第142話 代償の力
「神よ! こんな妾を再び助けてくれるとは! なんたる光栄!」
先程まで絶望的な表情を浮かべていたアクマリが急に叫びだす。側から見ている者達はとうとう狂い出したかと感じる。そう、ゼフ以外は。
「ブレイート、アクマリに寄生しろ!」
ゼフがそう言うと、エルミアは気分が悪くなり口を開ける。その瞬間を狙い、体内にいたブレイートが口から飛び出す。大きさは人の親指より一回り小さいだろう。見た目は白、まるでカブトムシの幼虫のようだ。ブレイートはアクマリに近づき寄生しようとする。だが……。
「なるほど、寄生できないか……」
何かバリアのようなものに弾かれブレイートは地面に落ちる。そんなことがあったというのに、アクマリは再び口を開く。
「妾に力をお与えください!」
――あの悪魔を倒す為の力を与えよう――
アクマリはその言葉を聞いた瞬間、力が湧いてくるような感覚に陥る。バチバチと雷のようなものを体に纏いゼフを見据える。
「一時はどうなるかと思ったがの、ご覧の通り妾は力を手に入れた」
「阻害魔法又は抑制魔法により、こちらから干渉するのを防いだか…… ブレイートに使わせていた阻害魔法を防ぐレベルではあるということか。 少し舐めすぎたようなだな」
だが、それでもデス・レイによる追跡が始まっている。遅かれ早かれリジを与えている奴を特定する事ができるだろう。もうすぐ、そうもうすぐなのだ。
「ほっほっほっ、神がその程度のことも想定してないと思ったかえ?」
「神だ神だと言うが、本当にそれは神か?」
「なんじゃと?」
「お前が得たその力は毎日毎日寝る間を惜しみ、戦い、鍛え上げ、そしてようやく到達する力だ。 才能がある者でも五年は習得にかかると言われている。 それを何も努力せずに手に入れて、果たして身体は無事で済むだろうか?」
「何じゃと?」
その言葉にアクマリは疑問を投げかける。実際、身体には特に痛みもないし、意識もハッキリしている。そして、ミリオンに受けた誘惑の能力の異常も無くなっている。そんなことを確認していると、ゼフが再び口を開く。
「身体に異常はない。 だとしたら何を差し出せばいいか。 その候補は二つある。 まず、一つ目が膨大な魔力。 だが、それは俺レベルになってようやくといったところ。 では、何か。 それは二つ目の寿命だ」
「寿命じゃと?」
「そうだ、リジは代償で得るには凄まじい要求が必要だ。 それに等しいのは俺が考えられるのは寿命しかない。 気になるならミリアに見て貰えばどうだ?」
アクマリはその言葉を信じ、ミリアの方に顔を向ける。彼女はおどおどしながらも、アクマリを見つめる。
「どうなんじゃ、ミリア」
「…… 申し訳ありません、そこまで確認しておらず……」
「残念だ、所詮は宝の持ち腐れだな」
ゼフはそんな笑いを浮かべながらエルミアを指差す。
「お前なら理解していると思うが、念のため教えておいてやろう。 今この状況を脱するには俺を倒すか、そのまま捕まるかの二択だ。 前者を選択した場合、エルミアを殺す」
未だ疑問が解けず、気持ち悪く感じつつも、ゼフが提案した二択をどうするか考える。正直、ゼフの隙をつこうとも考えていたが、それも無理に等しいと感じていた。たったこれだけの距離が長く感じる。だが、それでも引くわけにはいかないのだ。例え、最も信頼していた者を殺されようとも。アクマリはゼフを見据えながら話し始める。
「エルミア、お主は妾の最も信頼しておる者じゃ。 お主は妾のことをどう思っておる?」
「アクマリ様…… 私はアクマリ様を慕っております。 例え、この命尽きようとも悔いはありません」
「…… そうか」
アクマリはその言葉で覚悟が決まったのだろう。アクマリは少しゼフに近づくと、魔法を発動させる。すると、彼女の周りに三つの魔法陣が現れ、そして青白い雷撃が放たれる。無詠唱で放った雷の攻撃魔法、ライトニング・レイザーは一直線にゼフの元に向かい直撃する。
「妾の力はこの程度ではない!」
そう叫ぶと、再び魔法陣が現れる。今度は八つである。ライトニング・レイザーはゼフを貫通して当たるが、微動だにせずに立っている。実はこの魔法、アクマリ自信使うのが初めてである。頭にこの魔法が浮かんだので使用したのである。かなり強い魔法なようだが、全く倒せない。それに焦りを覚え始める。
「どうした? この程度か? エルミア、クレアラトル、ミリアを失っても倒せない。 死んだ奴らが浮かばれないな」
「…… 何じゃと?」
その言葉を聞き、おそるおそる後ろを見る。そこには首から上から無くなったミリア、クレアラトル、エルミアが大量に血を流しながら地面倒れていた。確かに覚悟はしていた。しかし、アクマリは魔法に集中していたとは上、殺られる音も、エルミア達が倒れた時の音も全く聞こえなかった。
(一体どうやって殺られたんじゃ…… 。 ミリア、エルミアはともかくクレアラトルまで同じような殺られ方をしている…… 意味がわからぬ)
その全くわからない攻撃方法に怒りよりも恐怖が湧いてくる。額に大粒の汗を流しながらも、その未知の攻撃を警戒する。そして、叫ぶ。
「――サンダー・エルトラス――」
現れたのはライトニング・レイザーの魔法陣よりも五倍大きな魔法陣である。それがゼフの頭の上に張り付くように設置さる。そして、放たれる。凄まじいまでの音を立てて、ゼフの近くにいるサンをも巻き込むレベルの直径五mはあるだろうその雷は、雷柱を形成し、ゼフ達に襲いかかる。
(妾の使える最強の魔法、流石にあの男といえども無事で済まんはずじゃ……)
暫くすると、雷柱がゆっくりと消える。だが、そこでアクマリは驚愕する。何とゼフは無傷で立っていたからである。
「これで終わりか?」
「何じゃと…… 妾の魔法が」
「所詮は熟練度が低い魔法だ。 しかもリジを込めることもしていない、さらに一重魔法陣という攻撃魔法と、言ったらキリがないな」
その言葉で何かがとうとう切れたかのようにアクマリはバタンと地面に膝をつく。
「妾の負けじゃ……」
「最初からそう言えば良かったものの。 そうすれば、ミリア達も死なずに家畜になる程度で済んだというものの」
「どうして…… 妾の攻撃はどう防いだんじゃ…… それにエルミア達はどうやって……」
「全てデス・レイの魔法だ」
「なんじゃと……そんなことは」
ありえないと言いたかった。だが、認めてしまえば魔法という概念が壊れかねない。そんなことはできない。それを見て、話しても無駄だと感じゼフは勝手に話し始める。
「お前の攻撃は防御魔法のウォール、ミリア達を殺したのは転移魔法のリアーノ、そして防音魔法のレンケルトを使った」
「転移魔法? それはあり得ぬ! 一部を転移するなど!」
「ああ、そうだ。 低位の転移魔法ではそんなことはできない。 だが、高位の転移魔法はできるんだよ。 だから、阻害魔法は重要なんだよ」
「それでは…… その防音魔法も」
「ああ、それは俺の趣味だ」
「……趣味?」
「そうだ、お前はどんな表情をするのかと思っていたが、面白くなかったな」
アクマリはそこでようやく理解する。そもそも敵対するのが間違っていたのだと。この人間…… いや、人間かも分からない何かに。
「ククク、いい表情になった。 さて、それじゃあ終幕と行こうか」
アクマリはそんな楽しそうな悪魔の表情を見ることしかできなかった。
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