第191話 悪魔王

 まず命令を下したのは先程召喚したデスワーム。

 全てを飲み込むかの如く大きく口を開き、その中から強力な酸を吹きかける。

 しかし、流石は覇王種。

 その攻撃を意図も簡単に防ぐ。

 それに反応した覇王種の瞳がゼフの方を向く。


「キサマカ…… 我ヲ攻撃シタノハ」

「…… ああ、そうだ。 まさか喋れるとはな」


 それもそうである。

 基本的に魔物は喋ることはできない。

 勿論、終焉種などある程度高い種族になれば可能性はある。

 ならばエトやミリオンは何故あんなにも流暢に喋れるのだと。

 それは彼らは魔物という分類ではなく、人間種、森人種、魚棲種、吸血種、神種など非魔物という分類なのだ。

 非魔物の特徴としては進化をする事がなく、自らの鍛錬にてその力を増幅させる事ができる。

 そして、殆どの種族は知能があり、更には種族特有の能力や魔法を使う事ができる。

 対するは蟲や豚、犬に鬼などの魔物という物に値する。

 魔物は知能が無い代わりに進化という自身の力を増幅させる物を持っている。

 だから、自身を鍛えるという知能を持っているのならば誰だろうと最強になる事ができるのだ。

 だが、魔物が全てを支配していないのは非魔物達による徹底的な進化阻害行動、つまり進化させないようにするという行動のおかげなのだろう。

 それでも進化して圧倒的な力を得る魔物が出る事はある。

 そういう奴らは封印石に閉じ込めて管理するのだ。

 目の前の覇王種、恐らくこいつは悪魔という魔物だろう。

 因みにエトなどは悪魔種、ここら辺は色々ややこしい所だ。

 元の世界ですら未だに論争し、終わる事が無いだろうと言われている問題の一つなのだから。


「我ハ神ヲモ超エシ力ヲ持ツ存在。 故ニキサマガ我ニ勝ツ事ナド不可能。 シカシ、今ナラソコニ頭ヲサゲレバ許シテヤロウ」

「ククク、やはり魔物は魔物か。 自分がどういった位置にいるかも分かっていないとな」

「我ハ悪魔王ヴェロー・ガ。 脅シナドニハ決シテ屈シナイ」

「そうか、ならば俺を止めてみろ。 分かっていないお前に簡単に説明するならばこの世界を守れるのは後はお前だけだ」

「…… ソウカ、封印ガ解カレタ理由ガ分カラナカッタガ、今ヨウヤク理解シタ。 キサマガソノ理由ダッタカ。 ナラバ我ガキサマヲ殺し、コノ世界ノ新タナ支配者トシテ君臨シテヤロウ」

「ククク、お前みたいな雑魚に務まるのか? 力しか取り柄のない魔物如きが。 今すぐ地獄に送ってやろう」


 ゼフはそう言うと蟲達に命令を下そうとする。

 だが、それよりもヴェロー・ガ展開した軽く一万を超える魔法陣から攻撃魔法が放たれる。

 全てが下位魔法であるが、それを侮るほどゼフは馬鹿ではない。

 何故ならこの先もしも更なる強敵と戦うとするならば、最も発動時間が短い下位魔法を使うのだから。

 

「デス・レイ、防御魔法のドームを展開しろ。 他の蟲達は一斉に阻害と探知、そして弱体化魔法を使え。 俺に向かってくる攻撃は抑制魔法で威力を抑えろ」


 一瞬にしてその命令に発し、蟲達はそれに従い動き始める。

 まず、被害を抑える為にゼフとヴェロー・ガを中心に最小限の球体である薄い膜を張る。

 阻害魔法は攻撃魔法を阻害する事が出来ないので、こちらに使ってくる阻害や自信に使う回復魔法、能力などを無効化する。

 探知魔法は単にどのような攻撃が来るかを調べる。

 ただ、それに隠蔽魔法が使われている可能性もあるのでそれを阻害魔法で防ぐ。

 弱体化と抑制魔法は本体と飛んでくる攻撃魔法を弱らせる。

 その準備が整い、やがて地面に大量の魔法が着弾する。

 熟練度もかなり高いのか、下位魔法の癖にその威力は一つ一つが山をも簡単に抉るほどだろう。

 しかし、ドームで被害を抑え、自身にもウォールという防御魔法を使っているので痛くも痒くもない。

 そして、無駄だと察したのかヴェロー・ガは魔法による攻撃を止め、別の攻撃手段へと移行する。

 身体中の無数の触手、そして巨大な瞳が紫色に光始める。

 しかし、中々能力が発動しない。

 

「ククク、残念だったな。 それは既に無効化させてもらった」


 ゼフの言った事が正しかったかのようにヴェロー・ガの光が収まる。


「我ノ阻害魔法ヲ無効化シ能力ヲ防イダノカ…… 人間ガ!」


 怒りで目をギョロギョロさせながら千を超える触手がゼフに一直線に向かう。

 一つ一つが軽く音速を超えており、直撃を喰らえばひとたまりもないだろう。

 しかし、それを近くで待機しているハ・ダースが音で全て弾き返す。

 弾き返された触手はハ・ダースによる能力により細胞を徐々に殺して行き、見た目で分かるほどの変色を見せる。

 

「何故ダ! 人間如キガ」

「人間如きだと? 一ついい事を教えてやる。 お前はもう詰んでるという事だ」

「……ナンダト?」

「そもそも何故ドームを使ったと思う? それはなお前の攻撃を防ぐという理由もあるが、本来の理由は違う。 それはハ・ダースが全力を出しでも大丈夫なようにしているという事だ」

「キサマ…… 其ノ程度デ我ヲ…… グワアアアァァァ!!!」


 突如、ヴェロー・ガが叫び始める。

 一体どうしたのか、それはハ・ダースによる何もしなければ音に触れた細胞を破壊する能力である。

 音、その定義は何か。

 例えば人間に聞こえない音。

 それも音なのか?

 正解はイエスである。

 ヴェロー・ガは自分で聞こえない音に触れ、何も対処しなかった事でこのような状況を起こしているのだ。


「ガアアアァァァ!!! キサマダケハ! キサマダケハ!」


 そう言いながら次元からこちら側に這いずり出ようとするが、身体が何故か動かない。

 何故かと自身の身体を見てみると、巨大な何かが巻き付いている。

 まるでムカデ、その正体はクリシュプロン・バーナレクである。

 ギラリとヴェロー・ガを睨んでいる。


「何故ダ…… 我ハ悪魔王。 負ケルハズナド……」

「傲慢、それがお前の敗因だ」


 ゼフがそう答えるとヴェロー・ガの瞳に光が消える。

 どうやら死んだようだ。

 念のために阻害魔法を使い、肉体を完全に焼きこの世から消すと、地平線の彼方を見て呟く。


「ゼロ・ダークネスとヘヴン・アルタイルも近くに用意していたが要らぬ心配だったな」


 ゼフはそんな事を言い、自分の街へと歩み始めるのだった。

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