第199話 役割

 受付にいるちょび髭の男、名前をグンと言う。

 特に何もない日常、強者はいるがそれ以上の者はいないそんな冒険者組合。

 だから、冒険者という役割が最弱と言われるのだと。

 いや、確かにそれは間違いではない。

 しかし、冒険者と張り合える程弱い役割など沢山ある筈だ。

 それなのにこの体たらく。

 これもひとえにその者達の行いによるものだろう。

 と、そんな事を思っていると何やら絡まれている者達が視界に入る。

 組合は基本不介入を貫くが、もしもの時に備えていつでも止めれるよう一応準備はする。

 そして数分後、そんな心配は杞憂に終わったのか絡んでいた者達は素直に冒険者組合から出て行った。

 残ったのは二人の男女、そこで久しい顔を見つける。

 ゼフ・ザ・ヒューミー、ここ数ヶ月見なかった顔だ。

 ゼフは一目散に自分の方へ近づくと口を開く。


「別に冒険者カードを出さなくてもいいだろ?」

「そうですね…… 貴方程の有名人なら問題ないでしょう」

「そうか…… しかし、人気者というのは辛いものだ。 殺しても殺しても減らない」

「それは貴方の日頃の行いでは? しかし…… まさか貴方が仲間を連れてくるとは思いませんでした。 お名前を伺っても?」

「サンだ、職業は魔導士。 今日ここに来たのはこいつに役割を与える為だ」


 そうゼフが紹介する少女に目をやると、ペコリと軽く頭を下げる。

 ここからは予想になるが、ゼフの性格からして仲間というのはあり得ない。

 恐らく奴隷なのだろう。

 それにしても…… メイド服とはいい趣味をしているものだと心の中で呟く。


「役割ですか…… 確かに冒険者組合は様々な役割を提供していますが、せいぜい冒険者が関の山でしょう。 それにいいのですか? ここで使ってしまっても」


 この世界の常識、それはマイナーな役割は冒険者組合で就いたり変えたりする事ができる。

 そして、それは二回までである。

 同じようなものに種族があるが、それは一回である。

 と言っても大体の役割の条件が厳しすぎて冒険者という誰でもなれるそれに就き少しでも能力値を上げる。

 そして、冒険者組合又はそれ以外で強力な役割に就くようにするのだ。

 勿論、例外は存在するが……。

 しかし、冒険者組合以外というと危険なダンジョンや洞窟、遺跡などに限られてくるので安全な方法を取るというならこれが正しいのかもしれない。

 また、こういうのには必ず守護者的な立場の者が存在している事も知られている。

 グン・ザ・エレバスト、彼は神でありこの冒険者組合の守護者である。


「問題ないが、冒険者にしかなれない…… それは無いんじゃないか?」

「なら、何になれるというんですか? 教えて下されば提供致します」

「聖者、確か条件は一定以上の知能がある生物を殺していない事だった筈だ」

「ハハッ、面白い事を言う方だ。 いや、そもそも魔力以外が最弱レベルというあり得ない隠蔽魔法をしている時点でお察しですよ。 貴方の大体の能力値はバレているのですよ? もう少しマシな魔力の使い方を勉強した方がいい」


 つまり、グンはこう言いたいのだ。

 お前のようなバカな魔力の使い方をする奴はそれが何を意味するのか分かっていないのかと。

 何も殺してないなどあり得ないし、もしそうだとしてもこれから先必ず殺すだろう。

 そうなれば条件が不達成になり、役割が強制的に剥奪されると。

 しかし、それは彼の大きな間違いだ。

 彼女は別世界の人間であるのだから。

 それに魔力以外が最弱なのも隠蔽魔法を使っているわけではなく、ただ単に能力値が低いだけである。

 しかし、そんな事は考えれない。

 常識から逸脱した考え方なのだから。


「…… 確かにお前が言いたい事も分かる。 だが、俺は役割を与えて貰うために来たんだ。 文句を言われに来たのではない」

「…… そうでしたね、では確認します。 首をこちらへ」


 しかし、サンはどうも怯えてそれに従おうとしない。

 ゼフはそれを見て少しでも恐怖を和らげる為自分の首を見せる。

 そこには剣と杖が交差している判子のようなものが小さく押されていた。


「役割というのはこうして首に押す事で就く事ができる。 別に何か危険があるわけではない、安心しろ。 条件を達成していなければ何も押される事なく生きていく中で使える二回のうちの一回を使うだけだ」


 それを聞いたサンは安心したのか、コクンと頷きグンに首を差し出す。

 それにグンがお札のようなものを貼り付ける。

 この状態で数分経てば、聖者に相応しい紋様が押されるのだ。

 しかし、この役割を得るシステムは実を言うと完璧ではない。

 まず、危険がないというのはサンを安心させる嘘であり、冒険者組合の職員がこちらに攻撃してくる可能性も考えられる。

 しかし、それは冒険者組合と仲良くしている何人かの化け物の怒りを買いかねない。

 故にそんな事はしないのだ。

 また、何故紋様が押されるまで分からないのかというと、やはりそこは自分の情報を渡すなど愚の骨頂というこの世界ゆえの難しいところであり、だからこそこうするしかないのだ。

 そして、サンに貼られたお札のようなものは青く燃え始め消える。

 残ったのは丸の中に星が描かれている紋様である。


「条件は満たしていると…… まさか就く事ができる者の方が少ないと言われるこの役割を…… まさにレアな光景です。 しかし、こうなると誰も殺せませんよ?」

「ああ、問題ない。 それよりお前がサンに危害を加えなくて助かった」

「流石に私でもそんな馬鹿ではありませんよ」

「そうか、それよりもう一つ役割を確認したい。 一応念のためにな」

「はい、なんでしょうか?」

「俺も役割を変えたい」

「…… 失礼、今なんと?」

「俺も役割を変えると言ったんだ」

「冗談が上手いですね。 残念ながら貴方に相応しい役割は扱っておりません」

「そんな事ない筈だ、あるだろ…… 誰でもなる事ができるが余りにも過酷な最強の役割が」

「…… 覇王ですか」

「ああ、そうだ」

「別に構いませんが、貴方死にますよ?」

「ああ、知っている。 まぁ、一応聞いただけだ。 いつでもなれるのかを」

「それは勿論なれますよ」

「だったら問題ない、今から少し用事を済ませる。 戻ってきたらそれを俺に渡す準備をしていろ」

「それまでに死ななければいいですけどね」

「そんな態度を取れるのも今のうちにだ」


 ゼフはそう言うと、冒険者組合に入ってきた入り口に向かう。

 恐らく外には敵が待ち伏せているだろう。

 ならば先手必勝である。

 サンが与えられた聖者という役割には魔力を回復する能力を持っている。

 ここによった主な理由はそれである。

 後はすぐに覇王という役割を手に入れる事ができるのか。

 ゼフは扉に手をかけると同時に隠している召喚石二つに魔力を込めたのだった。



 

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