久しぶりの公園とありがとう

サエキ(?)とバイト女子(名前忘れた)に絡まれた一件で、クラス中の知ることとなった僕の手術。

その日こそ若干ザワザワとしたものの、次の日になればいつもと変わらない、いつもの学校生活だ。手術前の一週間とは言え、いつものそれとはたいして変わることもなく、いつもの雰囲気と速度で過ぎていった。


いや、サエキとバイト女子とは、ホームルームの前に数回話した。

インプラントは痛くないのかとか、手術はいつだとか、学校は休むのかとか。


それは、興味本位から生まれるちょっとした質問程度の会話だったけど、いままでにはなかったものだろう。かと言ってそれによって何かが変わるわけではないけれど。

そんなだいたいいつも通りの一週間をまもなく終えんとする金曜日の夜。


これで見納めだろうと、久しぶりに山の上公園に向かう事にする。

病み上がりではないものの、数日通わなかっただけで、公園までの坂道は地味に堪える。


継続を絶っただけで、こうも体力は落ちるものかね……

継続は力なりだ。


やや息が上がった状態で、山の上公園にたどり着く。

ついこの間まで僕から失われていた、この街一番の展望が目の前に広がる。


満天の星空に、ポツポツと文字が見える。

断片的な、内容までは把握できないようなもの、


『あ

               が         あ

  

  り

                                    。

                                   う。

          と

       あ              う              』



というわけでもなさそうだ。何となく分かる。


ひたすら同じ言葉を並べている感じのする断片。

閲覧が困難な相手に、なにがなんでも想いを伝えようとする意志の感じる断片。


「こちらこそ、ありがとう。短い間だったけど、楽しかったよ」


伝わるはずのない言葉は、白い息とともに冬の星空に消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る