21.勝利への一手

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「来たか」


 学園の中庭で戦闘をどう効率よく行うか考えていると、正面からあのハーキンって少年とその仲間たちがやってきた。

 そしてついでに、珍しいもの見たさにやってきたであろう優等デサントクラスらしき男女も十人程度。


「まさか、ポストにあんなものを入れるなんて思ってもいなかったぞ。まあ、どっちみち決闘はする予定だったんだ。手間が省けたのは素直に感謝する」

「ほう、大分余裕なんだな」

「勿論、当たり前だろう? 二つ下のクラスの女が呼んだ使い魔に負けたなんてあっちゃ、一生の笑いもんだからな」

「なるほどな。じゃあ、一生の笑いもんにしてやるよ」

「……ずいぶん大きく出たな。度を越した冗談は時として人を不快にさせると覚えとけ、家畜」


 なかなか口の悪い少年だな。

 俺と素直に話している分真面目な子なんだろうし、ファンタジーに出てくる悪役っぽいかと言われるとそうでもないが、自分より下の立場から叛逆されることはないと考えてそうな話しぶりだ。

 ……世の中そんなシステムでできていたら、下克上なんて言葉は生まれないんだけどな。


「それで、お前の主人はどこに行った? まさか怖気づいたのか?」

「安心しろ。この決闘は俺の意志で、俺の独断で行うものだ・・・・・・・・・。他の人間の意志が介入する隙は無い」


 俺は、しっかりとハーキン、そしてその取り巻きに「この試合にケーナちゃんの意志はない」と宣言し、責任追及がケーナちゃんの方向へと向かないようにする。


「ルールは俺が決める」


 ハーキンは背後から大きなトカゲの様な生き物を出しつつ、そういう。


「お前が戦うのは俺とこのワイバーン。俺はこいつに支援魔法をかけられる。俺は卑怯な手で勝つことはしない。万全な状態でつぶす。だから、お前のためにも開始の合図くらいはしてやろう。どちらかが敗北宣言をすれば終了、相手の言うこと一つに従う。それでいいな?」

「ああ、かまわんさ。それで、あんたが勝ったら俺に何をさせるつもりだ?」

「勿論、お前の命を刈り取る」

「そうか。俺は」

「いらん。敗者になる者の戯言など聞きたくはない」


 何だこいつ、むかつくな。


「そうか。じゃあ開始の合図はなんだ?」

「このコインを投げて、地面に落ちた瞬間が開始の合図だ」


 そう言って、ポケットからコインを出す。

 そして、そのままコインははじかれて、一瞬のうちに十メートルほど上まで舞い上がった。

 よし、とうとう始まる。俺の異世界で最初の、下手をすれば異世界で最後の戦いが。

 集中しろ、奴が来るまでにしたシュミレーション通りに体を動かし、口を動かして勝つんだ。俺は勝てる。


 コインはもう俺の一メートル上まで迫って来ている。


 俺は『守護結界ディフェリオ』を発動する範囲に大体のあたりをつけ、開始した瞬間にまずは身を守れるようにする。

 ワイバーンのほうを見れば、こちらを獲物を見るようににらんでいて、負けられないとわかっていても足が竦んでしまう。

 気づけばコインはもう腰のあたりまで落ちていた。

 ……さあ、秒読みだ。

 コインが落ちる様子が俺の目にはスローに見える。感覚が研ぎ澄まされた状態というのはこういう状態をいうのだろうか。

 コインが靴の高さまで落ち、そして、次の瞬間に地面に落ちた。


「『守護結界ディフェリオ』!」

「殺せ、ワイバーン!」


 俺がすぐさま守護結界を自身の周りに展開すると、同じく開始と同時に駆け出したワイバーンが、結界に激突して一瞬だけ動きを止めた。

 だが、俺もただで止められてはいない。

 自身を守っていた結界は霧散してしまった。


「……風属性に適正が出たって訳か。なら、俺のワイバーンと相性は悪いぞ……! 『業火気弾』!!」


 ハーキンがワイバーンに命令すると、ワイバーンは炎の塊をその口腔に溜め始めた。

 その様子ははっきりいって隙だらけだ。

 使うならこのタイミングか……!


「守護結界ッ!!」

「莫迦の一つ覚えかよッ!」


 ハーキンは俺が守りを固めに来たと思い、更にワイバーンに炎を貯めさせる。

 その炎の球は既に直径で一メートルを超えているはずだ。

 そして、オーバーキルを狙ったその炎の球を発射した瞬間、ワイバーンは自爆・・した。


「……、は?」


 その様子を見て、ハーキンは呆然と突っ立っている。

 こうなることは予想できなかったのだろう。まぁ、当然だな。


「俺が使ったのは守りの魔法でもあり、攻撃の魔法でもある」


 ただ一言、そう告げた。

 ワイバーンは意識を失ったように倒れ込んだが、恐らく命は助かっているはずだ。


「何をした」


 こちらを睨みつけながらハーキンは俺に問う。


「ワイバーンに何をしたんだよ!!」

「ワイバーンの周囲に結界を張った」


 俺は簡潔にそう示した。

 そもそも、内側の物に一瞬でも触れたら霧散するこの結界だが、一撃なら塞ぐことができるのだ。

 元々想定していた運用方法としては、檻を作って攻撃の邪魔をしつつ主人と肉弾戦でもしようかと思っていたのだが、隙があるなら使う。


「ふざけやがって……!」


 だがしかし、ハーキンはそれを聞くと激昂した。


「『石像形成』」


 ただ一言呟くと、土で出来たゴーレムが地面から湧き上がり、こちらに向かって攻撃してくる。


「水は水に、土は土に……」


 そして、詠唱を始めた。


「ゴーレムで時間稼ぎするつもりかッ……! 『守護結界』!」


 何かの大魔法が発動されるのは予測に難くないが、生憎先程の業火気弾とかいう能力を囲うのに俺の中の魔力をほとんど使ってしまったのが分かる。

 防ぐ、囲うのはほぼ不可能だろう。

 どうする……!

 ゴーレムの動きは止まらない。二つ同時に魔法を行使するとは、流石は優等デサントクラスということか。

 ゴーレムをあしらうのに精一杯で、ハーキンに近づくことが出来ない。そしてとうとう、その魔法は発動してしまった。


「『大地隆起し命を喰らえ』」


 俺は詠唱を終ぞ止められず、その身に大魔法と思しき魔法を食らってしまった。

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