第201話 ゴーレム

 遺跡の近くの森、ゼフはそこにある木の一つにもたれかかり魔力を回復させながらこれからの事を考えていた。

 現状、勝ててはいるがこの先は更に厳しい戦いになるだろう。

 何故なら強者は力を求めて星を出るというのが常識だからだ。

 だから、星に残っている奴などいわば残りカス。

 本当の敵は星の外にいるのだ。

 その為にリジと魔力を増やさなければならない。

 しかし、魔力はこの世界では貴重なものだ。

 無闇矢鱈に魔法を使えない。

 だが、リジはそういう心配はいらない。

 身体に巡らすように動かす、たったそれだけで量と質は増す。

 とは言っても、やはり戦いの中で使用する事こそが一番の近道だ。


「ここまで来れば仕方ないか……」

「ゼフ様、どうされたのですか?」

「別になんともない、気にするな」

「…… 分かりました」


 そう返事はするもサンは心配でならなかった。

 まるで昔の自分を見ているみたいで。

 そして、それは合っているという不幸な事実。

 ゼフは更なる代償を使いリジ、魔力、召喚魔法、蟲達の四点を強化する事を考えていた。

 リジは代償により簡単に強化する事が出来る。

 だが、誰もやらない。

 何故なら代償で失ったものは生涯使うことができなくなり、それは明確な弱点になるからだ。

 しかし、ゼフにとってそれは間違いだ。

 代償は凡人が最強になる為に必要な事であり、それ無くしては辿り着けないとものだと考えているからだ。

 勿論、ゼフのように代償と相性がいい場合に限られるが。

 

「…… さて、そろそろ行くか」

「はい、ゼフ様。 ところで…… どうして魔力を回復したのか聞いてもよろしいですか?」


 ゆっくりと立ち上がったゼフは忘れていたとばかりにそれに答える。


「ああ、構わない。 理由としては簡単だ。 遺跡…… そこにいる守護者と戦う為だ」

「守護者ですか?」

「そうだ、この星で恐らく最強の魔物……クリアデリックゴーレム、そいつを殺さない事には俺が望む神になる事はできない」

「つまり…… 魔力を回復しているのは、その魔物を確実に倒す為であるのと、それ程強いという事ですか?」

「そうだ…… 今まで戦ってきた奴ら、そいつらとは比較にならないだろう。 それに…… クリアデリックゴーレムの情報が少ない」

「その魔物に挑む人がいなかったという事ですか?」

「いや…… 挑んでいる奴は沢山いた。 別に神にならなくてもいいからな。 だが、そいつらは一人残らず死んだ」

「だから…… 情報が少ないという事なのですね」

「ああ、奴は常に強力な隠蔽魔法と阻害魔法を使用している。 だから、魔法などで情報を得る事ができなかった。 だが、それでも勝つしかない。 これが第一の壁、これを突破してこそ初めて俺はスタートラインに立てる」

「…… 勝算はどの程度なのですか?」

「噂を信じるならリミッターを解除しておよそ五割、悪くても三割と言った所だろう。 だが、安心しろ。 奴はゴーレム、その魔物特有の戦い方や性質はある」


 とは言ったもののその全ては未だ謎に包まれており、ゴーレムに関して分かっているのは何を食べるかとか、弱点が身体の中に埋まっているコアの部分だとか、魔物の魔力回復などは非魔物と大差ないなどである。

 魔力で全てが決まるこの世界でその情報は重要だが、そんな事よりも魔法や能力の熟練度、リジの質や量、魔力の量などを知りたかったというのが本音である。

 魔物は非魔物と比べて成長が早く、場合によっては生まれた瞬間からSランク冒険者を圧倒するケースも珍しくないのだ。

 更には進化という逃げ出したくなるような事象。

 通常なら討伐されているはずのゴーレムが生きているのはひとえにとある神が関係している。

 それは好戦覇帝で有名なハデスである。

 常に戦いを求めているハデスはゴーレムに勝ったやつと戦う為にすぐにやってくる手筈になっている。

 ここはハデスが支配している宇宙に存在する星の一つ。

 つまり、これはハデスがワザと放置している魔物なのだ。

 この先、必ず通る道ではあるが、それを考えただけで身震いする。

 ただ一つだけこっちにも良い事があり、それは何故かは分からないがハデス自身は探知魔法を毛嫌いしている事だ。

 だから、迅速に行動すればもしかすると戦わずに済むかもしれないという淡い期待も抱いている。

 だが、それも全てクリアデリックゴーレムを倒して神になってからである。


「話はこれぐらいにして行くぞ」

「はい、ゼフ様」

「分かっていると思うが…… 絶対に俺から離れるなよ」

「はい、勿論です」

「分かっているならいい」


 ゼフは最終確認を終えると、遺跡の方へと歩みを進める。

 現在召喚している終焉種は五体。

 ハ・ダース、コア・クリムゾン、バイロスが三体。

 戦っている最中に蟲達が魔力を枯渇する事も考えて召喚魔法を使う事もできない。

 だから、戦いは素早く終わらせる必要があるのだ。


「そういえばゼフ様…… 一つ気になっている事があるのですがいいでしょうか?」

「なんだ?」

「あの…… 先程魔力の回復をしてる時に襲われる可能性はあったのではないですか? それを今思い出しまして……」

「ああ、確かにあったな。 だが、街での戦闘で勝てないと印象づける事によってその確率を下げた。 しかし、それだけでは足りない。 だから、クリアデリックゴーレムの近くで休憩したんだ」

「近くで休憩するとどうして大丈夫なんですか?」

「もし、近くで戦闘を行う事をしてみろ。 奴に確実に気づかれる。 そうなれば俺らを消す為に攻撃を開始する筈だ…… こんな感じにな」


 そう視線で訴えるゼフの先には森がなかった。

 あるのは焼け焦げだ大地。

 まるで何か意図的な行いがあったかのようにその区画だけが荒れ果てていた。


「こ、これは……?」

「馬鹿な奴だ、ここだけがこうなっている事を考えると戦ったのだろうな。 そして、それを探知したクリアデリックゴーレムに殺されたという事だ」


 そのゼフの口から放たれる言葉にサンは息を呑む。

 確かにこれなら奇襲なども警戒しなくても問題ない、それほど恐ろしい力だ。

 

「遺跡はもう少しで着く、行くぞ」


 そうゼフが再び歩みを始めた瞬間、辺りに凄まじい振動が起こる。

 一体何が起こったのか、そんな事を思っていると目の前に軽く一〇〇〇を超える魔法陣が展開される。

 そして、そこから考える隙など与えられる事なく魔法がゼフに向かって放たれるのだった。

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