第177話 エト
辺りを覆い尽くす程の蟲。
それが一兆匹。
インセクト・ドラゴン、エレファントビートル、ガーパルイン等様々な種類の蟲達が羽音を立てながら迫ってくる。
これにはエトも予想外だったであろう。
後ろに控える百万のエトの兵士達はその光景を目の当たりにして萎縮してる。
「ククク、これで正々堂々と戦えるな。 ああ、大丈夫だ。 お前らがこれでは勝てないのは分かっている。 だから、増援が来るのを待ってやる」
「…… 君、性格悪いって言われない? 増援はないよ」
「そうか、だったら早速決着をつけようか」
「…… そうだね、でも本当にいいのかい? このままじゃ僕が勝つよ」
「流石にこの状況を理解できないとは…… 所詮はその程度か」
「本当にそうかい?」
暫くの沈黙が流れる。
蟲達はゼフの命令がないからか、頭上で羽音を立てながらそこにいる百万という食糧を見据えている。
そして、嘲笑いながらゼフが口を開く。
「…… そういえば、この世界に来て気がかりな事があった。 それはあまりのレベルの低さだ。 召喚士が不遇というのも分からないが、そんな事より魔法を使っても自分の魔力が上昇した事さえ実感できない魔導士。 普通ではありえない」
「…… どういう事かな?」
「分からないか? 魔力は全ての根源だ。 その利便性は圧倒的だ。 仮に魔導士が魔法を使い、魔力を上昇する事に気づけばそれを追求し、他の職業の者達もそれに気づき自然と強さのレベルが上がるはずだ。 だが、この世界では現状を見るに誰もその事に気づいていない」
「それは仕方ないんじゃないかな? それがこの世界だったという事だよ」
「本当にそうか? 俺は今まで沢山の生物を見てきたが、知能は元の世界にいる奴らと何ら変わりない。 だったら気付く筈だ。 サン、お前は自分の魔力を感じられるか?」
「はい、感じられます」
「…… 君の言いたい事はさっぱり分からないよ」
そう言うエトだが、彼の額にはうっすらと汗が滲んでいる。
ゼフはそれをもって疑惑から確信へと変わる。
「分からないか? なら教えてやろう。 サンはとある呪いにかかっていた。 魔法が使えないというな。 そこまでなら何も不思議な事ではない。 あの時はそういう類の魔法が無いという事を疑わなかったが、今になってようやくおかしいと感じ始めた」
黙ってそれを聞いているエトに対してゼフは話を続ける。
「さて、次に老王。 お前は奴に断られたよな? それに自らがリジを手に入れる事ができる執念。 ククク、お前が制御できなかった者だ。 そして、俺は一つの仮説を立てた。 それはこの世界な者達はある者に強くなれないようにされていると」
「…… 随分と立派な妄想だね。 それで何のメリットがあるんだい?」
「ククク、メリットなど単純明快。 自分より強い奴が現れるのを防ぐ為だ。 そして、それはとある能力が関係している。 恐らくそれは全ての生物には効かない。 だが、サンには呪いを。 老王には放っておいても寿命で死ぬと分かっていたから何もしなかった。 こんな所だろう」
「一体何の能力が関係しているのさ」
「それはお前らの中で一番強い奴が知っている筈だ」
「だったら僕は関係ないね。 一番強いのは戦神、既に君のもう一つのチームを潰してるんじゃないかな?」
「…… そうか、まぁ所詮は推測。 外れることもあるが、随分と汗を掻いてるな。 どうした?」
エトはその言葉に笑って返す。
「少し暑かっただけさ」
「ククク、そういう事にしといてやろう。 では、開戦といこうか」
エトはその言葉に身構える。
他の者達もそれに呼応するかのように伝わり、全員が臨戦態勢に入ったのを確認するとゼフは命令を下す。
「進軍だ」
その瞬間、辺りに奇怪な叫び声が響き渡る。
そして、蟲達は勢いよく飛び出す。
狙いはそこらにいる人間や獣人などの餌。
二つの軍勢はぶつかり合うと同時に緑色の血が飛び散る。
最初の攻防はなんと蟲達が負けるという結果になる。
殆ど被害を出さずに蟲達を屠っていく。
この戦場に持ってきた気迫が違うのだ。
絶対に負けられない…… いや、負けたくないという思い。
それが餌だと余裕をこいている蟲達を凌駕しているのだ。
ゼフはそんな光景を眺める。
それをチャンスとばかりにエトは大量の魔法を撃ち込む。
秒間約千という魔法がゼフを襲うが、肩代わりの能力により全て防がれる。
「ククク、無駄な事だな」
「本当にそうかい? 肩代わりの弱点は君にも分かっているよね?」
それを聞いたゼフの顔色が変わる。
そう、肩代わりというのはゼフの蟲を主体とする戦い方ではただの欠陥能力なのだ。
理由を言わせまいとゼフは命令を下す。
「殺せ」
それを聞いたハ・ダースはエトに音の衝撃波を放つ。
それを防ごうとするが、虚しくもエトに直撃する。
やがて魔法はその後ろで戦っている者達に直撃したかと思うとバタバタと倒れる。
だが、エトはそれを受けても立ち上がる。
しかし、結局は他の者達と同じ末路を辿り倒れる。
「…… 呆気ないな」
「そうかな?」
可愛らしい無邪気な声が後ろから聞こえたので、急いで振り向くとそこにはエトが無傷の姿で立っていた。
ゼフはそれを見た瞬間、今までの警戒レベルを数段上げ阻害や抑制、弱体化魔法を使うようにデス・レイに命令すると、ハ・ダースに再び攻撃するよう命令するのだった。
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