第174話 迎撃戦前
「まず僕達がどこから食料を集めてるかを知ってるかい、一真」
「いや…… 分からない」
「最果ての地、そこにいる魔物達に分けてもらってるんだよ。 幸いなことに食べ切れないほどの食料があるからね。 だけど、それもつい最近までの事となってしまった」
「…… どういうこと?」
レイアがそう問うと、エトは暗い表情を浮かべながら口を開く。
「ゼフが最果ての地に侵攻を始め、そこに住む魔物達が食糧危機が来ることを推測し、自分達で独り占めし始めたんだ」
その瞬間、一真とレイアの背筋が凍る。
いや、予想はしていた。
戦神が言うには近い内に戦いが起こるとも。
だが、それならどうして神達は何もせずこの世界に居るのか?
それを答えるかのようにエトが再び口を開く。
「二人が考えている事は大体理解する事ができる。 だけど、次元から向こうの世界に行くには厄介な事があるんだ」
「…… 厄介な事?」
「うん、まず勘違いしてもらいたくないのは、次元である裏の世界と二人が住んでいた表の世界に行き来する事は容易ではないんだ。 まず、魔法では絶対に行き来は不可能。 唯一行き来できるのはそういう能力を持っている者だけなんだ」
「そんなに少ないのか?」
「僕含めれば三人、その中でも複数人を同時に移動させることができるのは僕だけだ」
その言葉に衝撃を受ける。
そんなにも少ないのかと。
「一真、レイア。 二人の気持ちは分かるけど、もう少し待っていてほしい。 そうすれば…… 」
「そうすれば?」
「万人規模の移動が可能になる筈だよ」
「え? 万人規模?」
レイアはそんな素っ頓狂な声を上げてしまう。
その隣に座る一真も理解できなかった。
さっきは三人しかいないと言ったにも関わらず、万人規模も可能と言ってのけたからだ。
「なになにそれ? 私も知らないこと?」
「そうだよ、フレイ。 僕達は既に次元移動の技術を完成させようとしている。 数年前から行われていたこれはようやく身を結ぶことができるんだ。 そうすれば…… 集まった200万人でゼフを迎え討つことも可能なんだ」
「…… 一体どういうことだ?」
一真には話が飛躍しすぎてどうやら理解できないようだ。
だが、隣に座るレイアはそれを理解したのか口を開く。
「つまり、私達はこのまま待てばいいのですね?」
「そうだよ、そうすればゼフを討てる。 だから、二人には準備していて欲しいんだ」
「よく分からないけど…… 俺達は奴に一泡吹かせられるんだな?」
「そうだよ、ゼフは現在エルフを手に入れ、沢山の蟲達を進行させた。 これを第一波と呼ぶなら、それは戦神が既に勝利を収めてくれた」
「本当ですか!」
戦神、確かに強いとは聞いていたがあのゼフの蟲を倒すとは驚きである。
そして、自分では戦神の全力を引き出せなかったことに少し悔しさをも覚える。
「だから、僕達はその次に来るであろう蟲の軍勢を討つ為に二つのチームに分けようと思うんだ」
「…… 二つのチームですか?」
「そうだよ、組み分けとしてはリーダを戦神と僕の二つで迎え撃つ。 ゼフもそのつもりらしいしね」
「なるほど…… それで俺らはどっちに行けばいいんだ?」
「一真とレイアは僕のチームで、迎え撃つ場所はレツェ平野。 そして、フレイは戦神のチームで、迎え撃つ場所はローグの森」
「え? 私も?」
「そうだよ、神は全員行くことになってるから」
「えー、じゃあゼフ本体の相手をしなければならないってこと?」
「いや、そうでもないよ。 ハッキリ言ってどちらに来るかは僕にも分からない。 だけど、来なかったからと言ってなめない方がいい。 敢えて向こうも戦力を二つに分けているんだから」
「…… 一つ聞いてもいいか?」
「なんだい、一真」
「その情報、どうやって手に入れたんだ?」
一真は当たり前の疑問を投げかける。
失敗は絶対に許されないのだ。
これぐらいは仕方ないことなのだろう。
エトは表情一つ崩さずそれに答える。
「神の力というものかな? いや、神の中でも創造神である僕にだけ持っている世界を見渡す力。 これのおかげだよ」
エトがそう答えると、数秒の沈黙が訪れる。
そして、それを破るかのように一真が口を開く。
「そうか、疑って悪かった」
「いいんだよ、今はそういう状況なんだから。 さて、僕は今から少しやることあるからいいかな?」
「エト、もう行くの?」
「ごめんね、フレイ。 リーダーというのは忙しいんだ。 家の前に人が集まってるでしょ? あれは君達に教えたように情報を共有して回ってるんだよ」
「そんなのメッセージでいいじゃん!」
「…… 魔法が使えなかったり、魔道具を持ってなかったりする者達もいるからね。 仕方ないよ」
エトはそう言うと立ち上がり、扉をゆっくりと開ける。
そして、最後に言い残すように口を開く。
「何かあったらメッセージで教えてね。 それじゃあ」
そうしてエトが出て行った部屋では、なんだか腑に落ちない一真と同じ気持ちであるレイア、そしてお気楽なフレイが残った。
何度考えても何かが引っかかるが、今はそれを忘れるように修行をして残りの時間を過ごすのだった。
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