12.召喚されるということ

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 俺は、その『決闘』という単語を聞いた瞬間、脳天を稲妻に打たれたような衝撃を受けた。

 ……という反応をするべきだったのだろうが、残念ながら俺の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。

 勿論、単語で意味を推察できないわけではない。

 ただ、細かいルールの部分となると話は別だ。

 不本意ながら、俺は決闘のルールについて教えを請わなければならないようだ。


「……失礼、決闘と言われてもイマイチピンとこないんだが、そいつについて詳しく教えてもらえないか?」

「勿論です。決闘というのは、この学園内で唯一認められている力業でもめ事を解決する為の手段です。ルールはまずお互いに使い魔を戦わせるんです。そして、主人は使い魔に対しアシストを行う。どちらかの使い魔が戦闘不能になるか主人が一撃を喰らった時点で決闘は終了します」

「随分と単純なルールだな。でも、主人に一撃が入った時点で終了ってことはケーナちゃんに危険はないんじゃないのか?」


 まあ、俺が死ぬ可能性がある時点でケーナちゃんにとっては危険なのかもしれないが、俺としては俺の身よりケーナちゃんを優先したいところではある。


「いいえ、過去には決闘で使い魔が死んだ例や使い魔の技一つで主人が焼死した例もあります。一撃で終了だからと言って主人が危険でないとは限らないのです」


 ……。それもそうか。

 しかし、ならこの方法は穏便に済ませる方法ではないのではないのか?

 大体、相手がどんな獲物を使うのか、使い魔の攻撃パターンはブレス系なのか、物理なのか魔法なのか。そのどれもが現状明らかではない。

 これほどまでに前情報がない中で決闘を挑むのは些か危険すぎる。

 ここはやはり使い魔として出場停止を進言するべきだろう。


「申し訳ないけど、やっぱり俺は反対する。危険度はかなり高いし、何より現時点での情報が少なすぎる。今のまま戦闘行為を行うというのであれば、使い魔の立場としても、年長者の立場としても、申し訳ないけど拒否させてもらいたい」


 戦争はより多く相手の情報を得たほうが勝つという。

 相手はどうやらこちらが人型の使い魔を呼び出した、という情報をどこからか掴んでいた。

 このことからも、相手は情報戦でも現状の我々より一枚上手だと考えられる。


「確かにそうかもしれません。……というか、そう言われるのでは、と薄々感じてはいました。ですが、ですが私はどうしてもこの方法でサイエンさんとの絆を死守したいのです!」


 俺の考えを知ってか知らずか、ケーナちゃんは少々、というかかなり熱を持った様子で反論してきた。

 ここまでとは、一体何が彼女をこれほどまで熱くさせるのだろうか。


「わかった。ここは俺が折れるとしよう」


 これほど本気になっているケーナちゃんはこちらに来てから見たことがない。

 何故それほど熱くなっているのか理由は後で聞くとして、今は協力するという姿勢を見せよう。


「やった……」

「ただし」


 だが、ただでと言う訳にもいかないだろう。

 ヤバめの不審者ならここは「ケーナちゃんの、お、お、お、ヂュフ、お[自主規制]とかを舐めさせていただきたいでござる……。デュフフ。コポォキョポォ……」とか言いそうなもんだが、生憎と俺は童貞を拗らせに拗らせまくっている。

 無理矢理のシチュエーションは残念ながらNG。

 イチャイチャじゃないと抜けない性分なんだ、こちとら。

 平和が一番、ラブアンドピースってな。

 だから、俺がケーナちゃんに求めるのはこれだ。


「一週間後までに俺がどんな使い魔にでも勝てるような、最強の使い魔そのものになれなければ決闘はしない。これは譲れないよ、いくらケーナちゃんでも」


 余程の莫迦じゃなければ勝算もなしに戦闘を挑むことはまずない。

 もし期日までに強さを実感できなければ、俺は決して戦闘に参加しない。

 俺が異世界で存続出来るかどうかは、ケーナちゃんの教える腕と俺の魔法適性にかかってるという訳だ。

 ケーナちゃんはしばらく逡巡すると、やがてこちらの目を見て強く頷き、


「はい! 絶対、絶対強くなりましょう! ほかの何者よりも!」


 と、そう言った。

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