第203話 神になる時

 得意とする土魔法、全てが下位又は上位魔法ではあるがその熟練度はその辺にいる冒険者や魔物の比ではない。

 しかし、目の前の人間の男は五体の蟲を引き連れて自身と互角以上の戦いを繰り広げている。

 今までこんな事は無かった。

 挑んでくる者は全て大した事なかった。

 しかし、こいつはどうだろう。

 百重魔法陣による魔法と強力な一重魔法陣による攻撃、あれは危うく死にかけた。

 だが、その攻撃力を自身の防御魔法が上回ったのだ。

 

「ワレヲ倒シキレナカッタ貴様ノ浅ハカサヲ恨ムノダナ、蟲使イヨ」

「…… 戦闘中に喋るとは随分と余裕だな、だが俺の優勢は変わらない」

「戦況ヲ見極メレナイハ弱者ノ道理、死シテ自ラノ愚カサヲ知ルガ良イ」


 ゴーレムはそう言うと身体から発している光の激しさが増す。

 ゼフはこれを待っていた。

 戦い始めて約十分、ゴーレムの能力などを魔法で無効化する事叶わず、ただ奴の攻撃を防ぐだけだった。

 だが、これは好機。

 そもそもゼフによって超強化された終焉種である蟲達を超える力を持つなど普通ではあり得ないのだ。

 恐らくあの光は自らの全ての能力値を大幅に上昇するものだろう。

 だから、これ程まで追い詰められているのだ。

 だが、その能力には弱点があった。

 それは一秒に満たない硬直を生む事である。

 魔力が無くなるまでに使ってくれて助かったというべきか。

 ゼフは最後になるであろう攻撃を防御する事に努める為に蟲達に命令を下す。

 

「魔力量デハワレニ部ガアル。 諦メルガ良イ、蟲使イ」

「本当にそうか?」

「…… ドウイウコトダ?」

「そもそも魔力が無かったら何故負ける? まだ戦える筈だろ?」

「ソウカ、貴様ハ弱者デハナカッタカ。 愚カナル人間ヨ、今スグニ消シズミニシテヤロウ」


 クリアデリックゴーレムを包み込む光がより一層強くなる。

 そして次の瞬間には、大量の魔法を撃ちながらゼフの前まで距離を詰める。

 あまりにも早いそれは誰も反応ができなかった。

 やがてクリアデリックゴーレムの刃がゼフの防御魔法を二枚を残して砕く。

 それにいち早く気づいた蟲達は防御魔法を重ねがけするがそれにより魔法による攻撃の数が減る。

 だが、それでも展開する防御魔法よりも砕く速度の方が速い。

 魔力が無くなる寸前、クリアデリックゴーレムの動きが硬直する。

 しかも今までよりも長い時間。

 この隙を待っていたゼフ、だがこの明確な弱点をこのゴーレムが知らない筈がない。

 阻害魔法による能力などの無効化は無意味の可能性が高い。

 ならば対象を変えればいい。

 ゼフは蟲達に遺跡へ探知と阻害魔法を使うように命令する。

 これに使用した時間は〇.五秒。

 そして、目的の物を見つけたゼフはドームを解き、そこへサンと共に転移魔法により移動する。

 それに気づいたクリアデリックゴーレムは硬直が解けるや否や遺跡へと走り出す。

 しかし、遅すぎた。


「マサカ…… 貴様ノ狙イハ神ニナル事カ」

「ああ、そうだ」


 クリアデリックゴーレムが振り向くとそこには転移魔法で帰ってきたであろうゼフとサンがいた。

 

「守リキレ無カッタ、貴様ノヨウナ人間ニ……」

「人間? 残念だが、それはさっきまでの話だ」


 ゼフは転移した後のことを少し思い出す。

 目の前には台座があり、そこに飴玉のような物が大切に置かれていた。

 勿論、罠などもあっただろう。

 しかし、終焉種という存在が放つ阻害魔法がそれを無効化できない程やわではない。

 急いで飲み込んだ飴玉、それにより神へと至り、ここに大切に保管されていた神特有の能力により召喚士と蟲達の能力の上昇、更には魔力やリジ、熟練度にすら影響を与えるほどに。

 そう、ゼフがここの神を選んだのは、自信を最弱にする代わりに召喚した蟲という限定的な存在の全ての能力値を大幅に上昇させるからだ。

 蟲…… しかも自身が大幅な弱体化を喰らうという事で普通ではなる事すらあり得ないが、ゼフという人間に関しては相性が良かったのだ。

 その神の名は……


「ゼフ・ザ・インセクタント、これが俺の新しい名前だ。 お前はすでに格下だ、それに……」


 ゼフは森の方へ探知魔法を使う。

 そこには漁夫の利を狙った様々な種族の生物。

 正直、このゴーレムを倒したからと言ってこいつらを相手にしなければならなかった。

 だが、探知魔法が隠蔽魔法や阻害魔法を貫通している。

 つまり、熟練度に圧倒的という程の大きな開きがあるのだ。


「関係ナイ…… ワレハ貴様ヲ――」


 そう言い切る前に何かがクリアデリックゴーレムの右腕を掠める。

 いや、掠めたというのはそう感じただけで、実際には腕がなくなっていた。

 すぐに回復魔法を使おうとするが、次はもう片方の腕が飛ぶ。

 魔法が割れるのが速すぎて全く反応できないようであった。

 熟練度が上がれば魔法の発動するまでの時間を短縮できる。

 神になった事により蟲達の能力や魔法の熟練度がかなり上昇した。

 相手になる筈ないのだ。


「ワレガ反応デキナイダト……」

「残念だ、お前はあの時能力を使わずに戦い、俺の魔力を枯らすべきであった。 そうすれば、遺跡へ侵入することもできなかっただろう。 だが、お前の性格上それは不可能だったがな」


 明らかに見下した発言、それによりゼフは一つの仮説を立てたのだ。

 遺跡を守ってきたこいつは自分に絶対的な自信がある。

 そんな奴に魔力の基本すら知らない奴に殺されかけたと分かれば激昂すると。

 案の定、それは成功した。


「マダダ…… 貴様ノ魔力ハ残リ僅カ、ワレガ負ケハ確定シテオラン」

「いや、負けは確定している」


 インセクタントという神が力を発揮するにはかなり限定的である。

 召喚士から召喚されており、蟲である事。

 更に代償として自身の持つ召喚士に必要ない能力と魔法を全て奪う。

 だから、これらを全て満たしたこの神は最強と言ってもいい力を今も発揮している。

 それは蟲が使用する魔力の量を百分の一にし、蟲が使用した魔力に限り回復速度を百倍にする。

 そして、蟲達が使う魔法や能力の効果の威力も上昇、共有などが行うことができる。

 

「お前を踏み台だ、俺はここで立ち止まるわけにはいかん」

「貴様ヲ――」

「消えろ」


 ゼフがそう言うと、クリアデリックゴーレムは無数の魔法に包まれその場から跡形もなく消え去った。

 

 

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