第162話 死ぬ気

 次の日、ゼフは朝からいつものようにリジを手に入れる為の特訓を日が沈むまで行った。

 そして、肉体的にも、精神的にも疲労したままサンを連れて外に出た。

 普通ならば暗いであろうそこは、魔法によりところどころ照らされ、幻想的な光景が広がっていた。


「そう言えば、この時間に外に出たことはなかったな。 中々なものだ」

「はい、私もそう思います」

「さて、エランドルの所に向かうとするか。 おそらく、負けて帰ってきている頃だろう」

「はい、分かりました」


 サンがそう返事するのを確認すると、エランドルの家に歩みを進める。

 何度も通った道。

 それを一歩一歩確実に進めて行く。

 だが、家までもう少しというところで、道の真ん中に誰か立っているのに気づく。

 ゼフは歩みを止めると、その者に問いかける。


「道の真ん中で何をしている?」

「…… お前がゼフか?」

「ああ、そうだ」

「数時間前、この集落の族長を含めた数百人のエルフが我らに襲撃を仕掛けてきた。 それはお前の仕業だろう?」

「そうだ」

「それは我らに敵対するということか?」

「言わなくても分かるだろ。 それで、エランドル達はどうした?」

「安心しろ、全員生きている」

「そうか、ならば問題ないな」


 ゼフはそう言うと同時に、デス・レイに命令を下す。

 だが、倒れることはない。

 それを目の当たりにしたゼフの表情が動く。

 即死魔法、それを防ぐことができるのは阻害魔法である。

 確かに低位の即死魔法を使ったが、仮にもデス・レイの使った魔法。

 決して弱いということはない。

 先程まで余裕だったゼフの表情が曇る。

 そして、次の瞬間隠れていたであろうエルフ、数にして20人程が同時に魔法や弓矢で襲いかかってくる。


「サン、離れるなよ! ジェノサイド・ダークネス!」

 

 ゼフがそう叫ぶと、透明化の魔法により近くで待機していたジェノサイド・ダークネスが魔法を解き姿を現すと、その全てを撃ち落とす。

 しかし、それを知っていたかのように次の攻撃がやってくる。

 完璧な連携、それに阻害魔法を使うなど、戦い方を知っている。

 非常に厄介な存在である。

 ゼフはデス・レイに低位の即死魔法以外の使用を許可する事を命令すると、襲ってきている者達全員の足元に青白い魔法陣が現れる。

 そして次の瞬間、その者達の身体に稲妻が走る。

 目に見えるほどの稲妻、だがあまりに強すぎるその魔法はゼフを包み込み辺りに大きなクレーターを作ってしまう。

 やがて砂煙が止み、ゼフがクレーターの真ん中でゆっくり立ち上がると呟く。


「少し侮りすぎたようだな」

「だ、大丈夫でしょうか!」

「ああ、問題ない。 そんなことよりも、これからはデス・レイによる攻撃魔法が使えない。 さっきのも一番弱い雷魔法だったが、この有り様だ。 非常にまずいな……」

「ゼフ様…… ですが! 新たな蟲を召喚すれば」

「サン、俺はもしかすると緩んでいたのかもな。 エルフを支配すれば世界を支配できると。 だが、その結果が先程の特訓だ」

「あっ…… ということは魔力は――」

「ゼロだ、こうなっては頼りになるのはジェノサイド・ダークネスとデス・レイ、そしてジ・ザーズのサポートや補助魔法だけだ。 まさか、こんな所でこのレベルに会うとはな」

「では…… どうすれば……」

「安心しろ、勝つのは俺だ。 一先ずは援軍を呼ぶ。 そして、老王を倒す。 ほら、見てみろ。 噂をすれば主役の登場だ」


 ゼフがそう言いながら見つめる先には、一人の年老いたエルフが立っていた。

 だが、それは今までの奴らの比ではない。

 弱体化や阻害、そして抑制魔法を使用しているが、全て跳ね返している。

 つまり、レベルはグリムと同等。

 いや、それ以上という事だ。

 老王はクレーターを下り、ゼフの近くに寄ると、ギラギラと睨みを利かせながら口を開く。


「お前が強いと言われているゼフか」

「そうだ、お前は老王か?」

「ああ、そうだ。 にわかには信じ難かったが、ワシの弟子を一瞬にして消し済みにした所を見ると、本当のようだな」

「ククク、まるで誰かに俺の強さを聞いたみたいだな」

「ああ、聞いた。 この集落の族長の息子にな」

「そういうことか……」

「見たところ、魔力がゼロのようだが、そんな事でワシと対等に戦えるのか?」

「安心しろ、お前が思ってるよりも俺は強い。 それに、こうなったのも俺の失敗だ。 まぁ、その方がより早く、そして確実に俺の目指している強さまで辿り着けるから問題ないがな」


 ゼフはそう言うと、老王は嬉しそうに笑う。

 種族は違えど、こいつもまた最強を目指して、何でもする男なのだと。

 確かに舐められてると言われたらそれまでだが、意外にも悪い気はしなかった。

 だが、サンはそんな二人を見て理解していた。

 老王は踏み台なのだと。

 リジという力を手に入れる為の。

 毎日やっている肉体や魔力の訓練だけじゃダメなのだと気づいたのだろう。

 まさしく死ぬ気でやる事。

 それだけが、ゼフの頭の中でいっぱいだった。

 そして数刻後、先に老王が動いたのだった。

 

 

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