22.成長へと至る道
1
……ミスった。
本当なら一撃も食らわずに、あの主人に一撃を食らわせて終わりにする予定だったんだけどな。
俺の体は、盛り上がった地面に押し上げられ宙を舞う。
宙を飛んでいる最中も地面から飛んでくる石や岩によって、体に多くの切り傷が生まれていくのが分かる。
だいたい、ゴーレムみたいなものを召喚するのなんてありなのかよ。ルールで『俺はこいつに支援魔法をかけられる』って言ってただろ。
……と思ったが、よくよく考えてみれば自身の発動する攻撃魔法については制約はかけてなかったな。これも、俺が確認しなかったせいか。
全く、支援系の魔法しか使わないって勝手に決めつけて、挙句そのルールを確認しなかったせいで負けそうになっているとか、頭を使って戦おうって言っている人間のやることは思えないな。とんだ笑い話だ。
だが、これで俺が死ねばケーナちゃんは助かって、危害を加えられることはないだろう。
どれだけの時間宙に舞っていたのか、ようやく地面に落ちてきた俺は数回バウンドしてそのまま転がって数メートル滑った。
「おい、もうおしまいなのか? その程度が俺のワイバーンを倒した男の実力なのかよ?」
遠くで、俺を煽る声が聞こえるが、意識もだんだんと遠くなっていっているのが分かる。
俺の周囲をゴーレムが囲み始め、刻一刻と俺の死へのカウントダウンが始まる。
「……なんでアニメの異世界って、あんなに楽に攻略しているんだ」
一人、ぼそっと呟く。
神様からはチートを授けられ、主人公は多くの女性からモテる。強い立場の人間や魔物も、主人公がチートを使うだけでコロッと寝返ったり、服従したりする。
どいつもこいつも、人間としての成長が描かれていないものが多く、ただ作者の願望を見せつけられているような気さえする。
だが、それでいいのかもしれない。
俺みたいに物事を合理的にしか見られず、理論的にしか考えられない奴に異世界は合わなかったんだ。
ここで死んでしまえば、そんなこの世界に必要ない人間は消えてしまえるし、何より地球に戻れる可能性すらある。
そう思ったからだろうか。
あきらめようとしていた俺の脳に、声が聞こえた。
◇◆◇
朝、目が覚めてみるとサイエンさんの姿が見えませんでした。
ちょっと出ているだけだろう、と軽く考え、着替え等の準備をしていたのですが、なかなか帰ってきません。
私はもしかして、一人で何か危ないことをやろうとしているのではないか、と思い、急いで部屋を飛び出し、学園の中を探すことにしました。
部屋の扉を開け、階段を駆け下り女子寮の玄関までやってくると、そこには寮が別なはずのシトロンちゃんが怒りと焦りが混ざったような顔をしていました。
「ケーナちゃん、私あれほどサイエンさんは決闘しちゃダメって言ったやん!?」
シトロンちゃんは私を見つけると駆け寄ってきて、開口一番私を叱責しました。
「だから、私はサイエンさんと新しい方法を話し合うつもりで、サイエンさんはマドル先生からいい案をもらったっていうから、それで……」
「やからケーナちゃんは安心して一人で眠ってたって訳!? 今、サイエンさんは中庭でハーキンと戦ってるっちゃけど!?」
それを聞き、私は衝撃を受けました。
「……どうして?」
「そんなの、私に聞かないで! 朝起きたら、
まさか、私がどうして決闘したくないかを聞いたから、一人で戦うことにしたんでしょうか?
「シトロンちゃん、私行ってくる」
「あぁ、待ってって!」
私は中庭に向かって駆けだしました。
これは私が、決闘をしたくないなんて言ったから起こしてしまったのかもしれない。
サイエンさんに迷惑をかけたくないって考えて決闘を止めたつもりでも、結局迷惑をかけてしまった。
私はいつも他人のためと思って行動していたけれど、それは自分がいい子に見られたくってやっていたのかもしれない。
なら今日から、私のために命を懸けてくれた人が決断した日から、私は本当の意味で人のために行動しなくては……!
中庭に到着するころには、跳ねた土でローブの裾が黒く染まっていたけれど、そんなの気にしてる余裕なんかない。
見れば中庭の真ん中では大魔法が発動した後で、サイエンさんが宙を舞っていた。
私は慌てて駆け寄りましたが、人垣に阻まれうまく進むことができません。
「おい、もうおしまいなのか? その程度が俺のワイバーンを倒した男の実力なのかよ?」
奥からサイエンさんを煽る声が聞こえてきます。
まさか、
「サイエンさん! サイエンさん!」
私は精いっぱいの大声で声を上げました。
「は? やっとおでましか。だが、もう遅いぞ。その男はもうすぐ死ぬ。そこで見ておけ」
私の声で人垣は割れましたが、そこで見たのはゴーレムに囲まれているサイエンさんの姿。
そして、ゴーレムの隙間からはぐったりと倒れこんで傷だらけになっているサイエンさんの姿が。
このままでは、ゴーレムに抵抗もせず殺されてしまいます。
「サイエンさん、生きるのを諦めないでください!!」
私は思いっきり叫び、そしてその声はその決闘で私がサイエンさんに届けた最後の言葉でした。
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