第147話 怒り
「何のようだ? 俺は忙しいんだが?」
「お前がゼフ…… のようだな」
赤髪の青年が顔を曇らせながらそう言う。
おそらく、復讐。
あるいは逆恨み。
どれでもいいが、玩具が手に入るのは嬉しい限りだ。
そんなことを考えていると、何を思ったのかサンが叫ぶ。
「ゼフ蟲王陛下です! もしや知らないで来たのですか!」
今までに無い気迫。
こんなサンは見たことないが、それも自分のことを信用してるからと笑みが溢れる。
そして、サンに関してはもう何もしなくても大丈夫だと考える。
「サン、別に大丈夫だ」
「で、ですが……」
「あいつらも友好的ではないみたいだ。 今は下がっておけ」
「…… はい、わかりました」
サンがゼフの後ろに隠れたのを確認すると、赤髪の青年である一真が口を開く。
「俺の名前は赤羽 一真。 SSランクパーティーの赤の花束のリーダーだ」
「…… 赤羽、だと?」
ゼフはその名前を聞いた瞬間、デス・レイに命令を下し、万を軽く超える阻害、隠蔽、防御、探知、抑制、強化、弱体化魔法などを使えるだけ使う。
そして、ゼフは声を荒げながら叫ぶ。
「サン! 俺から離れるなよ!」
「え、ゼフ様…… 一体どうされたのですか……」
「今は何も聞くな! 俺に従え!」
「は、はい!」
その慌てぶりに一真達は何をしているんだという表情を浮かべている。
そして、その中の猫耳をしている美しい女性が口を開く。
「何してるんだニャ? 私達は話に来ただけだニャ。 あ、私はレイチェルと言うニャ。 よろしくニャ」
そう言いながら手を振ってくるレイチェルだが、ゼフは警戒を解かない。
勿論、探知魔法により一真を含めた四人の情報の全ては筒抜けである。
だが、それは偽装魔法により書き換えられている可能性があるからだ。
「レイチェル、可愛いそうじゃろ。 あやつらは一真の強さに恐れ慄いてるのじゃ。 見てみろ、あの奇怪な魔物を」
「流石に言いすぎよ、ルナ。 それに警戒の仕方は異常だわ」
「レアナよ、少し考えすぎではないか? 我が探知魔法であやつの能力を暴いて見せよう」
そう言いながら探知魔法をゼフに使う。
しかし、全くと言っていい程情報が入ってこない。
それに頭を傾げるルナだが、それもそうだろう。
ゼフはデス・レイによって高位の隠蔽魔法を使っている。
それに自分を対象とした魔法を防ぐ阻害魔法も使っている。
ゼフはその普通では考えられない行動を見て、もしかすると偶々だと思い始める。
「おかしい、何故通らんのじゃ」
「おい、そこの小さい女」
「誰が小さい女じゃ! 我はルナという名前じゃ」
「そうか、ではルナ。 お前は何故探知魔法しか使わない? はっきり言っておこう。 偽装魔法でお前らが弱く見せていることは分かっている」
そう言うゼフの言葉にルナを含めた一真達は話についていけない。
ゼフはそんなこと構わず、話を続ける。
「お前は確か、赤羽 一真と言ったな? ということは、お前はアルフィウルメスを継いでるのか?」
「…… 何を言っているんだ?」
「話を理解してないんだな? つまり、今のお前は神であるアカバネ・カズマ・ザ・アルフィウルメスではなく、人間であるアカバネ・カズマ・ザ・ヒューミーということだな?」
一真は急に怯え出したかと思えば、意味が分からないことを言うゼフという男が言う事を理解できないでいる。
それもそうだろう、この世界には名前の後ろに種族を入れるという概念はないのだから。
例えばゼフで言うなら、人間なので、ゼフ・ザ・ヒューミーという。
だが、普通は名前というのはゼフやサンというように一つである。
しかし、赤羽という名前、いや一族は代々二つの名前を使用してきたのだ。
最も有名な覇王を代々輩出してきた一族、その一族が受け継いできた神は超戦闘特化、名前をアルフィウルメスという。
ゼフが警戒した理由はこのことからであったが、特に意味をなさなかった。
因みに名前を二つ付けるというのは、自由であり、いつでも一つに戻すことができる。
だが、そういう事をするのは強者だけであり、弱者はそれを真似しても直ぐに狩られてしまうのが現実であった。
だけど、それ故かそれは強さを示す指標として広まったのである。
「ゼフ、俺はお前が何を言ってるのか分からない」
「いや、別に問題ない。 もう疑問は解けた。 それで俺に一体何のようだ? その為に探知魔法が入った魔道具を持ってノコノコと来たんだろ?」
「何故それを⁉︎ まさかお前が依頼を――」
「残念だが、俺ではない。 そんなことも分からないとはやはり俺の勘違いだったな。 答えを特別に教えてやろう、探知魔法を使ったんだよ」
「探知魔法……? そうなのか、ルナ」
「不可能じゃ、我は例え無詠唱だとしても、魔法を発動を感知することができる。 お主から魔法の発動が感じられなかった」
「知識と熟練度不足だな」
「無視するんじゃない!」
そう言いながら荒れ狂うルナを諫め、一真はゼフの方に真っ直ぐ視線をやると、口を開く。
「ゼフ、お前は皇都を滅ぼし…… 歩夢を殺したのか?」
「なんだ、そんなことか。 ああ、全て事実だ」
その言葉を聞いた瞬間、一真の感情は怒りに支配される。
ゆっくりと腰の剣を抜くと、ゼフにそれを向ける。
「俺はお前を許さない」
「ククク、憎しみを抱くのは愚かなことだ。 歩夢は弱かった。 ただ、それだけだ」
「殺す!」
それを聞いたゼフはデス・レイに召喚魔法を使うように命令するのだった。
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