03.契約

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 青髪少女のケーナと一緒に、先生と呼ばれていたマドルさんについていく形で今は校舎内を歩いている。

 なんでも、使い魔を呼んだ生徒は契約室なるところで主従の契約を結ばなきゃならないそうだ。

 それにしても校舎内のはずなのに、なんだか貴族にでもなった気分だな。

 それもそのはず、呼び出されたときに確認した城のようなもの、あれがどうやら校舎だったらしく。

 校舎に入ってみればぴっちりとしかれた赤い絨毯が玄関から廊下のあるほうへと伸び、その上を高そうな服に身を包んだ生徒と思しき少年少女が行きかうさまは、まるで西洋を舞台にしたハリウッド映画のワンシーンでも見ているような気分になった。

 その絨毯の上を歩きながら、視線を右往左往させつつ風景を楽しんでいると、歩みが止まった。

 どうやら例の契約室に到着したようだ。


「ここですか……」


 ケーナはどうやら初めて入るらしく、緊張したような面持ちで扉に目を向けている。


「そう固まらなくても大丈夫ですよ、ケーナ。緊張しているとうまくいくものもうまくいきません。大丈夫、いつもの貴方ならきっとできます」


 マドルさんがそうケーナに声をかけ、そしてゆっくりと契約室の扉を開けた。

 契約室の中は窓がついていて思っていたよりも明るい。

 てっきり黒魔術の召喚の儀式みたいに部屋を真っ暗にしてやるもんだと思った。

 部屋の真ん中には契約用だと思われる赤い布が敷かれた机と、幾何学模様を描く白い線、そして線の上に水晶が置かれていた。


「それでは、サイエンさんはこちらの席にどうぞ」


 マドルさんが椅子を引いたのは机の向かい側。

 別にここでいらん反感を買って関係を悪化させる必要はないので、おとなしく言われた通りに座る。

 席に着くと、俺の向かいに座る形でケーナも席に着いた。


「それでは、契約の儀を執り行います」


 その一言で、この三人しかいない部屋にピンッと緊張の糸が張り詰める。

 流石はベテラン教師。いや見た目で判断したけどこの一瞬で緊張させる能力は新人じゃとてもできないだろう。

 視線をケーナに移動させると、いかにもこわばった表情で水晶の中心を凝視している。

 しかしその様子はどこか遠くを眺めているような感じだった。

 なるほど、これだけ緊張するほどの大事な儀式なんだな、契約の儀ってのは。

 しばらく儀式を眺めていると、ケーナが水晶に手をかざして白い光をその両手に纏わせた。

 すると水晶もその光にあてられたように白く同調し、ケーナの周辺がまるで神域にでもなったかのように幻想的な雰囲気を漂わせる。

 その姿はまさしく女神のよう。

 その姿に目を奪われ呆然と眺めていると、不意に横から声がかかる。


「これで契約の儀の準備が整いました。あとは貴方がこの水晶に手をかざすだけで契約は完了し、晴れて二人は主従関係として結ばれます」


 うーん。

 たしかに異世界という全く訳のわからないところで案内人がいてくれるのはありがたいんだが、三十になったおっさんと幼女が一緒にいたら流石に犯罪じゃないか?

 ま、ケーナが契約をやろうとしてるってことは概ね同意してるってことだろうし、深く考えなくてもいいか。

 なるようになれってやつだ。

 これで楽観視したことを後悔したらその時はその時。

 どうせ現世では冴えない三十路の低給取りサラリーマンなんだ、失うものは何もねぇってやつだよ。

 それにせっかく憧れの異世界にこれたんだ、思いっきり満喫したもんが勝ちって奴でしょうよ?


「分かりました」


 俺は自身の右手をその水晶にあてがい、ケーナの右手に重ねる。

 一瞬ケーナが頬を朱に染めてこちらをチラリと一瞥したが、すぐに何事もなかったように水晶の一点に視線を戻した。

 数秒間手をかざしていれば、かざしている手の甲にスーッと白い線が引かれていく。

 これが契約の証的な奴だろうか?

 それからしばらくしてようやく室内に充満する光が収まると、微笑みながらマドルさんが声をかけてきた。


「おめでとうございます。これでお二人は正式にパートナーとなりました。その手の甲に刻まれた刻印はお二人を繋ぐ証です。どんな逆境が訪れようと、決してパートナーを見捨てず、どんなものもかなわない信頼関係を築いて下さい」


 その言葉で契約の儀は正式に終了したのか、ケーナは顔を緩ませ、安心したようにこちらを見る。


「その、こちらに来てわからないことばかりだと思いますが、これからよろしくお願いします!」


 その澄んだ笑みを見て、俺は自然とこう言っていた。


「ありがとう。こちらこそ、よろしく」

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