第189話 デスワーム

 ゼフは不気味に笑う二人の悪魔、それに怯む事なく近づいていく。

 ある程度の距離まで寄ると、こちらも笑いながら口を開く。


「後はお前達だけだ。 エト、そしてミリオン。 どこに行ったかと思ったが、まさかこんな場所にいるとはな」

「いえいえ、あの時はこちらもお世話になりました。 ですが…… 先の発言、もしや自分が勝てると思っているのでは?」

「当たり前だ、俺はお前達より圧倒的に強い。 少々の悪知恵は俺には通じん」

「フフフ、果たして本当にそうでしょうか?」

「ククク、面白い事を言う。 それはあれか、お前達だけがバイロスの能力を防いでいる事と関係あるのか?」

「残念ながらそれは関係ありませんよ。 他の仲間が殺されたのは単に弱かったからですよ」

「お前は違うとでも言うのか?」

「さぁ、どうでしょうか」


 ミリオンはそんな事を表情を崩さずに述べる。

 流石に真実をこの二人から聞き出す事は厳しそうだ。

 こんな事なら悪魔を何体か残せば良かったと後悔する。

 いや、もしかすると自分という人間が絶対にそのような事をしないと分かった上の行動だったのかもしれない。

 もしも、自らの死により生み出される何かがあるのだとするならそれは一体何か。

 ゼフはそこまで考えが及ぶと、蟲達にとある命令を下す。


「エト、お前が何を企んでいるかは知らんが、お前程度では俺と蟲達に勝てない」

「そうかな? 僕は勝てると思うけど」

「そうか、ならば仮定の話だ。 42柱の悪魔、一見なんら違和感もない呼び方だ。 だが、果たしてそうだろうか? 本当は何かとてつもない物を支える為に存在しているのではないかと」

「ふーん、面白い話だね」

「そうだ、これだけでは単なる面白い話で済んだ。 だが、悪魔達の行動といい、お前達の言動といい不自然な所が多い。 だから、もしもそうだとするのなら俺は何をすべきか。 それは蟲国の内部からの崩壊を防ぎつつ、その何かを平和の為に殲滅する事だ」


 その言葉で初めて二人の笑顔が消える。

 やはりそうだった。

 奴らは色々とヒントを与えすぎだ。

 だが、エトは再び不気味な笑顔を作るとゆっくりと口を開く。


「妄想もいいけど、だったら可笑しいんじゃないかな? どうして僕達は君の召喚した蟲の能力を無効化したのかな?」

「簡単な話だ、お前は見てみたかったんだろ。 俺がどんな選択をするのかを」

「…… 君には期待外れだよ、僕がその程度の事で君の前に現れると思うかい?」

「ククク、予想通りの事を言う奴だな」

「…… なんだって?」

「そもそも俺がお前の性格を把握できていないと思っているのか? お前は残酷な性格でありながら正直者だ」

「僕が正直者だって? フフフ、君も面白い事を言うね」

「それだ、お前は誤魔化そうとする時に嘲笑う。 それがお前が嘘を言っていると簡単に教えてくれる」

「…… 例えそうだとしても残酷っていうのは無いんじゃないかな? 僕は君みたいな悪魔でもないし」

「悪魔が人を悪魔呼ばわりか、面白い奴だ。 それに関しては神の世界で見つけた地下室にあった死体。 それがお前の性格を物語っている」

「フフフ、じゃあもう一度聞くけど…… それが合っていたとしても僕が君の前に姿を現す理由にはならないよね?」

「あれで分からなかったか? ならば言い直そう。 お前は俺が42柱の悪魔達を殺さないという選択をする事を恐れた。 だから、その為に本体がここに姿を現す事で俺が殺すかどうかを確認しようとしたのだ。 それに最後はお前も死ななくてはならない。 仮に別の場所に隠れていたとして、俺がそれを探すとは限らない。 だから、確実性を上げるために現れた」

「…… 認めるよ、君が言っている事は正しい。 でも、それが分かっていても僕達を殺すのだろう?」

「ああ、そのつもりだ」


 危険は排除できる時にしておかなければならい。

 たとえ強大な何かが現れても対処できるようにバイロスを召喚した。

 そして、よりこちらを有利にするためある命令を下す。

 すると、廃城の壁や屋根が音を立てながらゆっくりと崩れていく。

 バイロスの能力、全ての能力でこの地にある廃城を奪ったのだ。

 流石のエトもこれは予想していなかった少し驚いている。


「これで準備はできたといわけかい?」


 エトはそう問いかけるが、ゼフは俯きながら身体を震わせているだけで何も答えない。

 何をしているのかと思っていると、突然顔に手を当てながら笑い始める。


「ククク、ようやくだ。 特別にお前にも見せてやろう」


 ゼフはそう言いながら笑う。

 今までこれ程喜んでいる姿は見た事ない。

 それが何なのか。

 エトはそれを見つける為にじっと観察すると、それを理解する。

 勿論、隣のミリオンもそれが分かった。

 バチッと音を立てながら身体中を纏う雷、リジが彼の身体を包み込んでいたのだ。

 何故今手に入れたのか分からない。

 だが、代償の力ではないのは確実。

 無理矢理その力を与えることはできても、自らの力で手に入れる事は不可能と言われる力。

 それ故か、今まで与えてきた奴らより神々しく、老王のそれすら霞んで見えた。


「ククク、何故このタイミングだと思っただろ? 俺は全てを鍛え上げ、後は生物の死の数というのは理解していた。 しかし、まさか今足りない部分を満たしてくれるとは予想外だ」

「…… 意味が分からない、何故そこまで強さを求める?」

「ククク、そんな物は単純だ。 俺の目的を達成するにはそれが一番手っ取り早いからだ」

「それがもう目の前という事ですか…… ですが、甘いですね。 まだ、いるかもしれないじゃないですか。 貴方を超える化け物がね」

「ならば見せてやろう、圧倒的な力を。 来い、デスワーム」


 ゼフは召喚魔法でデスワームを召喚する。

 あまりにも弱い蟲だ。

 だが、今回使った召喚魔法は違う。

 リジを込めて使用したのだ。

 強さは普通の召喚魔法での召喚と比べても天と地の差ほど開きがある。

 召喚されたデスワームはバチバチとリジを放ちながら二体の悪魔を見据える。


「殺れ、デスワーム」


 そう命令すると、次の瞬間には圧倒的に速度でミリオンに近づき、その上半身を食いちぎっていた。

 エトは隣にいながらそれに数刻遅れて気付くのがやっとであった。


 

 


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