第172話 最果ての地へ

 その後サンはゼフと合流すると城の外に向かう。

 外には増蟲というてんとう虫に牙を持たせて馬程に大きくした蟲が客車に繋がれて待っていた。

 ゼフは客車に乗る前に出送ってくれたアリシアに向かって口を開く。

 

「アリシア、後のことは任せた。 もうじきエルフがやって来てお前の助けをしてくれるだろう」

「存じ上げております。 蟲国の内側の事は全てお任せください」

「ああ、頼んだぞ。 エルフ達はあらゆる知識を持っている。 お前のためにもなるだろう」

「ありがとうございます」

「それとフォルミルド」

「はい、なんでしょうか?」

「一応聞いておくが、お前を信じていいのだな?」

「はい、勿論でございます。 私達悪魔は契約した者を裏切ることはありません。 私の契約しているアリシアの従うものなら尚更です」

「…… そうか、ならば大丈夫だろう。 最後に蟲達による警備を倍増させる。 種族は最低でも遷移種を使っている。 もし、何かあればこいつらが対処して俺の耳にも入る手筈になっている。 くれぐれも注意しろ」

「お任せください、私の…… 国を守ってみます」


 アリシアがそう言ったのを確認すると、ゼフはサンと共に客車に乗り込む。

 そして、ゆっくりと進み始めた。

 目的地は最果ての地。

 そこにいる生物を全て殺せば、ゼフの考える世界の支配が完了する。

 だが、創造神と呼ばれるそいつは邪魔をしてくるだろう。

 現状では裏切りに最大限の警戒を…… 特にアリシアに裏切られた場合には国が機能しなくなってしまう。

 敵もそれは考えているだろう。

 だから、警備を増援してアリシアとフォルミルドを監視すると共に、裏切ればどうなるかと言う意味でそれを教えた。

 そして、最後の砦としてエルフを使ってアリシアの仕事を減らすと共に密告する役目を与えている。

 流石にここまですれば裏切ることはないと思うが、念には念をだ。

 やがて時間が経ち、禁忌の森に到着する。

 ここまで二時間と言った所である。

 流石は増強魔法で速度を上げているだけはある。


「さて、後はこの森を抜ければ最果ての地だ。 ククク、絶対に後悔させてやる。 そして、お前を殺して世界を手に入れてやる」


 ゼフはそんな事を言いながら増蟲に命令すると、森の中に進み始める。

 同時にデス・レイに最高位の隠蔽と阻害魔法を使うように命令すると、サンを見ながら口を開く。


「サン、これから大事な話をする。 一度しか言わないから聞いておけ」

「はい、なんでしょうか?」

「今回の作戦についてだ」

「作戦ですか?」

「ああ、そうだ。 敵は今までで最も強い。 例え圧倒的な力の差があったとしても警戒は必要だ」

「そうなのですか? 私には特に必要ないと思いますが……」

「…… 強者は弱者に勝って当たり前というのが世の常だ。 そして、それはいつか驕りとなり、致命的な弱点となる。 俺もそれは分かっていたが、逆らうことはできず何度も足を救われた。 だから、負けない為にはまずそれを最大限無くす必要がある」


 勿論、完璧に無くす事はできないだろう。

 それが生物として存在するのならば。

 意識していても抗うことはできない。

 だが、それを無くせばいいというものでも無い。

 代償により驕りを無くした強者がいた。

 圧倒的な力で他者を寄せ付けなかったが、それは休まる時を与えず、やがて精神を崩壊し還らぬ人となったのだ。

 

「だが、常に警戒などできない。 必要な時にやればいい。 そして、今はゆっくり休め」

「休むのも戦いということですね…… 分かりました。 今は最大限に休ませてもらいます」


 なんとなくだが、警戒すべきは自分よりも強い存在よりも弱い者という事を理解してもらえたようだ。

 

「それでいい、さて話を戻すが俺達がやる事はこのまま最果ての地に向かい何もせずに進んで行く事だ」

「何もしないのですか?」

「そうだ、勿論向かって来る敵は相手するが…… とにかく大陸の端の方まで行く」

「…… どうして端まで行くのですか?」

「イチが遅れてやってくる手筈になっている。 つまり、挟み撃ちするという事だ」

「…… 挟み撃ちですか? ですが、あからさま過ぎでは無いですか?」

「相手は古種を倒せる程だ。 そう簡単にはいかないだろうな。 だが、それでいい。 誘き出すだけで問題ない。 おそらく敵も挟み撃ちだけは避けたいだろうしな」

「そういうことですか…… 素晴らしい作戦です。 もし、それを見過ごせばあっという間に最果ての地を蹂躙するということですね」

「ああ、そうだ。 敵はこちらの解析に時間をかけてるだろう。 ならばこちらは光の速さで世界を支配しに行く。 そうすれば十分な情報を持たず戦うことになるだろう」


 だが、問題は本当に世界を捨てた場合。

 そうなれば探すのに年単位の時間を有する。

 しかし、それはないだろう。

 今まで邪魔をしてきたこと、自ら姿を現したことにより少なくともこの世界…… いや、最果ての地を必要としているということだ。

 だから、敵は戦わなければならない。

 そう、それが不利な戦いだとしても。


「ククク、力があるというのは有利だな。 こんなにも楽な戦いができるのだから」

「ゼフ様、創造神と戦うことになった場合はどうなさるのですか? 恐らくですが…… 戦力はかなりなものだと思われます」

「それに関しては問題ない、既に蟲を召喚している。 今は隠しているがな」

「では本当にすぐそこにあるのですね?」

「ああ、そうだ。 後はゆっくり休むとしよう」


 ゼフはそう言うと、すべての魔法を解除するようにデス・レイに命令する。


「ああ、本当に楽しみだ。 平和な世界がもうすぐ訪れるのだから」


 ゼフはそう言いながら深い眠りについた。



 

 

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