第190話 巨大
驚愕の表情を浮かべているエトは身体の半分が無くなったミリオンを見つめる。
恐らくこれはあまりにも予想外だったのだろう。
たかがデスワーム。
リジを得たとしても大して強くならない。
それが間違いだ。
代償と自らの力で手に入れるのとでは質が違う。
老王だってそうだ、奴は正しい使い方を理解していなかっただけで使っていればゼロ・ダークネスにも引けを取らなかっただろう。
しかし、余りにも呆気なく殺られた。
だから、エトも見誤ったのである。
そんな愚かな悪魔に対してゼフは口を開く。
「何を驚いている? お前だってリジを与えてきただろ。 それなのにその驚きよう…… まさか知らなかったとは言わないよな?」
「…… いや、ミリオンが余りにも弱かったから驚いただけだよ」
「そうか、だがおかしいな。 お前達は死ぬ事が目的の筈だ。 だったら弱いという発言はあまりにもおかしくはないか?」
「…… 君は何も分かってないようだね」
話を変えようと必死に考えた末の言葉。
余りにも滑稽だ。
いや、こいつらを殺して出てくる奴が絶対に勝てると思っていたからこそ動揺も大きいのかもしれない。
隣にいるミリオンを喰い千切ったデスワームを見ながら笑う。
「ククク、何も分かっていないだと? それはお前を殺したら出てくるやつか? それとも…… アリシアの事か?」
「さぁ、どうかな?」
エトはそうは言ったものの僅かながらに動揺を見せる。
いつもの彼だったならそんな事は無かった筈。
これも先程のリジが関係しているのだろう。
嬉しい誤算である。
「ククク、とぼけなくてもいい。 お前は自分が死ねば一柱でその何かに耐えれない事を知っていたんだろう。 だから、お前はそれを使いフォルミルドとその契約者のアリシアを殺そうとしたのだろう」
「面白い事を…… いや、君にはお見通しか」
「ああ、お前はもう少し癖を直したほうがいい。 と言ってもすぐに直るものでもないし、これから直す事もできないがな」
それにエトが笑う。
しかし、いまだにその目は負けを悟ったものではない。
勝てると思っているのだその何かが。
ゼフはそんなエトを殺すように命令すると、一目散にデスワームが飛びかかる。
そして、抵抗される事なく捕食される。
全てがバレてしまったのだから抵抗する気も起きないという事だろう。
だが、それから数十秒待つが、特に何も起こらない。
フォルミルドが探知魔法に引っ掛からなくなった事から既に死んだ事も確認済み。
もしかすると、それ自体が嘘だったのかもしれない。
いや、それはあり得ない。
それならば抵抗はする筈だからである。
「サン、念のため俺の近くに寄れ」
「はい、分かりました」
サンはそう言うと素直にこちらに身体を寄せてくる。
これで彼女が一番に殺されるという事態は避けられる筈だ。
中々姿を現さないそれが来るかどうかというのも正直分からない。
だが、あのようなエトからして来ないという事はないだろう。
やがて数十分程経った頃だろうか、突然空が割れ始める。
そこから徐々にヒビが少しずつ広がっていく。
そこでゼフは考える。
あれは自らの力で次元からへの入り口をこじ開けているのか、それとも能力に手開かれているのか。
(恐らく能力だろうが…… そうでなければ俺は勝てんな)
だが、あの程度の悪魔42体が支えれる程度ならば大したことはないのだろう。
そして、空が剥がれ落ち黒い空間が出現する。
そこから巨大な目玉がこちらを覗いている。
こちらに来たいのか、今度は巨大な手でそれをこじ開けようとする。
そんな光景を見て心臓が跳ね上がる。
あれはまさしく自身の力で開けている。
もしかしたら覇王と同等の力があるのかと。
いや、あれはそう見せているだけで、本質は唯の能力の可能性もまだ捨てきれない。
そんな事を思っていると、どうやら自分のサイズに開き切ったようで中からゆっくりと姿を現す。
見た目は巨大な目を中心に黒い触手のような物が無数に生えており、所々に巨大な手がある、
そして、何より目を引くのはその大きさである。
恐らくヘヴン・アルタイルと同等かそれ以上である。
「…… ゼフ様?」
その姿を目の当たりにして震えているゼフを心配してからかサンは声をかける。
だが、それは杞憂に終わる。
何故ならそれは歓喜による震えだったからだ。
あれは覇王種である事は間違いない。
一度同じ姿を見た事がある。
その時はあまりの強さに震えた。
野生の覇王種であれば恐らくこちらの最高戦力を全て投入してようやく勝てるレベルだろう。
しかし、奴はリジを持っていたないようなのだ。
それと同時に能力を使わずともリジが見える事に今更ながら気づく。
「ククク、リジを持っていない覇王種。 そんなもの俺の相手ではない」
ゼフはそう言いながら嬉々として蟲達に命令を下すのであった。
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