第148話 剣と魔法を使う者

 ゼフはデス・レイによって召喚された鉄剣を手に取る。

 強化魔法で筋力が増加しているからか、代償を使ったゼフにも持つことができる。

 その剣の刃を一真達に向けると、口を開く。


「お前は俺を殺すと言ったな? ならば、こちらも問おう。 お前にとっては何が正義だ?」

「…… 何が正義だと?」


 その質問に一真は考える。

 正義、たしかに考えたことがなかった。

 だが、絶対に言えることがある。

 それは人を殺すのは悪だと言うことだ。


「正義というのは俺には分からない。 だが、お前が悪だと言うのは誰でも分かることだ」

「俺が人間を殺すからか?」

「そうだ」

「人間以外は殺してもいいと?」

「そうは言っていない!」


 ゼフは激情しながらそう返してきたので、確信する。

 こいつは未熟だと。

 SSランクになれる強さはあっても、それに伴った精神は無いと。

 そんな事を考えていると、一真の仲間の一人であるルナが叫ぶ。


「一真! あやつの言葉を聞くではない! あやつが言っているのは間違っておる!」

「そ、そうだよな……」

「ククク、俺が間違っているだと? ならばその理由を教えてくれよ」

「私が教えて上げるニャ! あんたはルールを破ってるからだニャ! 人を殺してはいけないというニャ!」


 レイチェルがそう発言するが、我慢できなかったのだろう。

 後ろからレアナが止めに入る。


「それはいくら何でも無理があるわよ」

「何言ってるニャ! そんなことないニャ!」

「レイチェルは少し黙っていなさい。 私が話すから」

「むぅー」


 レイチェルは頬を膨らませながらも、それに従い後ろに下がる。


「ゼフ、貴方は間違ってないわ」

「レアナ!」


 ルナはレアナのその言葉につい声を張り上げてしまう。

 レアナはそれを無視して話す。


「生物としてはね……」

「生物だと?」

「そうよ、貴方は人間として間違っている。 私達は共存の道を進まなければならない。 もちろん、私達が正義とは言わないわ。 でも、大多数の人は貴方に賛同しないでしょうね」

「そうだな、俺のやっていることは人に理解されることはないだろうな」

「随分とすぐに認めるのね」

「別に間違っていないからな。 だが、大多数の者から無理やり賛同を得ることはできる」

「どういう方法かしら?」

「勝てばいいのだよ、勝って勝って勝ちまくればいい。 そうすれば、誰も俺に逆らう者はいなくなる」

「…… 愚かね」

「ククク、そう思ってくれても別に構わん」


 それを聞いていた一真が無言で三人の前に立つ。

 そして、怒りを殺しながら口を開く。


「レアナ、レイチェル、ルナ、下がってくれ。 あいつは俺が殺る」

「…… 一真」


 そう心配するレアナにルナが手を掴む。


「安心せい、あやつは強い。 何も心配いらん」

「そうだニャ、一真の強さはレアナが一番知ってるニャよ」

「…… そうね、分かったわ」


 レアナはルナとレイチェルと共に一真から離れた位置に移動する。

 それを確認した一真は口を開く。


「関係ない人は巻き込みたくない。 その子は安全な所へやってくれないか?」

「安心しろ、こいつは俺の奴隷だ。 死んでも構わん」

「…… ゲスが」


 一真はそう言うと、剣の刃をゼフに向け、顔の横に持ってくると、姿勢を低くする。

 狙うのはゼフのみ。

 暫くすると、剣の刃が青く光り始める。

 その光は全てを包み込むようにして煌めいており、どんどん光が強くなる。

 そして、その眩さが最高潮を迎えた時、一真は叫ぶ。


「剣技『一閃』!!!」


 その瞬間、剣から光の光線のようなものが勢いよく放たれる。

 ゼフはそれを持っている剣で防ぐと思ったのだろう。

 だから、一真はその光と同時に飛び出す。

 だが、その予想は外れ、ゼフの顔に命中する。

 それを見てしまった一真は足を止める。


「剣で防がなかった…… 何でだ?」


 全く理解できない現象に一真は呟く。

 そして、考えても仕方ないという結論に至り、顔から黒い煙を上げているゼフが倒れるところを見届けようとした。

 だが、全く倒れる気配がない。

 それを不気味に感じた一真は後ろに下がり距離を取る。

 そして、聞こえてはいけない男の声が聞こえる。


「反応できなかった、やはり俺には剣は無理だな」

「ど、どうやって……」

「逆に聞くが、あれで終わると思っていたのか?」


 一真は初めてあの技で倒れない敵が現れたことに恐怖を覚えつつ、精神を落ち着ける。

 そして、剣を構えるとゼフに近づき、サンに当たらないよう、剣を振るう。

 だが、何か透明な硬い壁のようなものに阻まれ、ゼフに剣が届くことはない。

 それから幾度もゼフに斬り込むが全く手応えを感じない。

 一真は今まで全力で振るう剣で破れない物はなかった。

 魔法も使えるが被害が増える故に使わないと決めていた。

 だが、パニックになり使ってしまう。


「ば、化け物があああぁぁぁ!!!」


 しかし、魔法陣が現れることは無い。

 ありえない、そうありえない。

 一真は思わず後ろに後ずさる。


「ククク、こんなところで魔法を使おうとするとは馬鹿な奴だ。 使うなら被害を最小限にする為にドームを使わないといけないし、阻害魔法を警戒しなければ、魔法もろくに使えないだろ。 まぁ、言っても理解できないか」


 ゼフはそう言いながら、一真に近付いていく。

 それに最後の力を振り絞り、ありったけの力を込めて剣を振るう。

 だが、それもあっさりと弾かれてしまう。


「そういえば、お前は何故仲間を連れてきて、近くでのんびりと観戦させているんだ? あれでは攻撃してくれと言ってるようなものじゃないか?」

「な、何を言ってる……」


 一真はゼフに剣を構えながらそう言う。

 レアナ達は少し不安な表情を浮かべながらも、一真なら大丈夫だと、じっとこちらを見つめている。

 それを見たゼフは口を開く。


「随分と期待されているのだな、そうだ面白い事をしてやろう」

「…… 面白いこと?」


 一真がそう言った瞬間、辺り一帯が激しく揺れ始めたのだった。

 

 



 


 

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