第165話 ゼロ
ジェノサイド・ダークネスはそれを迎え撃つ。
魔法を互いに打ち消し合い、鎌と拳がぶつかり合う。
実力は互角…… いや、老王の方が上回っている。
徐々に回復魔法が間に合わなくなっている。
それなのに老王はどんどん強くなっている。
「どうした! こんなもんか!」
老王はそう叫ぶが、ゼフは未だに来ることのない援軍に焦りを覚える。
今は抑えることができている。
しかし、これが長く続くはずがない。
それに老王の能力が気になる。
もしかしたら負ける可能性だってある。
ゼフはリジを手に入れる事を諦め、もう終わらせる事にする。
「ジェノサイド・ダークネス、終わらせろ」
そうジェノサイド・ダークネスに命令すると、1000を軽く超える魔法陣を展開しながら、先程とは比べ物にならない程の速さで老王に鎌を振るう。
それで全てが終わる、そう思っていた。
だが、老王はそれを全て防ぎ、不敵な笑みを浮かべながらジェノサイド・ダークネスをたった一撃でバラバラにしたのである。
それを目の当たりにした、ゼフの表情はあまりのことで崩れる。
「ふん! いい戦いだった。 これでワシは数分前のワシよりも強くなった。 残るはお前だな」
「…… 老王、お前は勘違いしている。 俺がその気になればお前など簡単に殺せる事を」
「ならば殺してみろや」
「いい気になるなよ…… 後数分もすれば――」
「つまり、無理と。 フハハハハ! お前は確かに強い、だが今はワシの方が強いようじゃな」
「ククク、自惚れるのも程々にした方がいい。 ならば決めようじゃないか。 どちらが上かを」
「ほう、いい案だな」
「やる事は簡単、殴り合いだ。 先手はお前に譲ってやろう」
「いいのかよ、殺してしまうぞ」
「ああ、構わん。 お前には無理だからな」
「…… なんじゃと? そうか、死にたいのか。 ならば逝かせてやろう」
老王はそう言いながら詰め寄ってくる。
ゼフには考えがあった。
ジェノサイドダークネスがたったの二回。
老王がリジを手に入れた時と、先程の命令の時である。
どちらもこちらから攻撃している。
そうなれば、思いつく能力は一つ。
しかし、外せば終わりだ。
デス・レイによる魔法がかけられているものの、ここで終わりの可能性がある。
正直賭けだ、かなり大きめの。
ゼフは自分の知識を信じて、老王が振るう拳を正面から受け止める。
そして、デス・レイにかけられた魔法が効力を発揮して、それを防ぐ。
ゼフはそこで勝ちを確信する。
「ククク、そうか。 やはり俺の考えは正しかったようだな。 お前が使っている能力は反射、攻撃を防御を無視して跳ね返す。 確かにこれならデス・レイの魔法も意味ないな」
得意げにそう話すゼフに、老王は更に一発拳を叩き込む。
しかし、それが通ることはない。
「ワシにはお前を突破できんと? だが、お前もワシを倒せんだろう」
「今は確かにそうだな。 だが、後少しで援軍が来る手筈になっている」
「それがワシを殺れると。 フハハハハ! 面白い事を言う! ならばそれを利用してワシは更なる高みを目指す」
「それは無理だ」
「…… なんじゃと?」
「お前は勝てん、さっき倒したやつとは比べものにならないからな」
「フハハハハ! それは楽しみだ……」
老王がそう叫ぼうとした時、それはゼフの隣にいた。
慌てて後ろに飛び退くが、本能が気付いているのか額に大量の汗をかいている。
見た目は先程倒したジェノサイド・ダークネスを一回り小さくした姿であるが、全体が真っ黒な闇のもやに包まれており、こちらに青白い瞳で睨んでいる。
恨み、恐怖、死、それらを凝縮したかのようなそれは、老王にとって嬉しいはずの強者の認識を変えるのには十分な存在だった。
「ようやく来たか、こいつはゼロ・ダークネス。 さっき戦ったジェノサイド・ダークネスが進化を重ねた姿だ」
「進化じゃと? それが願ってもない! さっきの奴より強いならワシは更に強くなれる」
「勘違いしない方がいい、さっきの奴は魔王種。 下から数えた方が早い程弱い種族だ。 だが、こいつは終焉種、現状最強の種族だ。 だが、危険が伴わない為にあらゆる魔法や能力で弱体化している。 ハンデとしては十分だろ」
「…… ハンデ? いいのかよ、こいつと戦えばワシは更に強くなるぞ!」
「そうか…… ゼロ・ダークネス、殺せ」
ゼフがそう命令するのを聞いた老王は、すぐに防御の態勢をとる。
普通なら流石というべきだろうが、ゼロ・ダークネスにとってそれは遅すぎた。
ボトンと顔が地面に落ち、辺りに血飛沫が舞う。
そして、傷口から身体と顔が変色を始め、三秒たたずにヘドロのような何かに変形した。
低位の阻害魔法や抑制魔法などでは防げない能力、腐食攻撃である。
「少々厄介だったな」
「…… ゼフ様」
「ああ、サン。 終わった、さてどうやら来たみたいだぞ」
「…… 来た?」
サンにはそれが何か分からなく、頭を傾げていると、何もなかったそこに白い光が漏れ出したのだった。
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