20.果たし状

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 翌日早朝。

 まだ日が完全に昇りきらず暗さも残る時間に、俺はケーナちゃんを起こさないよう慎重に部屋を出る。

 紙をこの手に握り締め、男子寮へと向かう。

 紙の表紙には、表示される字幕と照らし合わせて何とか書いた決闘の文字列。

 この決闘が終わったならケーナちゃんに文字の読み書きを教えてもらおうか。

 正直に言うと、ケーナちゃんに迷惑をかけない方法は思いついているが、勝ちまでの道筋は見えない。

 彼らは勇者を召喚したいと考えているはずだから、俺を殺せる絶好のチャンスにやってこないなんてことはないだろう。

 制限時間はおよそ二時間半といったところか。

 俺はそれまでに勝利への道、ビクトリーロードを見つけなくちゃいけない訳だ。


「ったく、記憶はないし、召喚されてすぐ命の危険に晒されるし、神様ってのは俺に対してはかなりの難題を要求してくるんだな」


 ケーナちゃんはシトロンちゃんから決闘相手の名前を聞き出していたみたいで、その名前が書かれたポストに俺は握った紙を投函する。

 その名は『ハーキン・タリス』。ほんとに、名前を聞いててくれたのが唯一の救いだ。名前が無きゃ、ケーナちゃんに迷惑をかけずに戦うってことは出来なかったわけだからな。

 ともかく、これで決闘はほぼ確実に取り付けられたはずだ。

 さて、残る問題は俺がどうやって勝つか、だ。

 とりあえず、『守護結界ディフェリオ』についての運用方法を考えてみるか。

 まず、守護結界は魔導書では『窒素の分子間の距離を固定し、箱を作り出す』という魔法らしい。そしてその箱はその場から動かすことが可能で、その箱を潰してみる、というのは俺が初めに考えたことだ。断熱変化の話だな。

 しかしこの守護結界、外側からの衝撃にはある程度耐えられるものの、内側に物があった場合に圧縮すると、魔法の強度に左右されずものに触れた瞬間に結界は霧散してしまった。

 つまり、この守護結界を使って人や生き物は圧殺することが出来ない。

 動かせる盾、として使えるのかもな。だが、これでは必勝の一手とはなり得ないだろう。

 もっと、仕込み刀のように相手の予想しない一手を考えなくては。

 決闘は確か使い魔同士の戦いで、主人は基本はアシスト役に徹する、というのがルールなはずだ。

 そう考えると、使い魔の行動を制限するのが一番手っ取り早く、決闘に勝利する方法だろう。


『君の今使った魔法はどうやら防御重視のようだ。だが、『守らば即ち余り有りて、攻めれば即ち足らず』という諺もある。君は如何にして防御を攻撃とするか、という点を念頭に置いて戦うといいだろう』

「……なるほど、そう言うことか。シチア先生には感謝どころじゃ済まねぇな」


 あった。思いついたさ。

 如何にして防御を攻撃とするか。

 この方法は、言葉の通り防御を攻撃に転用したことになるだろう。


「あとは、あの生意気で自分が一番だと思っている餓鬼にお灸を据えてやるだけだな」

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