第139話 崩壊の序章

船の甲板、そこで岩蟲を召喚し続けていたゼフだが、1度召喚をやめる。そして、水都を見下ろす。予想通りと言うべきか、船や馬車で逃げているのが見受けられる。


「ククク、それでいい。 それがお前達が生き残れる最善の選択なのだから」


「ゼフ様」


ゼフがそんなことを呟いていると、隣で同じように水都を見下ろしてるサンから声がかかる。


「どうしたサン」


「水都の人間達を逃しても良かったでしょうか?」


「別に構わん、どうせ逃げることなどできないのだから」


「…… どういうことでしょうか?」


「あれを見てみろ」


ゼフが水都から離れた場所を指差す。視線を移すと、そこには白と銀で光り輝く神秘的な蜘蛛のような蟲がいた。ここからでもはっきりと分かる程の大きさは優に水都を超える。その巨体を折れてしまいそうな6本の細い足で支えれてることに驚きを隠せない。


「あれは、ヘヴン・アルタイルだ。 馬車などで逃げてきた人間を蟲都に転移魔法を使って送っている。 今はデス・レイによって転移魔法を含む少数の魔法を使えるようにしてある」


「あれがなのですね……」


「そうだ、他にも船で逃げようとする奴はレナニーという蟲に同じように転移魔法を使わせている」


「そういうことなのですね、では蟲都に送ってると仰ってましたが、その人間で何をなさるおつもりなのですか?」


「俺はな全ての街を併合して1つの国を作ろうと考えてる。 その為には区別は必要だろう? 蟲都に住んでいる人間か、それ以外の街に住んでる奴隷かと」


「ということは、残りの街も水都のように支配するのですか?」


「ああ、そのつもりだ。 だが、今回のように面倒なことはしなくてもいい。 他の街は既に水都の支配下なのだから」


「水都を支配すれば他の街を支配したことになるということですか?」


「ああ、そうだ。 この街を墜とせば俺が必要なものは1つだけだ」


「その1つとは、一体なんでしょうか?」


サンのその問いにゼフは笑う。


「知識だ、それも生半可なものではない圧倒的なまでの程のな。 水都を少し離れたところに大きな森があるだろ? そこにはエルフが住んでいるらしい」


「エルフですか?」


「そうだ、どうやら俺らがいるこの場所と最果ての地と呼ばれる強力な魔物が住んでいる場所の均衡を保っているようだ。 それ故に帰ってきた者は誰1人としておらず、またこちらに来た魔物もいないようだ」


「殺されてるということですか?」


「さあな、だがそのようなことができるのも後少しだ。 さて、そろそろいい感じに減ったな。 行くぞ、サン」


「はい、ゼフ様」


ゼフはそう言うと、サンの手を掴む。いきなりのことで驚くサンだが、それを握り返す。そして、飛行魔法がジ・ザーズによってかけられた2人は船から飛び降りて、そのまま水城に飛んでいくのだった。



✳︎✳︎✳︎


いつもの夜、その筈だが自室で眠っていたアクマリは何故か目が覚める。特にうるさいこともなく、いつもの静かな部屋だが、今日は静かすぎる。それが逆に彼女に嫌な印象を与えていた。


「クレアラトル、ミリオン。 おるかの」


アクマリがそう名前を呼ぶと、どこからともなく姿を現す。


「どうしたっちゃ」


「こんな時間に何か用でしょうか?」


「お主達、何か変ではないかの」


「変ですか…… いえ、特にそのようなことは無いと思いますが」


「ふむ、少し窓を開けてくれるかの」


「わかったちゃ」


クレアラトルは窓に近づくと、勢いよく開く。しかし、そこはいつもの静かな水都があった。


「特に変わったことないっちゃね」


「ふむ、確かにおかしいところは音以外ないのう。 じゃが、念のためじゃ。 ミリオンとクレアラトルはそこにある魔道具で連絡を取るのじゃ。 妾は少し着替えてこよう」


「了解っちゃ」


「分かりました」


そうして、各々が自分のやるべきことをやり始める。 そして、数分後アクマリは着替え終わる。


「どうじゃ? 返答はあったか?」


「いえ、ないです。 というか、繋がらないです」


「こっちもっちゃ」


「ふむ、やはり何かおかしいのう。 仕方ない、少し出るかのう」


アクマリはそう言うと、ランタンを持ち扉を開けて出ていく。後ろには2匹の悪魔が続く。向かう先はエルミアの部屋である。この時間帯に出歩いた事がないからか廊下に飾れている装飾品などが不気味に感じる。もう直ぐ着くだらうといった時、端の方に人影が見える。


「そこにおるのは誰じゃ」


そう声を上げるが、返答の言葉が返ってこない。仕方ないので近づこうと思った時、人影が立ち上がる。ランタンの明かりで照らすとそれは怯えているミリアであった。


「…… アクマリ様」


「ミリア、お主このようなところで何をしておる?」


「部屋が不気味に感じたので……」


この場所の方が不気味だろう、ということは特に言わない。きっと神眼を持つミリアだからこそ感じるものがあるのだろう。


「お主も来るが良い」


「…… わかりました」



ミリアを加えたアクマリは、エルミアの部屋に着くとノックをする。すると、扉の向こうでドタバタという音が聞こえる。そして、その数秒後扉が開かれる。


「どちら様で…… あ、アクマリ様! どうなさいましたか?」


「エルミアよ、妾はお主にメッセージを送ったんじゃが、届いてるかのう?」


「メッセージですか? いえ、届いてないです」


「ふむ、そうか」


今までの状況を把握し、解析する。そして、答えを出したアクマリは口を開く。


「どうも嫌な予感がする。 エルミアよ、剣を持って妾の護衛をせい。 玉座の間にある裏口に向かう」


「わかりました」


特にそれに反論する事なく、エムニアは従いの意を示す。直ぐに剣を取ってきたエムニアを加え、アクマリ達はそのまま玉座の間に向かうのだった。



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