第161話 老王
リアンドロは集落を離れることに約二時間、一際異様な雰囲気を放つ大きな声で屋敷のようなところに訪れていた。
軽く自分の身長の三倍はあるであろうそれについているノッカーで三回ノックする。
すると、ゆっくり音を立てて開く。
中からはまるで忍者のような格好をしたエルフが疑いの目を向けながら出てくると、腕を組みながら口を開く。
「なんのようだ?」
「急に訪ねてすいません。 僕の名前はリアンドロ、この近くにある集落の族長の息子です。 一応メッセージで老王さんに会う約束をしたのですが……」
「…… 約束? ちょっと待ってろ。 今確認する」
老王の弟子であろうエルフが、メッセージの魔法で確認を取る。
暫くすると、リアンドロの方を向き、命令する。
「ついて来い」
リアンドロは逆らう事なくそれに従う。
中に入ると、扉は大きな音を立てながら閉まる。
庭を抜けて、屋敷ねか中に入ると、何やら声が聞こえる。
その声がする部屋をチラッと見たが、どうやら特訓をしているようだった。
そして、屋敷の中を見ていると、とある部屋に着く。
豪華な扉からして、ここが老王の部屋なのだろうと考える。
「この先は俺は行けない。 後のことは自分でやるんだな」
「ああ、ここまでありがとう」
リアンドロはそう言うと、扉を軽く叩く。
すると、入るように促す野太い声が聞こえたので、ゆっくり扉を開けて入る。
中は自分では考えられない程豪華な家具に囲まれている。
そんな光景に驚嘆していると、ベッドの上であぐらをかき、何かを祈っている筋肉の鎧を身につけているような半裸の老人がいる事に気づく。
このエルフが老王。
リアンドロは自分では絶対に勝てない存在を目の前にしながら口を開く。
「失礼します、リアンドロです」
「おう、そこに座れ」
「…… はい」
リアンドロは椅子に腰をかけると、老王はゆっくり口を開く。
「すまんが、今は魔力の鍛錬中だ。 このまま話させてもらうぞ」
「はい、お気になさらず」
「…… リアンドロ、強い奴が現れたというのは本当か?」
「…… はい、本当です」
「そうかそうか、それでそいつは人間種で間違いないんだな?」
「…… はい」
「フフフ…… フハハハハ! ワシはこの時を待っておった! 強敵、そう思える者は最果ての地にもおらんかった。 だが、久方ぶりの強者! 血が昂る!」
「それで…… 助けてくれるのでしょうか?」
「ああ、勿論だ。 お前が前から提案してきていたワシらを率いれるというのにも乗ってやろう。 だがな…… 嘘だった場合、どうなるか分かっとんやろな?」
老王がそう言うと、部屋の空気が重くなるのを感じる。
一定の極地に至った者にしか出せぬプレッシャー。
それにリアンドロは、額に汗をかきながらも耐える。
「勿論です、嘘だった場合はそれ相応の覚悟はあります。 ですが、その心配はありません。 僕が見た中で最強の人間です」
「フハハハハハ! 期待させる事を言うじゃないか! 最強の人間…… ワシも人間と戦うのは久方ぶりじゃな!」
「それでその人間の情報ですが――」
「いらん」
「…… だ、大丈夫でしょうか?」
「そんなもん面白くないだろ? ワシは自分の力がどれだけ通用するかを知りたいんじゃよ。 もしかすると、いつものようにワシの圧勝かもしれんがな」
実を言うと、老王は自らの限界を感じていた。
歳が歳なのかもしれないが、正直なところエルフという種族が悪いとすら感じていた。
もしも自分が龍人などに生まれていたのなら今の100倍は力をつけていただろう。
勿論、その差を埋めるための森人種特有の奥の手があるが、それがあまり好きではなかった。
だから、肉体を鍛えても意味がないと感じ、今では殆どの時間を魔力の量を増幅させたり、魔法を強化する特訓などに使っている。
そして、いつからかそんな自分の限界を越える為により強い者と戦うようになったのだ。
「…… それで、いつ頃出発しますでしょうか?」
「明日だ、今日はこの状態で鍛錬を行いたい。 確かまだ二日あったはずだよな?」
「はい、そうです」
「ならば、今日は鍛錬をする。 出発は明日の昼、弟子も100人ほど連れて行くつもりじゃ。 リアンドロ、今日はここに泊まるといい」
「ありがとうございます」
「最後に、ワシは一人で鍛錬をしたい。 明日の昼には出るつもりだ、それまで部屋に入るな」
リアンドロはそう言われると、軽いお辞儀をして部屋から出ていく。
それを見届けた老王は久方ぶりの肉体の鍛錬を始めるのだった。
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