第202話 隙
攻撃魔法、それは様々な属性がある。
火、水、木、風、氷、土、光、闇、無に分かれる。
そんな属性だが知らない間に増えていたりする事など珍しくない。
殆どの者は下位魔法は全ての属性を覚えることが多く、属性を絞るのはそれ以上の高位の魔法からだ。
しかし、覚えたものの全ての属性の魔法の熟練度が高いと言われるとそんな事はない。
やはり下位魔法も一つないし二つに絞るのが強いとされている。
この方法のメリットとしては相手に自分の得意な属性を悟らせない為と弱点をカバーできるなどが挙げられる。
今、目の前に展開された魔法陣からはストーンエイジという三メートルは軽く超えている尖った巨大な岩を相手へ向けるという魔法である。
ゼフはそれに反応できなかった。
だが、予め張っていた防御魔法のお陰でその一つと相殺する。
しかし、一万はあっただろうそれが、今の攻撃により約六〇〇〇にまで減少する。
それを目の当たりにしたゼフは頭の中で蟲達にその魔法を防ぐよう命令する。
蟲達はそれに従い魔法や能力、そして自らの身体に携わった武器により行動を開始するが、その魔法には一つ一つに大量のリジが込められていた。
その魔法の強力さは運良く後ろに逸れた一つ、それが地面に当たると同時に草木を薙ぎ払い巨大なクレーターを作る。
それを確認する事なくゼフは叫ぶ。
「サン! 掴まっていろ! ハ・ダース、このままクリアデリックゴーレムの元へ行け!」
その命令に迅速に従うサンとハ・ダース。
ゼフはハ・ダースの背中に乗ると、遺跡の方へ向かい始める。
時間にして数十秒だろう。
だが、その間にも大量の魔法が星を壊さんとばかりにゼフを襲う。
しかし、それは予想通りすぎる攻撃。
ハ・ダースは魔法でそれを相殺しつつ、避けれるものは避ける。
避けたストーンエイジは地面に直撃するが、星という存在するリジがそれを巨大なクレーターに抑える。
そして、ゼフは更に命令を下す。
「ハ・ダース以外は別々のルートから遺跡の方に来い!」
分散させてクリアデリックゴーレムに出来るだけ魔法を使わせ魔力を減らす。
もしかすると微々たる違いかもしれない。
しかし、やらないよりはマシだ。
やがて遺跡に到着したハ・ダースはそこで足を止める。
目の前にはダイヤのように煌めいている丸い石に赤く点滅している瞳、そこから太く硬い手足や身体のあらゆる所から水晶クラスターのようなものが生えているゴーレムが立っていた。
こいつがクリアデリックゴレーム、本能が間違いないと告げている。
種族は強くても魔王種の二段階上である滅種だろう。
覇王種は流石にこんなに弱くはない。
それに少し安心を覚える。
「覇王種だったら勝つ事は難しかったが…… こいつならまだ分からないな。 俺は運がいい」
「…… チョウセンシャヨ」
ゼフはそんな事を呟いていると、ゴーレムがいきなり声を発しそれに驚く。
普通、この段階で言葉を発する魔物は珍しい。
終焉種なら分からなくもないが…… いや、ゴーレムという魔物は例外で、元々知能が高いのかもしれない。
そこは自分の知識不足である。
と考えている間にも全ての蟲が遺跡に到着する。
これで勝つ可能性はできた。
後はこのゴーレムがどう出るかである。
現状、土魔法を極めていると思われるこのゴーレムは一種類の魔法しか使っていない。
これがこの後の戦いにどう影響するかが問題である。
「ワレノ試練ヲノリコエシ強者ヨ。 汝ハ神ニナリタイカ」
「…… ここに来た理由は一つだ。 それ以外はない」
「ナラバ、我モココヲ守ル者トシテ戦オウ」
「残念だが、俺はそんなつもりはない」
ゼフが合図を送るとクリアデリックゴーレムの足元から巨大な火の柱が現れる。
それは徐々に大きくなっていき、やがて遺跡を包み込まんほどの大きさになる。
百重魔法陣にて放たれるフレアピラー、魔力の消費は激しいが威力は抜群である。
だが、ゼフはそれで油断しない。
更に追撃するように蟲達に命令を下し、同時にドームを展開する。
コア・クリムゾンは火を、ハ・ダースは闇を、そして三体のバイロスは無と、それぞれ得意な攻撃魔法を使用する。
勿論、リミッターは解除してある。
「ハ・ダースは魔力を枯渇させるなよ。 他は全魔力を使ってでも殺せ!」
蟲達の攻撃はその言葉で更に増す。
この感じでは近づくことができないだろう。
物理攻撃ができないのは痛いが、これが今一番火力が出るやり方なのだから仕方ない。
フレアピラーが徐々にその大きさを縮小させてきたので、攻撃魔法を止めるように命令を下す。
そこには煙を上げながら傷を負っているクリアデリックゴーレムが未だ立っていた。
ゼフはそれを確認すると、更に畳み掛けるように命令する。
その時、何かがゼフの顔の横を通り過ぎる。
一体それは何かと顔を後ろに向けると、そこには小さな石がバイロスの防御魔法を二〇〇枚程貫通していた。
「愚カ…… 百重魔法陣ニヨル魔法デ決メキレナカッタ貴様ハ勝テナイ」
クリアデリックゴレームはそれだけ言うと、大量の魔法陣を展開する。
そして、放たれる様々な土属性の魔法。
その中には先程の小石を放つ魔法であるストーンショットもあった。
それに対抗すべく魔法などで応戦する。
しかし、かなり厳しい状況である。
二重魔法陣などは魔法陣と魔法陣を重ねる行程がある。
つまり、それが多くなればなるほど時間がかかるのだ。
その重ね合わせるという工程に阻害魔法は有効である。
つまり、気づかれないようにするか恐ろしく早く行えば使用する事ができる。
しかし、それは既に警戒しているクリアデリックゴーレムには不可能。
だが、そうでもしないと早期決着が叶わない。
そんな事を考えていると、クリアデリックゴーレムは隙をつき回復魔法を使用する。
「しまっ――」
「遅イ」
魔法による攻撃を行いながらクリアデリックゴーレムは単身でこちらに突っ込んでくる。
その身体は恐らく何かの能力だろう、白く輝いている。
クリアデリックゴーレムの両腕が鋭利な刃物に変わったかと思うとそれがゼフの防御魔法を貫く。
しかし、一度では終わらない。
何度も何度も何度も何度も。
新たに防御魔法を使う事で耐えれているが、それも時間の問題である。
と思っているとクリアデリックゴーレムが後ろに飛び下がる。
どうやらバイロスの攻撃を察知したのだろう。
ゼフは自分を守るような陣形を取る。
だが、未だに勝機を見出せていない。
「クソ…… あれは一体なんの能力だ? それにいつ奴に阻害魔法と弱体化魔法が届く?」
段々と焦りが増してくる。
それを感じ取ったサンは抱きしめる力を強めるが、ゼフはそれに気付かない。
それ程まずい状況なのだ。
勝てないのか、そんな事を思っていると光を発しているクリアデリックゴーレムの動きが一瞬止まる。
「…… あれは?」
一秒にも満たないそれ、その瞬間に魔法による攻撃が落ち着いたような気がした。
ゼフはようやく勝機を見つけ出す。
だが、成功するかは賭けだろう。
それを悟られないようにクリアデリックゴーレムに攻撃を続けるのだった。
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