第140話 敵は化け物

アクマリ達は暗い廊下を歩く。聞こえるのは彼女達の足音だけであり、本当に沢山の使用人がいるのか疑問に思うほど静かである。


「アクマリ様」


「なんじゃエルミア」


「お逃げになられるのですか?」


「ほっほっほっ、エルミアよ。 妾は逃げも隠れもせん」


「では、どうして玉座の間にある裏口に向かうのですか?」


「戦うための準備をするためじゃ」


「戦うため…… ですか?」


「そうじゃ、メッセージの魔法が入った魔道具が使えなかったじゃろ? おそらく魔法を阻害する何かが働いておる。 それから考えられるのは、敵に攻められてるということじゃ」


「なるほど…… では、敵が来る前に急ぎましょう」


「頼む」


エルミアは辺りを警戒しつつ、足早に進んでいく。ここまで全て最短でやってきた。そもそも敵が攻めてきたなら鐘がなるはずだ。そんなことを考えつつも焦りが増す。アクマリが警戒するのは自分の知らない力、予想もし得ない力。今回もその中の1つなのだろう。やがて大きな扉の前に着くと、エルミアは扉を開ける。


(特に異常はなし…… これでは拍子抜けじゃな)


敵がいないことを確認したアクマリは玉座の間に置かれている椅子の裏を少し弄ると、近くの壁が動き道ができる。


「お主達はここで待っておれ。 警戒は怠るでないぞ」


「わかりました」


エルミアがそう言いながら膝まづき頭を下げる。その後ろにいるミリアも同じようにしている。悪魔達は相変わらず偉そうだが……。アクマリがその部屋に入っていくと、僅かな静寂が訪れる。


「さて、アクマリ様が戻ってくるまでこの場所を守る。 しっかり働けよ」


「何当たり前のことを言ってるっちゃ、俺達が契約を結んだ人間を守る使命があるっちゃ」


「そうか、だったらいい」


「そういえば、エルミアさん」


ミリオンが顎を触りながらエルミアに問う。


「なんだ?」


「私、1つ腑に落ちない事がありまして。 数日前、貴方は調査隊を派遣するように提案しましたよね?」


「ああ、それがどうした?」


「何故それを提案したんですか? 私、それがどうも納得いかないのです。 そう、何処かピースが欠けたみたいに」


「あの時も言ったはずだ、ミリアの嘘を暴き、終焉種の力を確かめる、その為だと」


「いえ、違いますよ。 前者は合っていますが、後者はアクマリさんが言ったことですよ? それなら調査隊を派遣しなくても他の簡単な方法がある。 アクマリさんは貴方を信頼しているからそれを呑むことにしたようですが」


「では、何故その時言わなかったんだ」


「私も後で気づきました。 そう、それは蟲都の内情をこちらに流れてきた人間に問いただしている時です。 それはそれは酷いようでした。 罪を犯してしまえば、更生の余地無しに死ぬより辛い目に合うと言ってました。 しかもそれがどんな小さい事でも」


「…… どういうことだ?」


「まだ分かりませんか? 私は疑ってるんですよ。 貴方が蟲都の評価を下げる手助けをしたんじゃないかと。 つまり、水都を裏切ってるんじゃないかと」


その言葉にその場にいるものは驚愕する。ミリオンは余裕の表情で続ける。


「私の能力である誘惑は他者に人の好奇心を入れ替える能力でしてね。 この街の人間達は全てアクマリさんがどれだけ素晴らしいかということと入れ替えさせてもらいましたよ」


「そんな能力っちゃたか」


「そう言えば貴方にも言ってませんでしたね。 話を戻しますと、その能力の弱点は同じ精神系統に属する魔法や能力により、先に弄られていては効かないということです。 この能力を使ってなかったのは、アクマリさんと貴方ですよ」


「…… だが、それで私が裏切っているとはならないだろう」


「残念ながら分かるんですよ。 私の誘惑能力はそれが正常に発どうしてるからどうか分かるんですよ。 先程から貴方にはずっとかけていますが、効いてないですね」


「そうなのっちゃ?」


「ええ、そうです」


「…… エルミアさん」


そんな話を終えた丁度いいタイミングでアクマリが戻ってくる。手には鏡のようなものを持っている。


「何をしてるんじゃ」


「アクマリさん、戻ってきたのですね。 では、水都の秘宝である姿写しの鏡でしたっけ? その魔道具をこちらに渡してください」


「ああ、勿論じゃ」


「「「え?」」」


アクマリは持っているその魔道具をミリオンに渡す。その意味が分からない行動に全員の声が重なる。


「何してるっちゃ、ミリオン」


「ああ、そういえば言ってませんでしたね。 クレアラトルさん、ここでお別れです。 この街はもう長くないですよ」


「何言ってるっちゃ! ミリオン!」


「理解してないようですね、では簡潔に述べますと、第3戦力の介入、つまり2人目の裏切りですね」


「そ、そんなのありえないっちゃ! お前はアクマリと契約したちゃ! 契約した人間は守らなきゃいけないっちゃないのかっちゃ!」


「契約ね…… 実はあれにも抜け道があるんですよ」


「…… 抜け道?」


「そうですよ、1度契約してしまえば、その契約者が死ぬまで他の者と契約することはできず、破棄することはできない。 言い換えれば、契約をその者以外に行っても契約する事ができないですよ」


「そ、そんな裏道が……」


「ミリオン、何をしておる。 時間がないのじゃろ?」


「そうでした、ではまた会いましょう。 傀儡の女王と愚かなその仲間達よ。 では最後に」


ミリオンは鏡にクレアラトルを写すと、その場から姿を消す。おそらく転移魔法を使ったのだろう。ミリオンが姿を消したと同時にアクマリが膝から崩れる。


「妾は一体何をしておるんじゃ…… 何を……」


「アクマリ! 逃げるっちゃ!」


「クレアラトル……」


精神系統の能力を連続して使われた兆候が出ている。今はアクマリは使い物にならない。だが、タイミングが良いと言うべきか、悪いと言うべきか、扉が開かれる。そこには不気味な笑みを浮かべたゼフと後ろに控えているサンが姿を現したのだった。



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