第151話 恋
部屋に着いたゼフは椅子に座ると、深くため息をつく。
コゾクメは外に待機させている。
ゼフは部屋を端から端まで見渡す。
非常に広く、装飾品や家具も豪華だが、ベッドが一つしかない。
「ふん、分かりやすい抵抗を」
「…… ゼフ様」
「どうした、サン」
「はい…… あの、部屋を見て回ってもいいですか?」
「好きにしろ」
「はい!」
サンはそう言うと、嬉しそうにしながらクローゼットの方へ向かって行った。
それを眺めながらゼフはこの先の事を考える。
まず、世界の支配。
これは非常に順調である。
このまま行けば、近いうちにも全てを手に入れることができるだろう。
次は驚異となる存在。
現在、確認できるだけでも三つ。
一つ目はグリムやアクマリなどにリジを与えている未知なる敵.
だが、それは代償によるものだったというのはアクマリを調べた結果分かっている。
だが、それでも最も警戒すべき敵である。
そして、次にアクマリが連れていた悪魔の一人、ミリオンがついたと思われる組織。
もしかすると、代償を与えていた存在と同じということはあるかも知れないが、今はまだ分からないので別々の敵として認識する。
そして、最後は残りの42柱の悪魔達である。
聞くところによると、皇都にはデーモン以外にも居たらしい。
それがどこに行ったのか、はたまた既に死んでいるのか。
それは最低限確認しときたい。
最悪、残りの悪魔達が向かってきても勝てるだろう。
(問題は更なる敵の介入…… そして、グレム以上の敵が出てきた場合。 Sランク冒険者程度ならどうにかなるだろう…… だが、それ以上は絶対勝てるとは言えない。 こればっかりは祈るしかないか……)
ゼフは一点を見つめ、そんな事を考えていると、サンが何かを持ってこちらに近づいてくる。
それを確認しようと視線を移すと、どうやらそれは服のようだった。
サンは服を見せびらかすように、両手でそれを持って広げると、嬉しそうに口を開く。
「ゼフ様、どうですか?」
「…… なんだそれは?」
それはゼフの目に狂いがなければ、メイド服である。
「ゼフ様、これはメイド服ですよ」
サンはそう説明してくるが、そういう意味ではない。
取り敢えず、何故この部屋にそんなものがあるとは置いといて、どうしてサンがこれを持ってきたのかということを聞いてみる。
「それを持ってきてどうするつもりだ?」
「着るんですよ」
「着るか…… もう少しマシな服があっただろ」
「いえ、この服がいいんです。 これならゼフ様の側にいても不自然ではありませんですし、命令して下さった介護の練習もできます」
「そうか、ならば特に俺から言うことはない。 好きにしろ」
「はい!」
サンはそう言うと、今着ている服に手をかける。
だが、それを途中で止める。
何故止めたのか、それはゼフはずっとこちらを見つめているからだ。
サンは顔を赤くしながら口を開く。
「ゼフ様…… あっち向いててください」
「…… 何故だ?」
「あの…… 恥ずかしいからです」
「そういうことか、安心しろ。 俺はお前を性的な目で見るつもりはない。 そもそも人間の女の裸体には興味がない」
「いえ…… そういうことでは……」
「ふっ、冗談だ。 少し後ろを向くからすぐに着替えろ」
「は、はい……」
サンは自分に興味がないのかなと、暗い顔を浮かべていたが、ゼフが冗談を言うところを初めて見ることができ、なんだが少し嬉しくなり、知らず知らずに笑顔になる。
メイド服に着替え終えると、脱いだ服を畳み端の方へ寄せる。
そして、終わった事を知らせる為に口を開く。
「ゼフ様、もう大丈夫です」
「そうか」
ゼフが振り返り、サンを見つめる。
以外にも似合った姿で、正直驚いた。
「ゼフ様、どうですか?」
「ああ、似合ってるぞ」
「いえ、そういうことではなく……」
サンはそう言われ、すこし悲しい表情を浮かべる。
だが、そんなことはお構いなしにゼフは口を開く。
「サン、前に命令した介護の練習だが、これからは俺が練習台になる」
「え…… でも、それは……」
「これは最悪の状況になった時に必要なことだ」
「…… ゼフ様が望むのであれば」
サンは申し訳なさそうに呟く。
「そう言えば、お前が言っていた武闘大会はいつ開催される?」
「おそらく三日後かと……」
「随分とギリギリだな。 まぁ、その日は暇だからいいだろう。 但し、一応言っておくが、俺は初戦で敗退するだろう。 あまり期待しないでくれ」
「ゼフ様が嫌でしたら私としましては……」
「いや、別に嫌というわけではない」
「それなら良かったです!」
サンは眩しいほどの笑顔を向けてくる。
本当に彼女はあの時から変わった。
買った当初では考えられない程、積極的に自分の意見を言うようになった。
だが、ゼフは既に気付いている。
彼女が自分に好意を寄せている事を。
それだけはあってはならないことである。
ゼフはその思いを伝えるべく口を開く。
「サン、お前は俺が好きか?」
「え、えぇ! あ、あの…… その……」
「俺はお前が嫌いだ」
「え……」
「奴隷は奴隷らしくしておけ。 命令は絶対だ。 分かったな?」
サンはこの世の終わりを見たかのような表情を浮かべている。
ゼフはこれで諦めてくれるだろうと思った。
だが、サンの心の内では、逆にその想いについていた火が激しく燃え上がる。
彼女の性格を完璧に把握できていなかったのが、ゼフの誤算だった。
そんなことになっているとは知らず、ゼフは話を続ける。
「武闘大会の日、もしかすると仕込みが完了する可能性がある。 その時は中断してでも森へ向かう、いいな?」
「……はい」
ゼフはそう伝えると、風呂や食事を済ませ、サンと共にベッドで眠りにつくのだった。
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