第185話 ルシフ

 目を開くとそこは何もない真っ黒な空間だった。

 辺りにはまるで星のように光っている何かが無数にある。

 あり得ないが少し宇宙を思い出す。

 何故そう思ったのか?

 それは呼吸ができるからである。

 普通ならそれはあり得ない。

 ならばここは何処か?

 それは天国という場所なのだろう。

 イメージとは大きくかけ離れているが、それも植え付けられた理想があるからだろう。

 この事から自分が死んだ事を理解するのは早かった。

 一真は光る何かを見つめる。

 結局は何もできなかった。

 口だけであり、簡単に殺された。

 それが悔しかったのか、自然と涙が溢れ出す。

 それを袖で拭う。


「あら〜、いい素材が来てくれたわね」


 その声はどこからともなく聞こえてくる。

 辺りを見渡して探すとその声の持ち主は居た。

 見た目はかなりの美形の青年であり、白い肌に腰まで伸びた白い髪。

 そして、軍服のような少し黒色が混ざっている真っ白な服とマントを羽織っている、

 

「…… 天使か何かか?」

「フフフ、面白い事を言う子ね。 私の名前はルシフ・ザ・ヴァンピール。 貴方を召喚した者の名よ」

「…… 召喚? じゃあ俺は死んでないのか?」

「それは私の関与できるところではないわ。 でも一つ言えるのは例え生きてても、死んでても、肉体が消滅しようと同じように生きた状態で召喚される運命という事よ」


 一真は何を言ってるか分からなかった。

 そんなお姉言葉を喋るイケメンはそれを見越した上で話を続ける。


「主望方陣、これを使うと私が必要としているモノが手に入る道具よ」

「必要としてるモノ? ちょっと待ってくれ…… さっきの話からするにもしかして――」

「ご明察、今既に失われているものすら可能よ。 だけど、一応制約があるわ。 この世界に存在するモノというね」

「…… じゃあここは天国じゃないのか?」

「違うわよ、主望方陣で呼び出したから間違いないわよ。 まぁ、どの時間軸から呼び出したか分からないけどね」

「…… なんか理解できないな。 それに時間軸? どういう意味だ?」

「簡単に言うと存在していた過去やこれから作ったられるであろう未来からも持って来れるという訳」

「マジかよ…… そんなもの聞いた事ないぞ……」

「それが災厄と呼ばれる存在よ」

「災厄? なんだそれは?」

「フフフ、やっぱり貴方を呼び出して正解だったわ。 災厄、それは常識を逸脱した存在よ。 主望方陣みたいにね」

「……じゃあ、俺が望むものも召喚できるのか? 回数に限度が無いなら使わせて欲しい」


 それは一筋の光。

 これが有れば失った沢山の仲間を生き返らせる事ができるという淡い期待。

 ルシフはそれにニッコリと笑顔を向けながら答える。


「回数に制限は無いけど…… これは私にしか使えないわ」

「…… そうか」


 そんな期待も儚く砕ける。

 いや、最初から楽な道などない事は分かっていた。

 それぐらいでへこたれてどうするのか。


「さぁ、それじゃあ本題に入ろうかしら」

「…… 俺を召喚した理由か?」

「そうよ、私はね食べる事が好きなの。 食は何物でもない嗜好。 だけどね、美味しさを求めれば求めるほどそれは強者になるの」

「…… どういう意味だ? 普通にパンとか肉を食べればいいだろ?」

「…… 貴方、話を聞いてかしら? いえ、地球出身の赤羽 一真と呼べばいいかしら?」

「…… 探知魔法か?」

「それは知っているのね〜。 魔法の基本すら知らないのにどのような魔法があるか知っている。 まるでどこか別の世界から来たみたいな……」


 ルシフはそんな一真を顔を近づけてマジマジと数秒観察すると、納得したのか口を開く。


「まぁ、いいわ。 意地悪もここまでにして、私の種族は吸血種。 これだけ言えば分かるかしら?」

「吸血種…… つまり、食事は血という事か?」

「そう、だからより美味しい血を求めるために強い人と戦うのだけれど、それだと有名になりすぎるのよね。 それは私は嫌なのよ。 この世界の生物は好戦的な奴らしかいないような世界だからね」

「それでその身代わりになってほしいという事か?」

「そう、飲み込みが早いじゃない」

「だが…… 俺は強くない。 ゼフという召喚士に三度負けた……」

「問題ないわ、貴方は強くなる。 勿論、私が面倒を見てあげたらの話だけど。 そうすれば覇王になれる事もできるわ」

「…… そのゼフにも勝てるのか?」

「勿論よ、貴方ならできるわ。 そうそう、覇王というのは最強の称号みたいなものだからね」


 一真はその言葉に希望が出て来た。

 確かに吸血種であり、時には人を襲うこともあるだろう。

 しかし、それは生物として仕方ない事だと既に理解している。

 それにこの胡散臭い男について行く以外道はないのだから。

 

「一真、貴方の望むモノは何かしら?」

「望むモノ?」

「そう、これは取引よ。 私の身代わりとなってくれるのだからそれ相応の対価が必要でしょ?」


 一真はそこで言葉に詰まる。

 今の自分には何が必要か?

 皆んなを生き返らせる?

 いや、もしかしたらそれは一つかもしれない。

 だったらと一真は口を開く。


「フューバー…… その魔法を教えてくれ」

「…… それはできないわね」

「そんな!」

「安心しないさい、私ができないだけで方法はあるわ」

「ほ、本当なのか!」


 神達の世界で全く情報を得られなかったそれをついに見つける事ができた。

 やっと一歩進んだようであった。


「でも、私とて簡単な事ではないわ。 まず、魔法の位階というのは知ってるかしら?」

「いや、詳しくは……」

「魔法には下位、上位、超位、超絶と分かれていて、そこから更に希望魔法と絶望魔法と別れて、最後に始原魔法と終焉魔法に分かれるわ。 フューバーはこの中だと始原魔法に当たるわね」

「始原魔法…… 聞いた事ない魔法だな」

「あら、そうなの? だったらこれで一つ賢くなれたわね。 さて、問題なのはこの始原魔法を使う事ができる人が限られてる事よ」

「…… そんなに難しいのか?」

「難しいってレベルじゃないわ。 終焉魔法ですらその人数が限られているというのに…… この魔法は善行をたくさん積んで、自らがプラスと魔法に思わせなければならないのよ。 こんな殺伐とした世界じゃ不可能に近いわね」

「条件が分かっているならやった奴はいたのか?」

「ええ、勿論。 だけど、全員死んだわ。 それも殆どが悪事を働いている奴を見逃したせいでね」

「…… それは過酷だな」

「そう、だから貴方には災厄を探してもらうわ」

「主望方陣と同じようなやつか?」

「そうよ、そもそもフューバーがどんな魔法か知っているかしら?」

「…… 蘇生魔法という事くらいしか」

「なら、貴方は知っておくべきよ。 この魔法が使えるだけの道具が災厄と認定されてしまう事を」

「…… 教えてくれ」

「いい目ね、悪くないわ。 フューバー、それは蘇生魔法の一種だけど他の蘇生魔法と違う点は無から蘇生が可能である事よ。 しかも、どれだけ時間が経っていようとも問題ないの」


 一真はそれを聞いてそんな魔法だったのかと驚愕する。

 だが、もしもそれが本当なら今まで失った人達を蘇生する事ができると。


「フフフ、もう迷いはないようね」

「ああ、もう俺は負けない」

「いい志ね、だけど身につけるより簡単という話だけで災厄を見つけるのは人生を使っても難しいわよ」

「それでも希望があるなら問題ない」

「そう、だったら問題ないわね」


 ルシフはそう言うとポッケから赤く光る飴玉のようなものを取り出す。

 それを一真に見せつけると笑う。


「人生だと難しいかもしれないけど、不老の能力を得る事ができる神なら話は別よ」

「…… つまり、俺が最初にやる事は――」

「神になる事よ。 これを食べれば種族を人間種から神種になる事ができるわ。 それでこの神の名前は確か…… アルフィウルメスだっかしら? だから、貴方の名前はアカバネ・カズマ・ザ・アルフィウルメスになるわね」


 どこかで聞いた事があるような名前。

 しかし、思い出せない。

 だが、これで目的は達成する事ができる。

 一真はそれを受け取ると、迷いなく口に放り込む。

 すると、中から熱い何かが込み上げてくる。

 それは別に苦しいとか痛いという事は無かったが、代わりに今までとは比べ物にならない程の力を得たような感じがする。


「フフフ、いいわね。 これで嘘じゃないって理解してもらえたかしら?」

「ああ、だが…… どうして俺なんだ?」

「それは簡単よ、まず地球出身の事。 それでいて才能がある者を私が欲したからよ」

「そうなのか…… これならゼフにも負ける気がしない」

「…… ねぇ、そのゼフってどんな奴なのかしら?」

「召喚士、それもとてつもなく強い……」

「ふ〜ん、面白いわね」


 ルシフはそう言うと、何もない空間から不気味な本を取り出し、それを開くと綺麗なペンで書く。


「何してるんだ?」

「私ね、物語を書こうと思ってるの。 だから、メモしてるのよ」

「そうなのか、俺はあんまりそういうの好きじゃないからよく分からないな」

「私も好きじゃないわよ」

「じゃあ…… なんで書くんだ?」

「それは秘密よ」

「秘密か…… まぁ、大した事じゃないだろうしいいけど」

「フフフ、そうそう最後に一つ言っておくんだけど…… 昔、ヘマをやらかしてとんでもない奴に私の顔と名前を覚えられているからー」

「ちょ、ちょっと待てよ! そんな重大な事、最後にいう奴じゃないぞ!」

「ごめんね〜、でも大丈夫よ。 近づかなければいいから。 それでそいつの名前はねアデル・ザ・ハデスって言うから覚えていてね」

「アデル・ザ・ハデス…… そいつは強いのか?」

「強いって言うレベルじゃないわよ。 化物よ化け物。 因みに貴方と同じ覇王だから」

「マジかよ……」

「この程度でへこたれていたらダメよ。 さて、準備はいいかしら?」

「ああ、勿論だ」

「フフフ、いいわね。 私達の目標の第一は好戦覇帝であるハデスに見つからない事」

「それ一番なのか……」

「当たり前でしょ、命あってのものよ。 そして、二つ目は一真を覇王にしてフューバーが使える災厄を探す事。 この二つよ」

「道のりは長そうだな」

「最低千年はかかるかもね。 でも大丈夫よ。 いざとなったら私がいるもの」

「ああ、頼りにしている」


 そうして一真の覇王への道のりが始まる。

 だが、ルシフはこの時言わなかった。

 覇王になる為には強くなる事以外を捨てなければならない事を。

 そして、その過程で必ず何かしら壊れる事を。

 500年後、一真は覇王となり炎獄聖王として君臨するというはまた別の話である。





 

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