第一章【魔導学園編】

02.welcome to ようこそ異世界へ!

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 俺の瞼の裏に日差しが強く照り付け、その光で目が覚める。

 ……ん?おかしいな、俺の部屋こんなに日当たりよかったか?

 気のせいかなんか俺の部屋の中で子供たちが騒いでるって感覚になるくらい近くに声を感じたりするんだが?

 ……ということで、皆さんこんにちは。

 目が覚めてすぐで申し訳ないんだがちょっと目の前の状況を整理させてもらってもいいか?

 頭上に広がるのは快晴、まあ、これはいいだろう。

 次に、目の前の青髪ロングヘアでかなり小柄な女の子。年の頃は十四、五歳ぐらい。かなり容姿は整ってる。こんな子関東のどこを探してもおらんだろ。まあ、許す。

 足元には首都圏にこんな広いところなんてないだろってぐらい広い緑の庭。まあ、許容できんけど許そう。

 少し離れたところにそびえたつ城のような建物。この辺で俺の頭はショートし始める。

 極めつけは、二つの太陽。

 とりあえず地球じゃないどこかって事はわかった。


「……どこじゃ、ここ」


 いやぁ、すごいね、人って極限まで追いつめられると叫ぶことすらできなくなるんやね。

 俺の前には茶髪でローブを着たいわゆる魔法使いのようなお婆さんに、その周りには三、四十人くらいの少年少女たちがいる。

 彼、彼女たちはみんな十五センチくらいの杖を持っていて、いやでも魔法使いが頭をよぎる。


「やりましたよ! 先生! 成功です!」


 目の前の青髪の少女はぴょんぴょん跳ねて喜び、近くにいた女の子と抱き合っている。あ、この子猫耳じゃん。ちょっと触りたい。

 というか、ここまでいろいろ現実と違うもの見せられたら異世界だと信じるしかないよな。

 ってか前々からあこがれてたんよなぁ、異世界。


「ケーナさん、喜ぶのもいいですが、あなたが呼んだ使い魔の方は呆けていらっしゃいますよ?」

「あ、ごめんなさいマドル先生」

「謝るのは私ではなく貴方の呼んだ使い魔の男性ですよ」

「はーい」


 青髪の少女は先生と呼ばれた人に一礼すると、てとてとと俺のもとへ歩いてくる。

 二人の会話を聞く限りだと俺を呼んだのはこの少女みたいだな。


「こんにちは。私はケーナって言います。お兄さん、お名前は?」


 お、話しかけてきた。

 というかさっきまで感じてた違和感ってこれか。

 なんか口の動きと聞こえてくる音がちがかったんだよな。

 イメージでいうと洋画の吹き替えを見てるような、そんな感じ。

 ってか俺の耳って全然知らん言語でも日本語に変換するようになったんか。すげぇな。


「あ、ああ、名前ね、名前……」


 その質問で気づく。

 あれ、俺の名前はなんだったっけか?

 ヤバい、名前とか全然思い出せねぇ。

 ってか、いろいろ思い出そうとして気付いた。

 あれ? 俺、記憶なくなってるぽくね?

 俺の頭ン中のどこを探しても知識しか残っておらず、記憶は断片的にしか入手できない。

 ちなみに、知識 (俺の中では知識、ということにする)は江戸時代の将軍に徳川家康がいただとか、∫f(x)dx=F(x)+Cで積分だとか、そういうものだ。

 で、その知識は残ってるのになぜか昨晩コンビニでケーキを買う以前の記憶はおぼろげにしか残ってない。

 ってか知識を残すんなら名前も残しておけよ。不親切設計か。

 それとも神様が俺をこっちの世界に飛ばしたときにバグが発生したのか?

 どちらにせよ今は名前が思い出せない俺はとりあえず記憶喪失で行く。


「あのー……、どうされました? お体とか悪いんですか?」


 そこまで考えたところで先ほどから俺の返事を待つ青髪の少女、確かケーナは不安そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。

 身長差があるからケーナちゃんが見上げる形になってるのはしょうがないだろう。

 ってか上目づかいで覗き込んでくるの反則過ぎだろ。可愛い。


「あー、ごめん。体とかそういうのじゃなくて……、いや、実際これは体が悪いに入るんじゃないか? まあ、頭はどうかわからないけど体は大丈夫だよ」


 そう言うと、顔をぱっと明るくしたケーナちゃんは再びこちらを覗き込みながら(今度は表情が明るい)、再度同じ質問をしてきた。


「それじゃあ、あの、お名前教えてください」


 さて、困ったもんだ。

 さっきまでの考えなら記憶喪失だって答えてるところなんだろうけど、この子、割と感受性豊かそうだから下手なこと言うとまた心配させちゃいそうなんだよな。

 よし、決めた。


「僕は、サイエン。よろしく」


 サイエンティストから取りました。

 直訳したら科学者、とかそんなとこだろうけど、実際のところ記憶に残ってる知識を確認した限りだと俺って理系の人間っぽかったからな。

 ちょっとダサい気もするけどそれもしゃーなし。

 記憶をセットで持たせてくれなかった奴が悪い。


「サイエンさん、ですね!」


 少女は俺の名前 (ニックネームみたいだけど)を聞いて、喜びながら先生のもとへ走っていく。

 ああ、異世界来て、よかった。

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