街灯と肉まんとクラスメイト

ポツポツと、等間隔に並ぶ街灯を頼りに、山の上公園までの坂道を下り、コンビニまでの道を歩いていく。山の上公園周辺は、住宅地からは少し離れているため夜になると極端に暗くなる。道を照らすものは、疎らな街灯と、少ない住宅の灯りだけだ。


僕の視界の大部分を占める暗がりの道は、光が灯る所だけがこの世に存在しているのではないかと錯覚するほど、酷く不安定に思える。


もう何度も行き来している道ではあるが、この時期の夜は比べ物にならないほど暗く、何度通ってもその歩みは慎重になる。


宇宙に点在する異なる星々を渡り歩くような気分で、慎重に進んでいくと、一際主張の激しい世界に辿り着く。


水色の看板が特徴的な、行きつけのコンビニ。

というほど通っているかと言うとそうでもないが、山の上公園に通い出してからは、たまに顔を出すようになったコンビニだ。駅からも、住宅地からも離れている立地のためだろう、僕以外の客がいた記憶はない。


さて、いつ雲に動きがあるかわからない。さっさと肉まん買って、公園に戻らねば。


「えー、肉まん2コ、ください」

レジで注文をしつつ、店員を見る。ん? すげー見られ、てる?


「ねえ、いつもこんな時間になにしてんの?」

へ? 思わず耳を疑う。

正直NPCくらいにしか思っていなかったコンビニ店員が、なんだかプライベートにまつわることを、聞いてくる。なにフランクすぎだろこの店員。


「あのね……この顔見覚えありませんか~?」

見覚えって……ん?

「え……あ、あぁ! 同じクラスの!!」

「てゆうか、今日が初めてじゃないんだけどね。いままでまったく気付く素振りがないんだもん」

「す、すいません……でもほとんど話したこと無いし、さ」

「まあいいけど。で、なにしてん?」

「いや…星を観に」

「……ふーん。肉まん210円ね」

「は、はい」

聞いといてなにその興味のなさ。きっちり210円、お釣りなしの小銭を差し出し、肉まんを受け取る。


声には出さず、会釈のみでその場を後にする。

自動ドアが反応し、凍りついた外気が店内の温度を数度下げたのを感じた。


「ありがとうございましたー」

学友の気の抜けた対応を背に感じながら、コンビニを後にする。


外は相変わらず、空虚な暗闇の中に、ポツポツと頼りなげに世界の断片が浮かんでいる。片方の肉まんをポケットに収め、カイロ代わりにぬくもりを感じながら、もう片方の肉まんをモグモグとほうばる。

どうせならあったか~いお茶でも買えばよかったと思いながらも、またコンビニに戻るのは少し気まずい。


諦めて、既に温度が下がりだしている肉まんをポケットの中に感じながら、暗闇を慎重に進み、坂を越え、再度山の上公園へ向かった。


『 ゎテ

カレの らけだったな。

進化の可能

ワタシの気持 』


たしかに雲が動きは見せている。でもさっきより隠れちゃったね。

時間は既に22時を廻っている。もうしばらく待ってみるか?

ただ些か寒すぎる。それはそうだ、こんな真冬の年の瀬に周りに人気のない吹きさらし。


「っひっくしゅ! くっしゅん!! っっぐしゅん!」

うん、寒すぎ。


ポケットの中ですっかりカイロの役目を終えていた肉まんをほおばる。

ぬるいな。

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