第143話 処刑

 あの後、アクマリが降伏を宣言した。

 それにより、水都から出る事を禁じた。

 岩蟲と戦っていた兵士達もそれが分かると、戦いを中断し剣を捨てた。

 勿論、反論する者も居たが、見せしめで一人殺すと、驚くほど静かになった。

 そして、それから三日経った今日は水都での処刑の日である。


「サン、こっちに座れ」

「はい、ゼフ様」


 見晴らしのいい場所で広場の真ん中に置かれているギロチンを見つめる。

 水都の民達はあんなことがあったにも関わらず、元気な程うるさい。

 だが、それにも理由があった。

 それは好き好んでこの街に居たわけではないということだ。

 どういうことかというと、どうやらミリオンの誘惑の能力により無理やりアクマリを慕うように思考を弄られていたらしい。

 だからか、民達が叫ぶその言葉は殆どがアクマリを貶すものである。


「ふん、上に責任転嫁か。 随分とお気楽な奴らだ」

「これから彼らはどうなるのでしょうか?」

「地獄を見るだろうな、これからは蟲都とそれ以外の街とで区別をつける」

「区別をつける? 一体どのようにするのでしょうか?」

「非常に簡単だ、身体に紋章を刻めばいい」

「ということは、それで判別するということなのですね」

「ああ、そうだ。 蟲都を市民、それ以外を奴隷とするつもりだ。 奴隷にはさらに10個の階級に分け、上の者が下の者になんでも命令できるような法律を作る」

「ですが、そうすれば多数の死者が出るのでは?」

「ああ、だから街には蘇生魔法を使える蟲を常駐させるし、何よりその命令が適用外になる場合も用意してある」

「…… それは一体?」

「働いている場合だ、その場合は如何なることがあろうとも邪魔をしてはならない。 それを破った場合には一番下の階級に落ちるというわけだ。 そうすれば、上を目指そうと働くから街が発展する」

「それは素晴らしい考えですね!」


 サンとそんなことを話していると、民達の叫ぶ声がより一層盛り上がる。

 どうやら主役のアクマリが姿を現したらしい。

 ビートルウォリアに連れられ処刑台に上がる彼女の姿は以前の面影はもう無い。

 両手両足に繋がれた鎖をジャラジャラとさせながらギロチンに首をセットさせられる。


「面白い光景だな」


 それを見て笑うゼフ。

 パーフェクトロックにより、何もすることができないアクマリ。

 これ程気持ちいいことはない。


「死ね! アクマリ!」

「ふざけるな! この愚王が!」

「消えろ!」


 ゼフが話したいのだが、民達の罵声がそれでも鳴り止まない。

 そこで水都に屋根になっているヘヴン・アルタイルに命じる。

 すると、ヘヴン・アルタイルが身体を少し揺らす。

 特に驚くことではないただの動き。

 だが、民達には恐怖の象徴として映ってるからか、たったそれだけで誰一人声を発する者が居なくなった。


「静かになったな、いい判断だ。 さて、アクマリ。 今の気持ちはどうかな?」

「…… ゼフ、妾はお主を許さぬ! たとえ、ここで死のうとも末代まで呪ってやる!」

「ククク、随分と元気だな。 まぁ、それもそうか。 今日の為に試していないのだから」

「何を言っておる!」

「悪いな、お前はこれから死ねると思っているようだが、本当に死ねると思うのか?」

「なんじゃと……」


 その言葉でアクマリの脳裏に浮かんだのは、ミリアの言葉だった。

 特に気に求めていなかったが、あの時こう聞いた。

 ゼフは蘇生して殺すという拷問を良く行うと。

 それを思い出したアクマリの身体は震えだす。


「ククク、どうした身体が震えてるぞ? もしかして理解したか? お前は死ぬことができないのだと」

「悪魔…… お主は悪魔じゃ!」

「悪魔か、褒めるにしても他にあっただろ。 例えば蟲とかな」

「お主は狂っておる! 言動が! 感覚が! 理性が! 全てが!」

「狂って結構。 狂わずして最強を目指すことなどできない」


 その後、アクマリは沈黙する。

 どうやら、理解したようだ。

 自分の考えが甘かったということを。

 ゼフは笑いながら民達に話しかける。


「親愛なる蟲国の奴隷達よ。 君達には後でアリシアから説明があるはずだ。 しっかり聞くように。 もし、それを破ってしまえばどうなるかを元水都の女王陛下が実践してくれる。 絶対に目を離すなよ」


 そう言うと、ビートルウォリアーに指示を出す。

 そして、刃が落ちる。

 その時、アクマリは最後の力を振り絞り声を出す。


「妾は! 妾は! あああぁぁぁ!!!」


 断末魔を上げながら首が落とされる。

 そして、次の瞬間には近くに待機していた蘇生蟲に蘇生される。

 その光景を見届けるまでもなく、ゼフは立ち上がる。


「サン、行くぞ」

「は、はい!」

「アリシア、後のことは頼んだ」


 近くに控えていたアリシアにそう命令すると、軽いお辞儀を返す。

 それを確認したゼフはサンを連れて進み始める。


「どちらに行くのでしょうか?」

「これから取りに行く」

「取りに行くとは何をでしょうか?」

「世界を取るための残りのピースをだ」


 ゼフはサンにそう言葉を放つのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る