第173話 食料異変

 戦神の元に訪れてから数日が経った。

 現在、一真はレイアと共にフレイの指導を受けていた。

 あの時、戦神に強くしてもらうと約束したが、どうも忙しいらしく、一日で指導される時間は四時間取れればいい方であった。

 だから、残りの時間をこうしてフレイの指導を受けているのだ。

 そして、それは確実に一真の物となっていた。


「はい、今日はもう終わりよ! やり過ぎも良くないからね。 特にレイアは」

「別に大したことないですよ。 私は師匠が思ってる程弱くはないですよ」

「焦るのも分かるけど、私が断言してあげるわ。 貴方はここに来てから随分と強くなった。 でも! 私にはまだ勝てないけどねー」

「もう、茶化すのはやめて下さいよ……」

「プププ、やっぱりレイアの反応は面白いなー」


 そんなやり取りを隣で見守る一真だったが、つい気になったので口を開く。


「フレイ、俺は今どれくらい強いんだ?」

「そうだね…… やっぱり戦神様の指導を受けてるだけあって見違える程強くなったね」

「そうか……」


 一真は納得してそれ以上聞いてこなかったが、フレイの言葉は過小評価である。

 最初出会った時は負ける気がしない程矮小な存在だったが、たった数日でそれは勝てない存在になっていた。

 まさかここまでの化け物とは思わなかった。

 故にそれでも足りないと彼に思わせる程の敵に恐怖を抱いてしまう。

 だけど、希望を捨ててはいけない。

 そうしなければ勝てるものも勝てなくなるのだから。

 そう自分に言い聞かせフレイは口を開く。


「さて! 一先ずはご飯だね。 今日は何にしようなー」

「…… 師匠」

「どうしたの? レイア」

「食材なんですが…… 今日の分がまだ支給されてないです」

「なぬ⁉︎ それは困ったわ…… じゃあ、エトの所に貰いに行こう」

「あまり迷惑をかけては……」

「大丈夫大丈夫、エトは優しいからすぐにくれるってー」

「それよりもどうして支給されていないんだ?」

「私にはサッパリ分かりません。 師匠は…… 知ってる訳ないですよね……」

「ひどい! 私は師匠だよ! 少しぐらい頼ってよ!」

「じゃあ分かるんですか?」

「いや、全然」


 その答えを聞き、レイアがため息をつく。

 だが、食料が配られないなど生物としての存続の危機である。

 もしかしたらこの街の外に見えた気がした何かのせいかもしれない。

 一応その事を戦神に伝え、強い神で構成された調査隊を派遣したのだが結果は何もいないということであった。

 それが分かったというのに…… 未だにそれが信じられないでいる。

 一真達は家の外に出ると、何やらここの住んでる者達が集まっているのが見えた。


「なんだあの騒ぎは?」

「分からないわ、でも何か起こっているのは確かね。 近くに寄りましょう」

「ああ、そうだな」


 三人はその集まりに近づいて行く。

 そして、背伸びして注目している何かを見ようと試みる。

 だが、それを見る事は叶わない。


「これは厳しいな…… 無理やり割り込むのも抵抗あるし、どうしたもんか……」

「待つしかないようね……」


 そう決めた二人は、その事をフレイに言おうと顔を後ろに向ける。

 しかし、そこにフレイの姿は無かった。

 たった数分の出来事というのに…… レイアはため息をつく。


「はぁ…… また居なくなってる」

「多分まだ近くにいると思うけど…… 探す?」

「いや、いいわ。 いつか帰ってくるでしょう。 あの師匠のことだからね」

「そっか」


 一真はそう了承するが、何やら視線の先に見たことある神が歩いているのが目に入る。

 一真はレイアの手を引き、その者に近づくとやっぱりというか、フレイであった。


「フレイ、何してるんだ?」

「あ、一真」

「師匠! 勝手にどこか行かないでくださいよ!」

「何を言うか、弟子であるならこれぐらい慣れてもらわないとー。 まぁ、その話は置いといてこの状況を説明できる神を連れてきたよ!」

「…… 説明できる神?」

「僕だよ」

 

 そんな聞き覚えのある声が聞こえ、そちらに視線を移すとそこには創造神であるエトがいた。


「エトはこの状況を説明できるのか?」

「まぁね、これでも創造神だからね」

「じゃあ、早速教えてもらえないか?」

「その点に関してはフレイの家で話そうか。 いいね? フレイ」

「いいよー」

「よし、行こうか」


 一真達はエトに従いフレイの家に戻る。

 一真とレイア、そして家主であるフレイが座ったのを確認するや否やエトは透き通るようなガラスのコップを生み出す。


「何が飲みたいかな?」

「お酒ー!」

「ダメだよ、フレイ。 何でもいいって言ったけど時と場合を考えないと。 フレイはお茶ね」

「ちぇー」


 エトはコップに手をかざす。

 すると、なんとそこにお茶が生まれたのだ。

 不思議そうにそれを見ている一真に対してエトは口を開く。


「僕は創造神、全てを無から創り出すことのできる唯一の神だ。 だから、飲み物を生み出すなんて僕にとっては息をするように簡単なことなんだよ」

「そうなのか…… 他の神にも似たような力が?」

「そうだよ、ここにいるフレイなんかだと生み出した火に限るけどそれを操ったり、火力を上げたり、そして永遠に消えないようにしたりできるんだよ」

「…… 想像がつかない」

「まぁ、そうだろうね。 僕含め神は能力を使って危害を加えることは禁じられてるからね。 それで一真はどうする?」

「…… 水で」

「レイアは?」

「師匠と同じのをお願いします」


 エトは嫌な顔せずニコニコと水とお茶を生み出すと、ようやく自分も椅子に座る。


「さて、それじゃあ話すとするよ。 これは大事な事だから聞き逃さないように気をつけてね」


 そうしてエトは今この世界で起こっている食料問題について話し始めたのであった。

 


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