第163話 歓喜

 老王が考えた事は一つ、より早く仕留めること。

 そうすれば、敵の行動によって強いか、弱いかがすぐに分かる。

 ゼフはどうだったか?

 勿論、前者である。

 老王は行手を阻むジェノサイド・ダークネスに拳を振るう。

 それを簡単に受け止められると、休む時間を与えずに次の攻撃を仕掛ける。

 それを数秒続け、次第に老王の表情は緩んでくる。


「面白い! 面白いぞ! ここまでワシと戦える奴は久々じゃ! フハハハハ!」


 だが、そんな高笑いを聞いているゼフは決して楽しくない。

 そもそもの話、戦いというのは基本的に楽しいものではない。

 勿論、ゼフもそう感じることはあるが、それは相手が圧倒的な格下の場合のみだ。

 それなのに老王は、ジェノサイド・ダークネスという同格又は格上の相手と戦い喜んでいるのだ。


「不愉快な奴だ、何がそんなに面白い……」


 ゼフはポツリとそう呟く。

 普通に考えれば、こんな奴は死ぬ程見てきた。

 だが、こんなにも感情が昂ってしまうのは、もしかするとそれは、リジを手に入れることができない焦りから来ているのかもしれない。

 そんなゼフを見てサンは口を開く。


「ゼフ様…… 大丈夫でしょうか?」

「…… ああ、問題ない」


 ゼフはその言葉で心を落ち着かせると、老王とジェノサイド・ダークネスの戦いに視線を移す。

 状況は側から見れば防御に徹しているジェノサイド・ダークネスよりも、絶え間なく攻撃を仕掛けている老王が有利に見えるだろう。

 しかし、未だにジェノサイド・ダークネスを倒せていない事から、こちらの方が優勢である。

 だが、それで油断してはいけない。

 老王は未だに攻撃魔法の類を使ってない。

 勿論、こちらもそうだが。

 そんな事を思っていると、老王が距離を取る。

 そして、空中に100を超える魔法陣が現れ、様々な属性の魔法が放たれる。


「フハハハハ! これは防げるか!」

「ジェノサイド・ダークネス、格の違いを見せてやれ」


 ゼフがそう命令すると、ジェノサイド・ダークネスは老王と同じく無詠唱で魔法を唱え、200もの魔法陣を出現させ、魔法を放つ。

 魔法がぶつかり合い、互いに相殺する。

 だが、数で言えばこちらが優勢。

 残った100の魔法が老王に直撃する。

 勿論、老王もそれを予想していたのか、防御魔法で自分自身を守り、捨て身の突進を仕掛けてくる。

 ジェノサイド・ダークネスはそれを魔法を使い、応戦する。

 老王も同じく魔法で対抗する。

 そして、距離が縮まると、再び激しく殴り合う。


「これだ! これだよ! ワシが長年求めていたものはこれだ!」


 老王は歓喜の声を上げながら殴っているが、見間違いだろうか、その威力や速度が上がっているような気がする。

 ジェノサイド・ダークネスにはデス・レイによる魔法のサポートあってか、傷一つ付いていないが、それでも老王の成長に付き合う必要はない。

 そう考えたゼフは、ジェノサイド・ダークネスに命令する。


「ジェノサイド・ダークネス、終わらせろ。 デスサイスだ」


 その命令を受けたジェノサイド・ダークネスは鎌を大きく振りかぶる。

 それを笑いながら受け止めるが、あまりの威力に後ろに吹き飛ばされる。

 そして、老王は膝をつきながら、こちらを見つめている。

 しかし、デスサイスを真面に喰らったからか、お腹から大量の血を吹き出し苦しそうにしている。

 そして、老王は口を開く。


「何故だ…… 回復魔法が……」

「流石は老王というだけあるな。 グリムでも一撃だったというのに。 それで聞きたいことがあるんじゃ無いか?」

「はぁ、はぁ…… 回復魔法が使えん…… 何故だ……」

「ククク、簡単な事だ。 先程食らったデスサイスの効果の一つだ。 効果としては単純に、この攻撃に当たるモノの命を奪う。 まぁ、それは普通なら無理だから、今回はお前の使う回復魔法の命を奪った。 つまり、お前はこれから先回復魔法を使うことはできない」

「そうかよ…… だが、おかしい。 ワシは阻害魔法を使っていたはずだ……」

「阻害魔法は阻害魔法で防ぐことができる。 だから、ジェノサイド・ダークネスはお前の使っているそれを全てを無効化したということだ」

「そういうことか…… ならば何故命を取らなかった……」

「お前も言ってただろ。 俺はより面白い方を選んだまでだ」

「…… そうか。 まぁ、仕方ないな…… 強き者に殺される。 これ程幸福なことはない」

「…… 俺がいうのもなんだが、狂ってるな」

「フハハ…… それが俺の生き様よ」


 話すことも困難になってきた老王。

 しかし、その目は未だに一矢報いようとする怪物の目だ。

 ゼフもそれが分かっている。

 老王は笑いながら、ゆっくりと口を開く。


「さぁ、殺してみろ…… 俺はお前の記憶に残り、お前の中で最強を刻む」


 そう言うと、身体の中に何かが入ってくる感じがする。

 そして、どこからともなく聞こえる。


――最強の力が欲しいかい?――


 老王はそれに笑うしかなかった。

 





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る