第179話 極限

 ローグの森のあちこちで金属音や爆発音が鳴り響き始め、ギエルは味方もまた死闘を戦い始めたのだと感じる。

 ギエルは自分に向かってくる蟲達を見据え、横に一太刀剣を振るうと先程まで元気に動いていた蟲達が全て真っ二つに分かれ動かなくなる。

 だが、肝心のゼロ・ダークネスは今の攻撃を防いだらしく、何事もなかったように直立不動の姿勢を維持している。


「あ、あの数を一瞬で! まずいっす! これはまずいっす!」

「イチさーん!!! 俺を守ってくださいよー!!! 死にたくないですー!!!」

「無理っす! 自分の身は自分で守るっす!」


 なんとも騒がしい人間だと思いながらもギエルはゼロ・ダークネスから視線を外さない。


「さて、どうしたものか……」


 そんな事呟きながらチラッと剣身を見てみると、使い物にならない程に腐っていた。

 しかもそれは未だ進行中なのか、自らが持つ柄にまで及ぼうとしていたので手放す。

 そして、何もない所から新たな剣を生成すると、空いた右手にそれを収める。


「厄介な能力であるな…… ただ一度の攻撃で使い物にならない程の腐食。 だが、我には武器を生成する能力がある故にそれは効かん。 それにこれはどうかな? 剣技『飛斬』!!!」


 ギエルはそう言うと、ゼロ・ダークネスに飛ぶ斬撃を繰り出す。

 凄まじい速度で地面を抉り、木を真っ二つに斬っていくその斬撃はゼロ・ダークネスに到着するや否や消え去る。

 それにギエルは驚きはしなかった。

 次なる手を打つ為に叫ぶ。


「剣技『多重飛斬』!!!」


 数える事すらバカバカしい程の斬撃がゼロ・ダークネスを襲う。

 その攻撃に流石のゼロ・ダークネスも無傷というわけにはいかず、軽い傷が付く。

 直ぐにデス・レイによる回復魔法で治したものの、ギエルはそれを見逃さなかった。

 もう片方の手に新たに生成した剣を持ち、同じように多重飛斬を繰り出す。

 それ故か辺りは砂煙で包まれる。


「だ、大丈夫なんですか!」

「知らないっす! 自分で考えるっす!」


 視界が悪くても二人の男の情けない叫びが響く。

 その間もギエルの攻撃は緩むどころか増している。

 神の力はそれ程までに圧倒的であった。

 だが、それを許さない者がいた。

 ギエルは今まで緩める事なかった攻撃を止めると、額の汗を拭いながら口を開く。


「まさか…… 我が押し切る事ができんのもそうだが、想像以上の能力であるな」


 そんな事を言うギエルの両手の剣は、酷く錆びれボロボロになっていた。

 ギエルは剣を手放し新たな剣を生成するが、それを持った瞬間に急速に腐食していき、他の剣と同様みるも無残な姿に成り果てる。

 これには流石のギエルも焦る。

 目の前いるあれ程つけた大量の傷が無かったように立ち尽くすゼロ・ダークネスが嘲笑っているかのように思えた。

 武器が無ければ戦神は戦えない。

 相性は最悪と言っていいだろう。

 確かに最初は自らの力でなんとかなると思っていた。

 だが、それは圧倒的に不利な状況を覆すには至らなかった。


「…… 我は剣を失えば戦えぬ」


 それは屈辱的な初めての敗北。

 だから、ギエルは戦神のみが持つ能力を発動させる。

 極限にまで集中力を高める。

 すると、身体から眩い光が溢れ出す。

 極限突破、その能力は全ての能力値を数千倍にして自らを武器と同等の扱いにする。

 そうする事でギエルは武器の攻撃力や硬度を上げる能力を沢山保有しているのだが、それが自分自身にも適用されるのだ、

 極限突破と合わせれば凄まじい程の強化を得ることができ、それに対抗できる生物はいない。

 これが本来の戦神の本気なのだ。

 故に星を割るというのは少々の過小表現である。

 正確には一つの宇宙を破壊する事も可能と言うべきだ。

 準備ができたのか、戦神はバチバチとリジを放ちながら口を開く。


「我の準備は終わった。 この状態だと力加減が難し。 故に周りの被害を抑える為に一瞬で終わらそう」

 

 ギエルが拳を振るうと、人が十数人は入れるであろう距離であるにも関わらず凄まじい音を立てながらゼロ・ダークネスが後方に吹き飛ばされる。

 それに遅れて反応したイチ達が驚愕の表情を上げながら悲鳴を上げる。

 そして、更に遅れて台風と呼んでいい程の風圧が押し寄せてくる。

 ギエルはそれに油断する事なく、さらに一発打ち込む。

 今度は軽く万を超える防御魔法で自分の身を守ったゼロ・ダークネスだが、半分ほどの魔法は耐えきれず砕け散ってしまう。


「これで最後だ、奥義『真空嵐圧斬』!!!」


 剣技や斧技、弓技などの上位の技である扇を放った瞬間、そこにあった音というものがなくなる。

 そして、ゼロ・ダークネスの首が吹き飛ぶ。

 勝利を確信したギエルはすぐさま蘇生魔法が使われないように自らが最大限使える阻害魔法を使う。

 だが、ギエルは今でも使っている強化魔法は得意であったが、阻害魔法は苦手であった。

 それ故かギエルは蘇生魔法の発動を許してしまう。


「やり損なったか…… ならば次で決めよう」


 ゼロ・ダークネスはデス・レイによる阻害や弱体化魔法を受けている。

 だから、今の阻害魔法をデス・レイが防ぐ事ができなかった死んでいただろう。

 それに阻害魔法を苦手というのも不幸中の幸いだった。

 だが、それ故か呼び覚ましてしまう。

 ゼフに抑えられたゼロ・ダークネスの残虐性を。

 この時ゼロ・ダークネスはゼフの命令を無視し、デス・レイの阻害魔法すらも抵抗して魔法を発動するのだった。


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