13.異世界人の魔導書
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あの後、「それじゃあ、魔法を練習しましょう!」と深夜に言い出したケーナちゃんに夜更かしは乙女の大敵だとかなんとか言って無理やり寝かしつけ、寝息をたて始めたのを確認すると、俺は静かに部屋を抜け出し、裏庭に出た。
なんだかんだ言ってもこれは俺の問題でもある。
昼や暇な時間に練習に付き合って貰うならまだしも、深夜に幼い少女を連れ出すなんてあってはならないことだ。倫理的にも宜しくないしな。
ということで、とりあえず今日のところは俺一人で練習してみようと思う。
ここで大切になってくるのは今日の昼、成り行きで購入されてしまったこの魔導書。
この魔導書の著者は恐らく現代日本人であり、魔法書を書くということは魔法に対してある程度の高い技術を得たということだろう。
と、いうことは、この本の著者に倣うことができれば、俺も魔法をうまく使うことができるようになるだろう、という算段である。
まあ、そうなればいいな、という希望的観測なのだが。
だが、この魔法書を読んで得られることはあるだろう。
さっそく、今日本屋で読んだ次のページを開く。
『それでは、まず魔法の使い方を教えよう。……、と、その前に、私が考える魔法の概念についてだけ話をしさせてくれ』
『魔力については先ほど示した通りの考え方だ。スライムだと考えてくれ。このスライムは大気中に存在していて、各々には形も効果も、そして属性も大差はない。では、何故属性があるのか? どうやら代々魔法を使い続けていると血に濃く属性が刻印され、確定された属性しか行使できなくなるようなのだ』
『……長々と書き連ねてしまったが、簡潔に言うなら、異世界からやって来て、翻訳無しにこれを読んでいる君たちは魔法適正に左右されずに魔法を行使できるのだ』
ほう、言っていることはなんとなくわかる。
だが、本当に魔法を使えるようになるのはかなり難しいぞ。
概念としてわかってはいても、実際に発動はできない。
わかりやすいように例えると、どれだけビデオで知識を溜めても、いざ本番となるとプロと同じテクニックを扱えるようになっている訳では無いのと同じだ。
まぁ、私は経験なんてないんですけどね。
まあ、とりあえず読み進めるか。
『ではまず、簡単な魔法から始めよう。『
ちょっとやってみるか。
「『
……何も起きないんだが?
えナニコレ俺が悪いの?
『勿論これで魔法が使えるようになるならこんな本は要らないだろうね。せいぜい周囲にきらきらとした光が漂えば上出来だ。いいかい? 魔法というのはイメージ力で魔力に形を与える。自身の周囲に半球の防壁を張る、というイメージでもう一度『
この作者は俺をからかっているのだろうか?
まあ、この程度の寒いネタで俺とケーナちゃんが救われるならこれ以上のことはない。
俺は再び、今度は防壁をイメージしながらつぶやく。
「『
俺が呟くと、今度は先ほどとは違い俺の周囲に白く光る粒子のようなものが漂い、しばらくして霧散していくように消えていった。
イメージ力で変わるとこの本の著者は言っているようだが、実のところコツを掴むのはかなり難しい。
俺、これ以上この魔力を発展させられる気がしないんだが。
頑張ってやって精々魔力を目に見えるようにした程度。これを魔法という形にするなんて芸当、本当にできるんだろうか?
こればっかりは魔法を扱える人物に聞くしかないかな。
まあ、それでも自主練はしておくに限る。
あと一時間くらいは一人で粘ってみるか。
「『
「『
「『
◇◆◇
そして一人で練習を始めて凡そ四十五分が経った頃、不意に変化は訪れた。
「『
先ほどまでと同じように呪文を唱えたはずなのに、先ほどまでは光が漂う程度だったのが今回はしっかりと質量を持った魔力の塊として目の前に現れた。
大きさは五立方センチメートル程度の小さなもの。
正直これだけで俺の体を守り切れるとは思わないし、名前負けしていると思うが、これでも大きな一歩であることには変わらない。
「凄い……。凄い、凄いぞ! 魔法が使えた! ハハハハハハハハゴホッゴホッ」
むせてないよ。
ともかく、ようやく魔力に形を与えることには成功した。
なればこそ、これは千載一遇のチャンスではなかろうか。この機会に一気に守護結界だけでもマスターしてしまえば、ケーナちゃんの使える使い魔になれる気がする。
そして練習を続けると、五分後には五立方センチだったのが十立方センチに、十分後には二十立方センチに、と見る見るうちに効力範囲を拡大していき、練習を始めてから一時間半が経つ頃にはぎりぎり全身を覆う程度の大きさまで結界を張れるようになった。
素晴らしいな。
防御しかできないのは厳しいが、ここまで成果が出て文句は言えない。
死ななきゃ安いってやつだ。身を守る方法を確立できただけ今日は良しとしよう。
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