笑い話だ」

「そんなことないです」


 俺が半ば自虐的にそういうと、ケーナちゃんは俺の手を握って否定した。


「聞きました。決闘する前に私は関係ないって宣言してくれてたこと。サイエンさんは、もしあの時死んでしまっていたとしても、私がシトロンちゃんに嫌われないようにって配慮してくれたんですよね。私、それがすっごくうれしかったです」

「まぁ、確かに、そういう意図もあったかもな」


 俺はバツの悪そうに呟き、ケーナちゃんのほうをちらっと見ると、その目に涙を溜め、こちらを上目遣いで見上げていた。


「だからこそ! ……だからこそ、あんなに危険なことをするつもりだったなら、私に相談してくれてもよかったじゃないですか……!」

「……ごめん、それはほんとに、悪かったと思ってるよ」


 確かに、俺があの場所で死んでいた可能性は高い。

 でもだからこそ、死ぬかもしれないとわかってて送り出すより、俺が勝手に出ていったと思わせて、もし死んだときにケーナちゃんが自責の念にとらわれないようにしたかったんだ。

 ……でも、これじゃあ、どっちみちケーナちゃんは自分を責めていたのかもしれない。


「ほんとに、俺が無事に帰ってこれてよかったよ」


 俺がそう呟く。


「本当に、良かったです」


 それに同調するように、ケーナちゃんも繰り返す。


「……もし今回みたいな状況がまた起こったら、次はちゃんと相談する。だから、ケーナちゃんも一人でため込もうとしないで、なるべく相談してほしい」

「……わかり、ました」


 この約束は、今はまだ小さなものに見えるかもしれない。

 でもいつか、この約束は大きな意味を持つんだ、絶対に。

 だから、その時すれ違わないよう、これからもっとケーナちゃんと絆を深めていかなきゃいけない。

 使い魔としても、保護者としても。


「そういえばサイエンさん、マドル先生が危険なことを犯した罰に明日はお説教するらしいですよ」

「はぁ!? 俺まだ満身創痍だし、第一俺は使い魔だからケーナちゃんも一緒に怒られに行くべきでしょ!?」

「ダメです。呼び出されたのは、サイエンさんだけなんですよ?」

「マジかよ……」


 ちょっと間の抜けた話をして、気分が軽くなったのかもしれない。

 雰囲気は先ほどよりよっぽど軽くなって、二人で顔を見合わせると、どちらからともつかずに笑い出した。

 あぁ、怪我を負ってしまったのはつらいが、このために負ったと考えればそれはそれでありだな。

 とにかく、明日以降はまた忙しくなるのだろうから、せめて今日くらいは楽しんでもいいよな?

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