第141話 神の声
扉を開けたその先にアクマリ達がいた。だが、どうも様子がおかしい。アクマリは地面に膝まづいており、悪魔の数が1体少ない。きっと何かしらアクシデントがあったのだろう。だが、それはゼフにとっては関係のないことだ。
「久しぶりだな、アクマリ」
「ゼフか…… なんの用じゃ?」
「ククク、分かっているだろ。 お前だって」
強がるアクマリだが、やはりミリオンが使った誘惑の能力の反動が彼女の心を蝕んでおり、正常な判断ができないでいる。今もゼフが攻めてきたのに危機感を少ししか抱いていない。
「ゼフ、お前がこっちに裏切り者を忍び込ませていることはわかってるっちょ」
「なんだ、気づいていたのか」
その事実を知らないアクマリは驚きの表情を浮かべる。今までその可能性を考慮してクレアラトルの契約の能力により防いできたつもりだ。だが、それでも裏切り者が出たということは一体誰が……。そう思った時、1人思い浮かびその人物を凝視する。
「エルミア、まさか…… 裏切ったのかえ?」
「裏切っておりません! アクマリ様! 私は!」
「もうバレてるっちゃ!」
「クレアラトル、貴方はあの裏切った悪魔を信用するの!」
「そ、それは……」
「ククク、何か揉めているようだな。 特別に俺が答えを教えてやろう」
ゼフはそう言いながら歩み寄る。立ち上がったアクマリは不気味に感じつつも、その場から動かない。
「エルミアは裏切ってはいない。 だが、それが正しい事だと認識させた」
「どういうことじゃ?」
「エルミアは裏切るつもりなどないが、結果として裏切りと同等のことをしている。 そう、俺が召喚した寄生型の蟲であるブレイートによってな」
「なんじゃと? 一体いつ……」
「お前が俺を招待したあの日だよ。 エルミアの部屋に透明化させた待機させていたブレイートはそのまま寄生した。 だが、残念なことにこいつは生物自身を操ることなどできない」
今までの発言からアクマリはその蟲の能力を推察する。
「つまり、発言する言葉や行動の全てを正しいと認識させる蟲ということじゃな」
「そうだ、直接脳には寄生しないからこそ、使い勝手がいい。 だが、低位の隠蔽や阻害魔法しか使えない点から少し位階が高い探知魔法を使われれば見破られるという欠点もあるがな」
「じゃが、それで何になる! 妾にやったことは、お主にメリットがないじゃろう」
「調査隊を派遣したこと、あれは寄生したブレイートによるものだ。 ここまで言えばどういうことか分かるだろ?」
「まさか…… 賠償金を払う事が目的だったと……」
「ククク、そうだ。 そこまで言えばこの先を話す必要はないだろ?」」
普通では考えつくことのない事。だが、アクマリはそれによりこの先ゼフがやろうとしていることを想像してしまう。あまりにも恐ろしいことだ。
「じゃが、妾には覇王がおる。 それにお主はクレアラトルの契約の能力により妾に敵対行動はできんぞ」
「契約はお前が危惧していたように、魔法で無効化した。 覇王に関しては魔力が絶対の世界で、その程度の魔力では召喚できないことなど分かっている。まあ、大体の全てエルミアから聞いているから、気になるなら直接聞くといい」
「なんじゃと……」
アクマリはそこで全てを理解する。自分はこの男の掌の上で踊っていただけだったのだと。
「それはおかしいです!」
だが、そんな絶望的な雰囲気が漂っている中、ミリアが叫ぶ。
「裏切り者の分際でなんだ? 今回は特別に聞いてやろう」
「貴方はブレイートをエルミアに寄生させたと言っていましたが、それを気づかない私ではありません」
そう、普通はミリアの能力である神眼で見る事ができるはずなのだ。
「ククク、確かにそれは最もな疑問だ。 特別に教えてやろう。 お前の神眼で気付かないのはかなりのレベルの魔法か、能力だ。 ブレイートは低位の魔法しか使えない、だったら強力な蟲に代わりに使ってもらえればいいと思わないか?」
「それは不可能です!」
「何故そう言い切れる?」
「私の神眼は最大3km先の情報も得られます。 その付近に貴方の蟲は見当たらなかった!」
「ああ、そういうことか」
ミリアは知らないのだ。全ての魔法や能力には熟練度があり、それを鍛えることで威力や必要魔力、そして射程などが変わる事を。終焉種を例に挙げるとするならば全ての能力と魔法の熟練度が100年間休みなく毎日鍛えたとしても到達できない領域であり、その射程はこの星程度なら容易に全ての場所に魔法を発動させる事ができる。
「ミリア、お前は危険を冒したとしてもデス・レイのことを見るべきだったな。 そうすれば、ほぼ全てのことに絡んでいると気づけたというのに。 いや、見たとしてもあまりの情報量の多さに頭がパンクするか」
「まさか…… その蟲がやったというの……」
その言葉でミリアはなんとなく理解する。まさか魔法がこんな場所にまで届くとは思いもしなかったのだ。
「さて、アクマリ。 全ての謎が解けた事で、お前には俺の野望の手助けをしてもらうぞ」
ゼフはそう言うと、こちらにゆっくりと近づいてくる。ミリオンに嵌められ、エルミアに裏切られ、ゼフに力を見破られた彼女はもう勝てる見込みがない。
(妾もここで終わりか…… 呆気ない幕引きじゃったな)
だが、そんな時何かが自分の体内に入り込むような感覚に陥る。そして、聞こえたのだ。
――力が欲しいかい?――
という神の声を。
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