第146話 弱い

 ゼフとサンが水都を出てから三時間が経った。

 現在、二人はコゾクメの背中に乗り、とある街に向かっていた。


「ゼフ様」

「なんだ?」

「あの…… 私達はどちらに向かっているのでしょうか?」

「法都だ、いやそろそろ名前が変わるから違うか? それも決めておかないとな」

「法都ですか? どうしてその街に向かうのでしょうか?」

「簡単なことだ、森が近いからだ」

「森…… でしょうか?」

「そうだ、俺達は今からエルフの元に向かう」

「全員、殺すおつもりですか?」

「いや、奴らを奴隷として迎える。 現在、大幅に人員を削減したことにより内政をできる者が極端に少なくなってしまった。 それを補う為にエルフの持つ知識を含め手に入れる」


 ゼフは目の前に握り拳を作り不敵な笑みを浮かべる。

 エルフ達の住む森は通称最果ての森と呼ばれ、人間がそこに入ることはない。

 だからこそ、リジを与えている者の手かがりを掴めると感じている。

 まさかデス・レイの探知魔法ですら見つけることができないとは思わなかったが、それでもゼフの知らないことがあるのは当然だと納得した。

 勿論、思いつくのが一つあるが、そうだった場合敵はセフがいた世界の覇王並という可能性が浮上する。


(いや、大丈夫だ。 あれは覇王のような化け物が保有する魔力にしては少なすぎる。 だが、警戒は怠らん)


 そう心に決意を抱く。

 Bランクであった自分がどれ程惨めで、世界に見放されてきたかを思い出す。

 だが、ここではなれるのだ。

 安全な世界を作るという理想を。


「大丈夫でしょうか、ゼフ様……」


 振り落とされないように、ゼフの身体に抱きついているサンからそんな声が聞こえる。

 サンからは表情は見えないが、ゼフが思い詰めたのを感じとったらしい。


「俺のことは心配するな。 それはそうと、これからの予定だが、街に着いたら三日間滞在する」

「直ぐには行かないのですか? もし、私のことを気遣ってのことでしたら……」

「安心しろ、仕込みをするだけだ」

「仕込みですか?」

「そうだ」

「では、その三日間はお暇ということですか?」

「まぁ、そういうことになるな」

「でしたら、法都で開催される武闘大会に出ては見てはどうですか?」


 サンが急にそんな提案をしてくる。

 それに少し驚いてしまう。


「まさかお前からそんなことを言われるとはな。 そもそもなんで開催される事を知ってるんだ?」

「アリシア様からお聞きしました」

「…… なるほどな、だがサンは俺がどれだけ弱いか知ってるのか? 名前からして魔法は使えないだろうから、それなら勝てないぞ」


 そう言いながら、後ろにいるサンの方に視線をやると、ポカンとした口を開けている。


「ゼフ様は武術もできるのではないのですか?」

「そんなことあるはずないだろ。 正直な話、俺から召喚魔法を取ればゴブリンにすら負ける自信がある」

「そうなのですか…… 申し訳ありません」

「いや、謝らなくていい。 それが俺の実力だ。 だが、そうだな。 一応毎日鍛えてはいるが、これからの為にやってみるのも悪くないな」


 ゼフがそう言うと、サンは眩しいほどの笑顔を向けてくる。

 別にこれは無理をしているわけではない。

 元の世界ではリジを手に入れる為に己を極限まで鍛え上げる必要がある。

 だから、召喚した魔物を主体とする召喚士は非常に少なかった。

 リジを手に入れるまでに時間がかかりすぎるのだ。

 主流としては、自分自身だけを鍛え上げ、召喚する魔物は全く強化せずに壁にするというものだ。

 こっちのタイプは召喚する魔物は弱い種族に限られるが、それを含めても他の職業にはできない召喚魔法が使えるという点では以外と人気である。

 ただ、剣士は剣だけでなく魔法や魔力を、魔導士は肉体や武術を鍛えて弱点を無くし、それに合わせて自らの長所を伸ばすというのが一般的なのだが、召喚士はそうはいかない。

 突出しているのが召喚魔法だけなのに、それを捨ててしまっているからだ。

 もう言わなくても分かると思うが、最も流行っていたのは召喚魔法を捨てるタイプだ。

 ゼフのような召喚士はいるには居たが、本人が弱すぎるというのが問題である。

 強い魔物を召喚することができるが、時間がかかる。

 また、本人の魔法が弱い為か探知魔法が常に蔓延っている世界では意味が無いのだ。

 召喚士の能力の一つである肩代わりもあるが、それも殆ど意味をなさい。

 だが、それはもう考える必要はない。

 そんなことを考えていると、サンが口を開く。

 

「ゼフ様、あれは何でしょうか?」


 サンが指差す先に見えたのは四つの人影。

 ここからでははっきりと顔まで見えないが、こちらに近づいてきている。


「敵対しないのなら無視だ。 だが、敵対するのなら殺す。 サンは俺の近くを離れるなよ」

「はい」


 そう警戒しながら近づいていく。

 そして、ある程度距離が縮まった所でその姿をハッキリと確認する。

 男が一人、女が三人のパーティーである。

 その距離が10歩というところで男が叫ぶ。


「お前がゼフか!」


 そう言われたので、ゼフはコゾクメに命令して、その歩みを止めるのだった。


 

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