04.女の子のお部屋とか

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「ここです」


 先程までとは場所が変わり、今は女子寮にいる。

 別に覗きがしたいとか不法侵入だとか、そんなことでは全くない。

 今俺がここにいる理由はケーナちゃんに連れてこられたからだ。


「なあ、本当にいいのか?」


 少なくとも俺の方は間違いを起こさないように本能を理性によって全力で押さえつけるが、ケーナちゃんの方は生理的嫌悪感を感じたりするのではなかろうか。


「大丈夫ですよ。ささ、入ってください」


 だが、ケーナちゃんの方はさして気にした風もなく入室を促している。


「ま、本人が気にしてないならいいか」


 そんな風にして俺は促されるままにケーナちゃんの部屋に入った。


「え……?」


 部屋の中はどちらかと言えば閑散としていて、目立つものは淡いピンクのドレッサーと本棚、そして天蓋付きの大きめのベッドくらいであった。


「なにぼーっとしてるんですか? 早く入ってください」


 ケーナちゃんに腰のあたりを両手で押され、半ば転がり込むような形で部屋に入る。

 部屋の飾りなどで女の子とはわかるが、判断材料はそれしかなかった。

 むしろ、女の子の部屋とはこういうもんなのかもしれないけどな。

 俺の部屋はお世辞にも綺麗とは言いにくい部屋で、机の上にはパソコンとそのコードが散乱していた記憶がある。


「サイエンさん、せっかく来たんだし、お話ししましょうよ」


 そう満面の笑みで呼びかけられ、俺としてはその時点で断る理由は皆無だ。


「ああ、構わないよ」


 そう返事してケーナちゃんが座っているベッドの隣に俺も座る。


「まず、俺から聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「いいですよ! どんどん聞いてください!」


 その元気のいい返事に微笑みながら俺は質問していく。


「この世界には魔法とかってあるの?」


 やっぱり聞いておきたいこの質問。

 あるなら、俺も魔法使いになれるわけだしな。


「はい、あります!」


 お、やっぱりあるんか。

 儀式のときも魔法陣があったからほぼ百パー存在するとは思ってたんだが、確信が持てたぜ。


「あ、ちょっと待ってくださいね」


 そう言ってケーナちゃんは胸の前で両手を握る。


「えいっ!」


 すると、彼女の前に水の球が現れ、それがふわふわと浮いていた。


「おお、すげぇ……」


 俺がその様子に見入っていると、その球は俺の頭上までやってきて、破裂した。


「ぶわっふぅ!?!?」

「あああ! すいません、すいません! 制御を……! あわわわ……」


 俺に思いっきり水を浴びせてしまったからかその場であたふたと慌て始めるケーナちゃんに、水をかけられた張本人でありながら微笑ましく思ってしまう。


「大丈夫だよ、タオルかなんかが貰えればいいから」

「あっ、タオルですか? わかりました。タオルタオル……」


 俺がタオルを要求すると、ケーナちゃんは入り口前の扉へ向かって歩いていき、そのままいなくなった。

 暫くすると要望通りバスタオルを持ってケーナがやってきた。


「ありがとええええええええ!?」


 バスタオルを受け取ると、バスタオルを前に抱いていたせいで見えなかった服があらわになる。

 それはランジェリーの様な姿で、仮にも初対面の男性の前でしてもよい恰好ではない。


「そ、そそそ、その恰好どうしたの?」

「あ、お風呂場に行ったので、そのついでに着替えてきました」


 ああ、なるほど。


「ってなるかぁぁああ!」

「あの、どうされました? この服がお気に召さないようでしたら着替えてきますけど」

「あ、そういう意味じゃないんだ。ちょっとテンパってただけで」


 そこでふと疑問に思う。


「そう言えばさ、ケーナちゃんはなんで俺に対して敬語なわけ? まあ、使い魔の俺がこうやっていうのもあれだけどさ」


 そう、年下だし、たいして違和感を感じず流してきたが、よくよく考えてみれば俺はこの子の使い魔なはずなのだ。

 あ、俺は使い魔って扱いでも異世界に来れたからあんまり気にしてないよ。

 ……、で。その使い魔に対して敬語を使うとは、何かかなりの理由があるんじゃないのか?


「あの、それは、そのー……。ほんとに言わなきゃダメですか?」


 なんだ、そんなに言えないことなのか?

 それほど、敬語を使わないといけないほどヤバい奴だと思われているのか?


「い、いや、言いたくないならいいんだ」


 なんかそこまで言えないことなら逆に怖いしな。


「いや、そうじゃなくって……。あの、サイエンさんは私より少し年上のように見えるんですけど、容姿も整って見えるというか、その……」

「……は?」


 容姿が整ってるとか、少し年上とか、俺は三十路のおっさんだぞ?

 いや、でも自分の容姿を確認したわけじゃないしなぁ……?

 もしかしたら異世界来て超絶イケメンに転生していたのかもしれない!


「ちょっと鏡借りてもいい?」

「あっ、はいどうぞ」


 許可も取ったので、俺はドレッサの前に立つ。


「……ふぅ。いざ、ご対面!」


 掛け声をかけ、ドレッサーの扉を開けるとそこには


「……え?」


 中の下くらいの顔立ちの、高校時代のころの俺がいた。

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