第150話 法都

 それから数時間かけて法都に到着したゼフはそのまま入ろうとする。

 だが、衛兵らしき男達に行く手を阻まれてしまう。

 一体何があったのかと考えていると、衛兵の一人が叫ぶ。


「止まれえええぇぇぇ!!!」

「…… 止まっているんだが」


 そう返すと、男は顔を赤くしながら再び叫ぶ。


「黙れえええぇぇぇ!!! ここは神聖なる神々が住まう法都! お前が乗っている得体の知れない魔物を入れることはできない!」

「そうなのか?」


 ゼフはサンにそう確認を取ると、頭を横に振る。


「いえ、そのような事は聞いておりません」

「だそうだ、嘘は良くないぞ。 というか、この街は既に蟲国の一つだという知らせは来てないのか?」

「そんなもの知るかあああぁぁぁ!!! まず、名を名乗れえええぇぇぇ!!! 話はそれからだ!」

「煩いやつだな、俺の名前はゼフ。 これから新しくできる蟲国の王だ。 この街の名前もそのうち変わるだろうから、期待しておいてくれ」


 簡潔にそう述べると、衛兵の男は口を尖らせながら口を開く。


「は? お前頭沸いてんのか?」


 意外な反応にゼフは驚く。

 まさか、こんな事を言われるとは思わなかった。

 既にメッセージなどの通信魔法で知らせていると考えていたが、どうやら未だにそれは叶っていないらしい。


「ならばこれなら分かるか? つい最近、水都を支配した。 お前達の王に会わせろと」

「ハハハ! 面白い事を言うな! 何の冗談だよ!」

「そうか…… デス・レイ、こいつらを転移魔法で壺に送れ」


 話ができないと分かると、ゼフはデス・レイに命令する。

 すると、一刻を待たずして衛兵達は姿を消す。

 ゼフは煩い奴らが消えた事に満足し、中に入って行く。

 向かう先はこの街の王である。

 行き交う人々はコゾクメの姿を見て、嫌な顔をしている。

 本当にどいつもこいつも同じような反応をする。

 城に到着するや否や騎士達が衛兵達と同じように食ってかかってきたので、デス・レイに命令して壺に転移させる。

 そして、城の扉を透明化を使い、近くで待機させていたジェノサイド・ダークネスに無理やりこじ開けさせる。

 それを見たサンが心配そうに呟く。


「大丈夫でしょうか?」

「何がだ?」

「いえ、仮にも一つの街の王が住まう所ですので……」

「問題ない、こいつらは近い内に奴隷になる奴らだ。 心配するな」


 そう話しながら城の中を歩き回る。

 途中、騎士のような者達が何人か出会したが、全て壺送りにしたので、心配することはない。

 そして、とうとう王らしき男の姿を見つける。

 見た目からして若く、40前半と言ったところだろう。

 どうやら逃げようとしていたらしく、周りには護衛の騎士達がゼフに剣を向けている。


「どこに行こうとしている。 俺がわざわざ会いに来てやったにも関わらず、この仕打ちとはな」

「黙れ! 賊が! 我らの王を殺らせはせん」


 ゼフがそう言うと、騎士の一人がそう叫ぶ。

 

「お前に話してるんじゃない。 消えろ」


 ゼフのその言葉によりデス・レイの転移魔法が発動し、先程までいた筈の騎士の姿は無くなっていた。

 それにこの街の王であろう男が腰を抜かし、悲鳴を上げる。


「さて、話をしようか。 法都の王よ。 まずは、書簡又は魔法により知らせが来ているはずだが? この街は俺のものとなるというのがな」

「そ、それは…… あれは悪戯では……」

「ククク、違うに決まっているだろ。 まぁ、今なら許してやらんこともない。 間違いは誰にでもあるからな。 それに人間はあまり減らしたくない」


 ゼフがそう言うと、この街の王は既に正座の体勢を取り、額を地面につけるほど、深々と頭を下げていた。

 事態を飲み込むのが非常に早い、優秀な王だとゼフは思う。

 そして、王は頭をこちらに向けながら口を開く。


「この度は誠に申し訳ありませんでした」

「陛下!」


 その異様な光景に周りの騎士達は止めに入ろうとする。

 面倒だからと、ゼフがデス・レイに命令しようとした時、王が叫ぶ。


「無礼者が! お前達も頭を下げろ! それとも、私が頭を下げる意味が分かってないのか?」


 騎士達はその言葉により、仕方なくという感じだが、王と同じように頭を下げる。

 全ての兵士がその体勢を取ると、王が再び謝罪を始める。


「本当に申し訳ありません。 私どもが出来ることであれば、何なりとお申し付けください」

「それでいい、それで何故悪戯と思ったんだ?」

「はい! それは昨日のことでした。 私に一つのメッセージが飛んでき、内容は法都は奴隷になった等現実的ではないものばかりでした。 故に私は法都を陥れようとする悪戯だと判断しました」

「なるほどな、大体は理解した。 特に何か咎めるようなことはしない。 お前達の誠意も受け取ろう」

「はっ! ありがとうございます!」


 ゼフはそう言うと、後ろに隠れているサンの顔を見つめる。

 それに照れて、顔を逸らすサンだが、ゼフはそんなことお構いなしに話し始める。


「サン、お前も何かあればこいつに遠慮なく言え」

「はい、分かりました……」

「それで、お前の名前はなんと言うんだ?」

「はい! 私はアレクサンドラと申します」

「そうか、アレクサンドラ。 俺達は今日から三日、この街に滞在する。 精一杯のもてなしを期待しているぞ」

「このアレクサンドラ! 法都の王として精一杯やらせて貰います!」


 アレクサンドラはそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、ゼフ達をこの城で最も素晴らしい部屋に案内するのだった。

 


 

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