19.親友

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「私、やっぱりサイエンさんのためにも私のためにも、決闘はやめたほうがいいと思います」


 ほう。


「どうしてそう思ったんだ?」

「……」


 おかしくないか?

 そもそも人間が何かを行動に移す時、そう思い至るには殆どの場合原因があるんだ。

 大体、決闘というものの存在を知らなかった俺に決闘の存在を教えたのは他でもないケーナちゃんで、昨日までは練習に付き合うほどの気合いの入れっぷりだった。

 原因はなんだ?


「俺は君と出会えたんだから、せっかくならこの縁を手放したくないと思っている。なぁ、教えてくれ。何がケーナちゃんをそう考えさせたんだ?」

「……、シトロンちゃんが、先ほど来たのは知っていると思います」


 深刻そうな顔で少し悩んだ様子を見せたケーナちゃんは、その顔を若干曇らせながら話し始めた。


◇◆◇


 シトロンちゃんは幼馴染で、私がこの学園に入学したとき唯一私と仲良くしていてくれた友達でした。

 他の小さなころから一緒にいた友達は私がこの学校の中等サヴァクラスで入学したのを知ると、途端に距離を置くようになりました。

 そしてその友達たちは皆共通して高等トゥルククラスか優等デサントクラスで入学していました。

 恐らく縁を切られたのでしょう。

 そして、やはりシトロンちゃんも優等デサントクラスに入学しました。

 だけど幼馴染だったシトロンちゃんは、他の人たちとは違って私とはいつも通りに接してくれたんです。

 だからでしょうか。いつの間にかシトロンちゃんは私の中でどんどんと大きな存在になっていって、気づけば困ったときはいつもシトロンちゃんに頼るようになっていたんです。

 そして。

 今日もそうです。今日も、私の休みを知ったシトロンちゃんが私のもとにやってきて休むことになった理由を気さくに聞いてきたんです。

 私はサイエンさんの魔法の練習に付き合っていた疲れが出ただけだから、そんなに心配することじゃないよ、と伝えました。

 しかし、その説明だけではシトロンちゃんは満足しなかったようで、何故付き合うことになったのか、どうして魔法の技術が上達しないといけないのか、細かく聞かれました。

 そして、私が優等デサントクラスの男の人と決闘しようと考えていると伝えたあたりで、シトロンちゃんは私を思いっきり止めました。

 恐らく、同じクラスだから彼らのこともよく知っていたんでしょう。

『挑めばあなたの使い魔は確実に死ぬ。よくて重症になっちゃう。あなたが本当に使い魔を大切にしているんだったら、彼を無理させないで』と言われました。

 もしこれを無視したら、サイエンさんを失ってしまい、そしてシトロンちゃんも忠告を無視したと私から距離を置いてしまったら、と考えると……、私は怖くて、怖くて……!

 だから、決闘しないで穏便に解決しようと思ったんです。

 穏便に解決できる方法を、今から探しましょう……!


◇◆◇


 気づけばケーナちゃんは瞳から大粒の涙をこぼし、布団のシーツが皺になるほどに拳を握りしめていた。


「なるほどな。よくわかった」


 要するに親友から止められ、忠告を無視したら縁を切られると過去の経験から思ったケーナちゃんは縁を切られるのを恐れて決闘を起こすのを止めようと考えた訳か。

 ついでに俺のことも考えておいてくれてるみたいだし、俺のことが嫌いになって見捨てよう、なんて選択肢を取ったわけじゃないことが分かって安心したぜ。

 今までケーナちゃんは俺のことを考え、俺の特訓に付き合ってくれていたんだ。

 男サイエン、ここで恩返しをしなくていつするっていうんだよ。

 あるさ、ケーナちゃんが親友を失わず、そして俺は勝利する方法がさ……!


「話してくれてありがとう。それで決闘のことなんだが、実はマドル先生にいい方法を聞いているんだ。だから、今日は安心して眠っていいんだ」


 これも出まかせだ。明日、マドル先生に迷惑はかけるわけにはいかない。

 これは俺一人で解決するべき問題なんだ。気づけば外は暗くなり始めている。


「明日のことは、気にせず大船に乗った気持ちでいるといいよ」

「ありがとうございます。……でも、一つお聞きしたいのですが、マドル先生の案というものは何ですか?」

「それは明日のお楽しみだ」

「……わかり、ました」

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