第197話 ジフ

 戦いとは複雑に見えて単純だ。

 まず、阻害魔法や隠蔽魔法といった補助魔法を使い出来るだけ自分が優位になっていくように持っていく。

 勿論、これは同じ事をすれば対策は可能である。

 次に防御魔法や探知魔法で相手の攻撃を防ぎつつ、攻撃魔法や自分の武器、または能力を使い相手に傷を負わす。

 これで殺す事ができれば問題ないが、そう簡単では無い。

 基本的に阻害魔法は魔法攻撃や物理攻撃を防ぐものでは無いのだが、これは能力にも該当する。

 しかし、攻撃系という能力は殆ど存在せず、大体は自身に付与という形で終わる。

 だから、能力の無効化を積極的に狙う。

 これは絶対なのだ。

 そして、もしも傷つけば回復魔法を使い即座に傷を癒す。

 これを繰り返しどちらかが死ぬまで戦う。

 最後に殆どの場合、死体には蘇生魔法が使われているので阻害魔法を使うのだ。

 これに基づけばジフとゼフの戦いは相手に傷を負わす段階だ。

 しかし、見えない所で数えきれない阻害や探知、攻撃魔法などが横行している中、防御魔法であるウォールを割ることは叶ってはいるが、すぐにまた展開され、お互い傷一つ付けることすら厳しい状況であった。


「ゼフや、まさかこれ程までわしと渡り合えるとはな! 以前なら一秒と持たなかっただろう」

「まだ自分が上だと思っているのか? 俺はまだ余力を残している。 そろそろ本気を出したほうがいいんじゃないか?」

「…… 面白い、確かによく見れば君の装備はお粗末だ。 力を求めるというならあってはならない事。 だから、最後に見せてあげよう。 わしの本気というものを」


 それは単なる口から出たでまかせなのかもしれない。

 しかし、ゼフにはジフが本気を出していない確信があった。

 それは身につけている防具である。

 通常防具は武装又は魔装、そして神装という三つに分けられる。

 防具は付けているだけで様々な力を与えてくれ、武装は攻撃と防御を飛躍させ、速度をその半分上昇させる。

 魔装は攻撃と速度を飛躍させ、攻撃をその半分上昇させる。

 最後に神装は他二つと比べて入手難易度が比較的高く、その効果は攻撃と防御、速度を飛躍させ、最低でも一つ能力を付与するというものである。

 勿論、その匙加減は防具によって決まるが、大体はこの法則が成り立っている。

 ジフは不気味な笑いを浮かべながら口を開く。


「『魔装』ッ!!!」


 その言葉を放った瞬間、ジフの身体に身につけている衣服に変化が生じる。

 色は真っ白に変化し、水色の羽衣が彼を包み始める。

 まるで何処かの王族が付けていてもおかしくないと言える程の代物だ。

 しかし、ゼフはこの隙を見逃さなかった。

 いや、待っていたというべきだろうか。


「コア・クリムゾン! 超絶魔法の準備を始めろ! 他の二体は守りに徹しろ!」


 聞き捨てならない言葉、ジフはそれについて思考を巡らせる。

 超絶魔法は発動までに時間がかかる。

 故にこんな所で使うべきでは無いのだが、その威力は流石のジフも形成が一気に逆転するものだと知っていた。

 だから、大人しくそれを待っているはずもなく、魔装を終えたジフはすぐさま魔法にて阻止しにかかる。


「何しているかは分からんが…… 無駄な事。 今のわしをたった二体で止められると思っているのか!」


 あり得ない数の攻撃魔法、それを防御魔法で全てを防ぎにかかる。

 阻害や探知の魔法もこれまた逃げ出したくなるよな数だが、それも全力で防ぎに行く。


「ああ、止められる! お前は俺より下だ! 神になる事を諦めた愚かな人間、ジフ・ザ・ヒューミー! 俺はお前を乗り越えて最強へと至る!」

「ほざけ! それはわしの魔法を防いでからにせい!」

「ぐっ……」


 あれが本気ではなかったのか更に魔法による攻撃が増す。

 蟲が二体ではその攻撃に耐える事ができないのを表すかのように、ゼロ・ダークネスの生成する防御魔法数をジフが破壊する防御魔法の数が上回る。

 そして、雨の如き魔法の攻撃を浴び始める。

 

「まずは一体! わしに勝てるなどあり得ん!」


 数秒後、ゼロ・ダークネスは細胞一つ残さず散りと化し、それと同時にハ・ダースの防御魔法も突破される。

 超絶魔法にかかる時間は二分三十秒。

 現時点では一分も経ってない。

 もうダメか…… そう思った時、ジフの後ろに新たな穴が現れる。


「なっ! まさか…… 貴様!」


 ジフがすぐに企みに気づいたのか、ターゲットをその穴…… 次元へと向ける。

 が、それはあまりにも遅かった。

 中からは予めリジを込めて召喚していた四体のバイロスが飛び出してきて、ジフの防御魔法を最も簡単に突破する。

 そして、容赦なく彼の四肢を切断する。

 それに回復魔法で対抗するジフだが、バイロスの攻撃は止まない。

 例えどんなに強くても傷を負えば回復する。

 だが、その隙はあまりにもでかい。

 それが拮抗している戦いなら尚更である。

 それを側から見ているゼフは何とか生き残ったハ・ダースに命令を下す。


「ハ・ダース、奴の全てを無効化しろ」


 それはあまりにも無慈悲なハ・ダースによる阻害魔法。

 普通ならばこれを防ぐ事ができたのかもしれないが、回復魔法という隙にそれは容易に溶け込む。

 そして、その穴から徐々に影響が出てき、やがてジフは何もできなくなる。

 あまりにも自分が情けなさすぎて笑う。


「フフフ…… ハハハ! わしが負ける? あり得ん! このわしがただの小僧に……」


 ゼフはコア・クリムゾンに魔法の準備を辞めさせそれに応える。


「はぁ、はぁ…… それがお前の隙だ。 俺みたいな召喚士はそう多くない。 だから、気づけなかっただろ? 次元からの蟲達に」

「あの超絶魔法もわしの注意を引く為という事か。 見事だ…… しかし、この先は地獄だ。 わしを殺したとなればすぐに仲間が駆けつける」

「関係ない、どうせいつかは渡っていた道だ。 それに見苦しい命乞いはやめた方がいい。 これは俺という召喚士を見くびった結果なのだから」

「…… そうか、地獄で待っているぞ」

「もう会う事はない」


 ゼフはそう言いながら蟲達に命令を下し、ジフを殺害すると阻害魔法を使う。

 それを確認したゼフは緊張が解けたのか膝をつく。


「ゼフ様!」

「大丈夫だ…… 問題ない。 まさか魔力を七割も使わされるとは思わなかった」


 全ての終焉種の魔力を確認するとゼロだった。

 つまり、足りない魔力をゼフの魔力で補っていた事になる。

 しかし、問題なのはこの先があの世界に繋がっているのだとしたら…… Sランクと言っても人間相手にここまで苦戦した事である。

 ゼフは数秒間その穴を見つめる事しかできなかった。

 

 

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