16.魔法、研鑽
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俺とケーナちゃんは授業が終わった後、シチア先生から火属性の魔法を教えてもらおうと教卓で作業していたシチア先生に話しかけた。
「あの、シチア先生。私の使い魔さんが火属性の適正なんですけど、この人に火属性魔法を教示していただくことは可能ですか?」
ケーナちゃんが丁寧な物腰でシチア先生に話しかけると、教卓に落としていた視線をケーナちゃんに向け、やさしそうに笑って口を開いた。
「ケーナ君、だったかな? 君はかねてより優秀だと思っていたが、まさかこの青年を召喚したとは驚きだよ。君の使い魔が火属性とのことだが、申し訳ない。教えること自体は可能なんだが、火属性の魔法を使うこと自体には少しばかり抵抗があってね。コツを教えるくらいのことしかできないが構わないかね?」
俺としては本場のプロが使う火属性魔法というものを見てみたかったんだが、本人が使いたがっていないのに教えを乞う立場で無理強いするのは礼儀知らずだというものだろう。
残念だが、ここは教えてもらえるだけよかったとプラスに考えることにする。
ケーナちゃんがこちらに確認をとるように振り向いたので、俺は無言でうなずいた。
「大丈夫です。教えてもらえるだけでもうれしいです」
「うむ、では今日の放課後、中央中庭に来てもらえるかな?」
「了解しました!」
こうして俺は火属性魔法について教えてもらえることになった。
◇◆◇
そして放課後。
中庭には俺とケーナちゃんとシチア先生の三人が立っていた。
「それでは早速レクチャーを始めようと思うのだが、まず初めに使い魔君、そう言えば名前を聞いていなかったね。なんという名前か教えてくれないかな?」
「サイエン、と言います」
もうこの自己紹介にはある程度慣れてしまったな。
多少違和感を感じることはあれど、すらっとこの偽名が出てくるようになってしまった。
まぁ、これしか自分の名前を表すものを知らないのだから当然といえば当然かもしれないが。
「そうか。ではサイエン君、何か火属性の魔法を知っているなら使ってみてはくれないかな?」
そうは言われても、火属性の魔法はひとつも知らない。
ここは正直に知らないと言った方がいいのか。
一応魔導書にあった『
結界は移動することが出来ると実験してわかったので、その要領で結界の容器を作り、断熱圧縮を利用するといった感じに。
だが、この火の起こし方ははっきり言って邪道だ。だって火属性の魔法じゃないんだもん。
少し考えて俺は正直に言うことにした。
「すいません。実は火属性の魔法は使ったことがないんです」
それを聞いたシチア先生は少し逡巡した様子を見せると、表情を変えた。
「では、質問を変えよう。何か使える魔法があればそれを私に見せてもらえるだろうか」
これは普通に守護結界を使えばいいのだろうか。
そういうことだと信じて俺は守護結界を発動する準備をする。
「わかりました。『
呪文を唱えると、深夜にこっそりと練習しているときと同じように俺の周囲に光が漂い始め、そして俺の周囲に結界が形成されていく。
結界が完成したところで十秒程保ってそのまま魔法を解除する。
俺の一連の流れを見ていたシチア先生は、しばらく考えるような様子を見せると口を開いた。
「なるほど……。いやはや驚いたよ。君は……、いや、今は魔法の講評をするとしよう」
そう言って、シチア先生は手に持った杖を使って地面に何やら模様を描き始める。
「君の今使った魔法はどうやら防御重視のようだ。だが、『守らば即ち余り有りて、攻めれば即ち足らず』という諺もある。君は如何にして防御を攻撃とするか、という点を念頭に置いて戦うといいだろう。それで、ほかに何か使える魔法はあるかね」
「いや、申し訳ないですが……。実はこちらにやってくる前までは魔法なんて使ったこともありませんでした」
それを聞いた先生は顔を驚きに歪めた。
「君はそんな世界で一体どうやって生活していたんだ? 火はどうやっておこす? 空はどうやって飛ぶ? 遠距離の情報伝達は伝書鳩でも飛ばしていたのか? 私にはそんな世界で生活できる自信がないな」
まあ、魔法が当たり前に存在していて、何か行動を起こそうとしても魔法で何でも解決できてしまうならそういった疑問が出るのも分かる気がする。
……なるほど、魔法で何でもできるから科学は発展しにくくなって、電気等の科学技術が生まれにくくなっているのか。
地球で世に多く出回っていたファンタジー作品の多くが中世を題材にしていたのはこういう背景もあるのかもしれない。
……だとすると、今現状の科学の発展模様から言っておそらく歴史上で国家間での戦争は起こっていたとしても、世界規模の戦争は起きていないはずだ。この世界の歴史などに詳しくはないので何とも言えないが。
そうすると、むやみやたらに地球上での技術を公開すると世界戦争に利用しようとする輩が出てくるのはほぼ確実だろう。ここは慎重に行動するべきだな。
知識チートを行いたい気持ちはなくもないが、それをしたら俺の人生が破滅に傾くのは待ったなしだろうな。
「そうですね。先生の言う通り元の世界はなかなか生活しにくかったです。こちらの世界に来てからかなり生活が便利だと感じました」
ここは、電気のほうが便利だと思っていても嘘をつこう。シチア先生には悪いが。
「そうか。……、話が少し脱線してしまったな。とにかく、今の君は今読んでいる魔導書を隅から隅まで読むつもりで読み、そして隅から隅まで魔法を使えるようにしたほうが火属性の魔法を使えるようにするよりはるかに効率がいいだろう。私はそれをお勧めするよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「うむ。それではそろそろ私は行かなくては。王宮で仕事があるのでね」
「はい、本当にありがとうございます!」
俺が頭を下げ、礼を言うと先生は俺たちに背を向けて校舎のほうへと戻っていった。
その姿が見えなくなると、不意にケーナちゃんに服の裾をつかまれた。
「どうしたんだい?」
俺がゆっくりと振り返ると、そこには頬を紅潮させたケーナちゃんが立っていた。
「サイエン、さん。私……」
そして、弱々しく声を上げると、あろうことかそのまま芝生に倒れ伏してしまった。
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