第186話 廃城

 最果ての地、それは数多の強力な魔物が存在し、日々争いが起こっている恐ろしい場所だ。

 だが、そんな場所と人間や魔族の均衡を保つ為に禁忌の森に住む森人種。

 つまり、エルフがこれを抑えてきた。

 しかし、神の世界が落とされた今、エルフの代わりをできる者など存在しているはずもなく、魔物達は人間の街へ侵攻しようとしていた。

 だが、それも叶わない。

 何故ならその方角からやって来たのは圧倒的な死。

 幾億もの強力な蟲達に蹂躙されその生に終止符を打たれたのだから。

 残ったのは大陸の端にある廃城。

 そこの現在の主人は水晶玉でその殺戮の様子を見ながら呟く。


「やっぱり強いとは言っても種族レベルは下の下。 相手にもならないか」


 そんな陽気に呟くその主人、42柱の創造の悪魔エトは目の前で列を成している37体の悪魔達を見据える。

 この悪魔は今まで集めた同胞、つまり42柱の悪魔達である。

 残りの三体は言わずも知れずデーモン、クレアラトル、フォルミルドだ。

 ここまで来るのは長かった。

 そう、いつかは忘れたが皇都の封印石から自らの身体が解き離れた時からこの計画は始まった。

 神達を欺き、水都に自分と契約したミリオンを忍び込ませ、世界を騙した。

 そして、姿写しの鏡。

 あれは能力をコピーする事ができる非常に強力なものだ。

 だが、それだけでは鏡を持って戦わないといけない。

 だから、創造にてその能力を改変するのだ。

 すると、どうだろうか。

 鏡に封じ込めていた能力を得る事ができる。

 つまり、ここにいる39体の悪魔達は一つでも強力なそれを40個保有している事となる。

 更に元々強力な悪魔の肉体と合わせれば更にその強さは増す。

 だが、そうは言っても相手はあのゼフ。

 だから、念には念をと口を開く。


「まずは偵察だね。 ミリオン、いるかい?」

「はい、なんでしょう?」


 後ろから急に現れたその悪魔は笑みを浮かべながらエトの言葉を待つ。


「僕は誰がいいというのは分からないんだよね。 だから、それは頼んだよ」

「はい、お任せください。 ところで…… 貴方の作った人形はどうなったのですか?」

「殺されたよ、でも仕方ないかな。 あれが相手じゃ部が悪いよ。 だから、教えてあげるんだ。 僕達の恐ろしさを。 勿論、42柱の悪魔の存在意義を忘れないようにしてね」

「ならば…… 不死のセオラク。 彼が適正でしょう」

「いるかい、セオラク」


 その言葉に反応する様に一人の悪魔が動く。

 見た目は完全に人間だ。

 だけど、その腰はひどく曲がっており、目の下にはクマがある。

 そして、不潔な白髪の間から睨みをきかせながらエトの前に出る。


「偵察、頼んでいいかな?」

「い、いいよ…… だ、だけど…… 勝てないよ」

「偵察は勝たなくていいんだよ。 ただ、情報を共有すればいいんだよ。 君にも渡したよね、感伝のレセプレの能力を」

「う、うん…… で、でも…… うまく使えるかな……」

「大丈夫、君ならできるよ。 ああ、それと…… 最後は何をするか分かってるよね?」

「う、うん…… おいら…… 頑張るよ」

「よし、それじゃあ残った者達は各々が迎撃態勢を取って。 多分20分もしないうちに彼は来るよ」


 悪魔達は各々の場所へ動き始める。

 今は恐らく神達の世界に居るのだろう。

 とてつもない化け物。

 あれはこの世にいてはいけない奴だ。

 奴は全てにおいて警戒している。

 だから、創造の能力は阻害魔法により簡単に跳ね除けられた。

 あれ程の技量を持ちながら弱者の如き警戒心。

 一体どんな世界から来たのか。


(流石にあれより強い奴がこの世界に来る事は無いと思いたい……)


 エトはそんな事を考えながらも、水晶での映像の確認は怠らない。

 既に作り上げた災厄龍も全滅している。

 こうして見るとあらゆる物がこの短期間にて潰された。

 だが、それに寧ろ感謝している。

 

「フフ、これから面白い事になりそうだね」

「そうならなくては困ります。 ただ…… 気がかりなのは叡智ですね」

「そうだね、完全に向こう側についてる。 だけど、そのおかげで簡単にゼフの動きを知れた」

「それはそうですけど……」

「一枚足りないって言いたいんでしょ? 心配ないよ、君だって一本の柱で支える事ができると思う?」

「確かにそうですね…… しかし、そうなると残酷ですね。 叡智には契約している人間がいます。 その負荷に耐えられませんよ。 結局はこの世から消えます、骨すら残さずにね」

「そうだね、でもそれでいいんだよ。 契約者が死ねばゼフは困るからね。 少しは抵抗できるってもんだよ」


 そんな不気味な会話が廃城にて響き渡る。

 やがて時間になったのかエトは椅子から立ち上がるのだった。

 

 

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