第164話 欲しかった力

「最強の力…… だと?」


 その言葉を聞いた老王は笑いながらも、ゼフの警戒は怠らない。

 それを見ているゼフは、その言葉だけで老王の身に何が起こったのか理解すると口を開く。


「安心しろ、少しの間待っておいてやる」


 ゼフはそう言ったものの、老王はその言葉に確証を持てない。

 しかし、そんな彼の気持ちなどお構いなしなのか、どこからともなく聞こえてくる声は続ける。


――そうだよ、最強の力だよ――


「フフフ…… はぁ、はぁ…… ワシがそれを飲めば成れるのか?」


――そうだよ――


「そうか…… ならばワシはそんな力要らん」


 どこからともなく聞こえて来る声はそれが意外だったのか、それに返答はない。

 老王は苦しいながらもさらに話を続ける。


「誰かに与えられた力など…… クソくらえじゃ。 ワシが目指す最強はそんなものではない。 お前が誰かは知らんが、ワシをあまり舐めるなよ……」

「ククク、立派じゃないか。 今までその声に魅入られた奴が数多くいたが、まさかまともな奴が一番狂ってるとはな」

「狂わずして最強になれると?」

「いや、成れない。 最強と呼ばれるような奴らは何処かが壊れているもんだ」

「フハハ…… そうか」


 身体の中に入ってきた何かは既に姿を消しており、辺りにもその気配はない。

 しかし、勿体ないとは思っていない。

 最強は与えられるモノではなく、自らの力で手にいれるモノだと。

 ここまで何が足りないか分からなかった。

 全ての能力を均等に鍛えていたが、それが本当に正しいかどうかも分からない。

 残ったのはこれ以上強くなれないという後悔だけだ。

 だがそんな時、何やら力が湧いてくるような感覚に陥る。


「さて、終わらせてもらうぞ。 最後にいいものが見れた」


 ゼフはそう言い、ジェノサイド・ダークネスに命令する。

 それを受けたジェノサイド・ダークネスは老王の前に立つと、その立派な鎌を首元目掛けて振り下ろす。

 これで終わり。

 そう思ったが何かおかしい。

 確認しようと動こうとした時、ジェノサイド・ダークネスが凄まじい勢いで吹き飛ばされる。


「なっ⁉︎」


 まさかの事が起こり、驚きの声をあげてしまう。

 そして、老王に視線を移した時、再び驚きの声を上げる。

 あり得ない、そうあり得ないのだ。

 老王は手に引きちぎられたジェノサイド・ダークネスの腕を持ちながら、ゆっくりと立ち上がる。

 だが、それだけならまだいい。

 問題は彼の身体に流れているリジである。


「リジ…… だと……」

「どうやらワシは壁を超えたようだな。 ちからがあふれてくる」

「まさか…… いや、あり得ない。 代償はその者の意思がないと使えない。 では、どうやって……」

 

 そこまで考えたゼフは理解する。

 老王は自らの力で手に入れたのだと。

 ゼフが長年どうにか手に入れようと考え、そして未だに手に入れることができていない力。

 何をすれば手に入れることができるというのは特にはなく、怒りにより手に入れたとか、寝て起きたら手に入れていたということもある程よく知られていない力。

 しかし、一説ではリジを手に入れる方法は個々によって違うと言われている。

 ゼフはその説を今まで否定していたが、こんな手に入れ方を見ていると、試して見る価値はあるような気がした。

 だが、今はそんなことより目の前で歓喜の表情を浮かべている老王を相手にしなければならない。


「フハハハハ! ワシは嬉しいぞ! お前と戦えて! そして! 更なる高みを目指すことができて!」


 老王に与えていた腹の傷は、いつの間にか消えて無くなっている。

 どうやら魔法にかかっても、多少時間がかかるが、後でそれを無効化することが出来ることに気づいたらしい。

 現に、老王は残っている傷を回復魔法で癒している。


「面倒だな…… 援軍を呼んでおいて正解だったな」

「ほざけ! ワシはこの戦いでさらに強くなるぞ。 それを止められるかな?」

「ああ、問題ない。 ジェノサイド・ダークネス」


 そう呼ぶと、ジェノサイド・ダークネスはゼフの目の前に立ち、老王を威嚇する。

 勿論、腕は回復魔法で完全に回復している。

 だが、問題はデス・レイにより防御魔法や強化魔法などをかけているジェノサイド・ダークネスが傷ついた事である。

 恐らくは防御無視の攻撃ができる、といった能力を持っているのだろう。

 これを阻害魔法や抑制魔法で封じることができるのなら、今のジェノサイド・ダークネスにも勝機がある。


「ゼフ様……」


 しかし、そんな事を考えているゼフを見るサンには、彼が焦っているように見えた。

 それもそうだろう、ずっと欲しかった力を目の前の奴が手に入れたのだから。

 老王はそれを見透かしたように笑う。


「さぁ! 二回戦の始まりだ!」


 そう老王が叫ぶと、大量の魔法陣を展開しながら、こちらに突っ込んでくるのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る